三五戒 新たに
意識がある状態で身体が勝手に動いている経験は無かったが、感覚はジェットコースターに似ていた。視点と動きが制限されて、眼前で戦いが繰り広げられている緊迫感が少し楽しい。
「僕から離れても君は何も出来ないよ!」
「はっ、お前の中にいる短い時間で、俺は少しグレちまったみたいだ!」
お互いがお互いの攻撃をわかっているかの様な攻防が続いていく。拳に合わせた手や、脚に合わせたステップなど、まるで熟年の社交ダンサー同士の戦いだった。
見ていて面白く、自分の体なのに、不思議と危機感のようなものは無かった。もちろん、使千が使千? を殴った感触だったり、逆に殴られた痛みはある。
長い時間攻防を繰り広げているうちに、咲に使千が音を上げた。
「チッ、埒が明かねぇな。おい虎閃、なんか良い技お見舞いしてくれ。」
そう言うと、身体の支配権が俺に戻った。了承してないのに、勝手なやつだ。
「あー、ったくしょうがねぇな。」
俺は使千? から大きく飛び退き少しぴょんぴょん跳ねる。
「あー、頭取ってもいいか?」
俺が使千に聞くと、彼は構わないと言った。
「逃げるなー!」
大手を振って追いかけてきた使千? の腕を跳ね除け、使千? の懐に潜り左脚を自分の右側へ踏み込ませる。
「虎牙!」
パン――
1度の音で2回の蹴りを入れることが出来た。頭を狙った2発の蹴りは使千の頭を吹き飛ばすには十分の威力だった。
転がる頭から喚き声が聞こえる。身体もウロウロして、しばらくするとバランスを崩したのか倒れてしまった。
俺は使千? の頭を拾い上げると暴れていた訳を聞いた。
「僕は…、みんなみたいに鮮やかな色が分からないし、みんなみたいに美味しいものが食べれないし、みんなみたいに綺麗な音が聞けないし、みんなみたいに…………。」
子供と話しているみたいだった。使千がある時言っていた、自分は使千器だから人間の感覚は無い、ってことを思い出した。使千はまだ人間の体を通してコーラという刺激を得れていたが、この使千? は身体の大部分が使千器のためその刺激を受けれないのだろう。
泣きじゃくる使千? に俺は何も言うことが出来ずにいると、スタスタと後ろから近づいてくる音が聞こえてきた。
「大丈夫?」
闇犬が優しい声色で話しかけてきた。俺ではなく使千? に。
闇犬は俺から使千? の頭を取ると、俺から少し離れた場所で使千? と会話をし始めた。2人が何を話しているか分からなかったが、険悪な雰囲気では無かった。
ふとクロートーさんの方を見ると、こちらに寄ってきた。完全に置いてけぼりになっていたクロートーさんに事情を説明している途中で、使千が自分で話すと言い、そこから使千が自分の境遇などの話をした。




