一九戒 殺意
神雷槍は確実に決まった。親父に風穴を開け、傷口には青い閃光が残っている。しかし親父はこの程度では倒れない。
「おい虎閃! 相手は十二支だぞ! まだまだくたばらねぇぞ! 」
そう、親父は不死身の体を持つ十二支。いくら傷をつけても再生し、全て無かったことになる。
「おー、痛いぜ。それにしても速いな、全然動きが見えないぞ。」
「あー、それはどうも。今ので俺の方が強いって分かっただろ、使千器くれよ。」
親父は血の混じった唾を吐き捨て拳を握る。
「確かに速い。だけど、俺の教えた虎流神討には、速さに対応できる技ある。忘れたか?」
親父は全ての力を抜き地面に寝転がる。そこから脱力に脱力を重ね、まるで人の形をした水風船のようにブニブニの物体になる。
「打ってこいよ。」
これは『流反剛』という技だ。自分の体に触れた物に反撃をするというシンプルな効果だが、脱力しきった身体から繰り出される、速さと重みの乗った攻撃は非常に強力で、建物1つぶっ壊れる程のパワーがある。人間がまともに喰らえば頭蓋骨は跡形も無くなるだろう。
これを破るためには、反撃を躱す速さか、反撃に耐える硬さが必要になってくる。前者はやろうと思えばできる。しかし相当な体力と集中力が必要になるだろう。1つ1つの攻撃でいちいち全身全霊をぶつける様な事をしていたら、こちらが先に倒れてしまう。となると突破方法は後者だ。
虎流神討はバランスの取れた流派、滅神閃光は速さに特化した流派になっている。これは、もしものために考えていたもう1つの流派を出すしかない。
「おー? まだなんかあるのか? 」
天に手をかざし空を掴む。その掴んだ空を一気に地面に叩きつける。
「おーまた新しい流派か? 」
「あーそうだ。」
俺は胸の前で腕を交差させる。
「反玖月」
この流派は一長一短だ。構えれば筋肉が膨張、硬直し、ダイヤよりも硬い肉体を得られる。だが関節まで筋肉が侵食するため、硬直した筋肉が邪魔で関節が曲げられず、速さのある拳や蹴りは打てなくなる。
「親父を一時戦闘不能にして、親父の使千器を奪ってトンズラする! 」
俺はブニブニの親父に硬い拳を打ち付ける。当然、親父から反撃が飛んでくるが、反玖月を構えていてもめちゃくちゃ痛い。なんなら骨にヒビが入ったかもしれない。
「硬いなっ! でも効いてるだろ! 」
バコスコ殴っても手痛い反撃が飛んでくる一方だ。めちゃめちゃ厄介な技だな流反剛。
変わらない状況に手を焼き、周りを見ると、使千が何処にもいなかった。戦闘に集中しすぎて、周りを見る余裕が無かった。
「蒼猪さん、使千は? あとなんかいいアイディア無い? 」
「おい、お前は女に助けを求めるのか? 」
反論してきたのは親父だった。親父は普通の状態戻り、俺に近寄ってくる。一方、蒼猪さんは多分キレて、刀を抜いて親父に近づいていく。
「おい、あたしが女だからなんだ? 」
「引っ込んでろクソアマが。」
親父は今までに無いぐらい強い力で蒼猪さんの腹に一撃入れた。蒼猪さんはその場に倒れ込み、いくら揺さぶっても起きなかった。
「親父……、蒼猪さんに助けを求めたのは俺だけどよ、女の子に俺より強いの入れるってのはどうなんだ? 」
俺はその時、初めて肉親を本気で殺す事を考えた。




