二三戒 心火
ハチマキの男は他の信者とは違った。明らかに他とは違う筋肉量、綺麗な足の踏み方、重みの乗った拳。どれをとってもそう簡単に得れるものでは無い、相当な鍛錬の末に獲得した物なのだろう。しかし、俺はわざと負ける気は無かった。たしかにこの男は他より強い、でもそれは人間相手ならの話だ。俺は戒盾十三人、人間離れした身体能力とほぼ本家の虎流神討の使い手、ハチマキの男が勝てる要素は1つもない。
拳を捌き、蹴りを流し、死なない程度の攻撃を相手に打つ。ハチマキの男はたじろぐが、一向に引く気配が無かった。
「あー、お前は俺に勝てないよ。」
「それは負けたヤツが決めることだ! 」
男の目には燃える何かが見えた。俺にはない、真っ直ぐで目的を持ったような、そんなものが。
「あなたが強いのは分かる。しかし、私は負けるわけにはいかない。戦闘教の頂点に立ち、虎二様と肩を並べて戦いたい。」
そうか、そのために強いやつに挑んで強引なレベルアップをしているのか。
「あー悪い、親父は殺した。」
ハチマキの男の攻撃が止まる。
「……は? 」
「あーだから、虎二は俺の親父で、さっきぶっ殺してきた。」
ハチマキの男は下を向き、聞き取れない声でブツブツ言い始めた。
「……ない。そん…わ……い。そんなわけない! 」
怒りと動揺で鈍った拳を打ってきた。俺はその隙をついて男の懐に潜り込みアッパーカットを入れる。
ボギャ――
顎が砕け歯が削れる音がした。男はそのまま倒れ込み腕で目を覆った。
「そんな…わけないんだ……。虎二様が……、こんなガキなんかに…………。」
「おい。」
ハチマキの男は覆っていた腕をおろし、俺を見上げた。
「親父が何したか知らねぇけどよ、闘いにおいて親父は必要なのか? 最終目的に親父の隣にいるってのがあるとしても、その目的の途中で敵に油断するのはどうかと思うぞ。親父の隣もクソもねぇだろ。」
男の目は何かに気づいたかのような目に変わり、そこから更に何かを憎む目に変わった。先程の闘気が再び満ち、男は起き上がった。
「お前に……、虎二様を殺したお前にそんな事言う資格は無いッ! 」
男は再度立ち向かってきた。怒りは人間の起爆剤だということがよく分かる。打ってくる拳に怒りと殺意が乗っている。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。」
俺は前へ踏み込む。右拳を肩と平行に持っていき左の手のひらを上に向けて前に伸ばす。
「あー、本気で答えよう、お前の闘気に。」
俺は俺の技の中で最強最高の技を構えた。ハチマキの男は、俺の技とは相反する技を構える。
「判虎! 」
「極限駆動! 」
相反する技のぶつかり合いは、今まで聞いたどの音よりも大きく響き、肌で感じる熱量や気迫が段違いに伝わってきた。




