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57.久しぶり、先輩

 窓枠から身を乗り出し、ライフルを構える。これなら馬車の中からでも、しっかり戦況が見える。


 狙いは、敵が木から飛び出してきたタイミングだ。


 オウミさんたちの銃はリロードに時間がかかる、それはすでに相手も理解しているだろう。


 だから、そこに合わせる。


 呼吸を整え、ブレを最小限に。


 バラバラなリロードが重なる瞬間──今だ。


 ドウッ!


「わっ!」


 撃った瞬間、僕は後ろに転がってしまった。さすがに反動が大きい。窓枠に置くだけじゃ不安定か。


 ライフルの感覚を体に覚えさせながら起き上がり、スコープを除いて今撃った方を見る。


 期待通り、リロードのタイミングを狙って出てきた盗賊に当たっていた。


 彼はお腹のあたりを押さえて倒れ、苦悶の表情を浮かべている。だけど死んではいない。


(威力は十分、頭にさえ当てなければ大丈夫かな。問題は撃ち方だ)


「ごめんごめんユウくん! 反動強すぎたね、次は私が支えておこう」


「え、ちょっと」


 二射目をどうするか迷っていると、後ろからカオルが身体を密着させてきた。


「これくらいかなー」


 カオルはやや強引に僕を固定する。彼女の柔らかい身体は上質なクッションとなっていた。

 けれど皮肉なことに、僕の方はどんどん固く強張ってしまう。


「息が荒くなってるよユウくん。今はエッチなこと考えちゃダメ! リラックスリラックス〜」


 そんなことを言いながら、カオルはどんどん押し当ててくる。


 僕が悶々とする中、さらに後ろからはマルカの呆れた声が聞こえてきた。


「カオルさん、わざとやってませんか?」


「おっ、ようやくいつものマルカに戻ったね。言っとくけどこれは不可抗力だよ。撃つたびにユウくんが吹っ飛ぶんじゃ危ないからね。決して楽しんでるわけじゃあない」


「ふ〜ん……」


「ね、念のためマルカも支えてくれ。その方が安定するから」


「分かりました。それじゃ」


 より体が固定される感覚が後ろから伝わってくる。

 たぶん、マルカがカオルにしがみついている状態だ。


「うわ柔らか……確かにこれならしっかり支えられますね」


「待って待って! おっぱい揉まないで! なにやってんのマルカ⁉︎」


「ハッ⁉︎ ご、ごめんなさい、手が勝手に!」


「だめだめ。これはユウくんのものなんだから」


「そ、そうですよね。ユウくんのですよね」


「2人とも静かにしてて! 集中できない!」


 マルカが元気を取り戻したのは良いけど、なんだか方向性がよろしくない。


 狙撃は余計な事を考えないのが重要なのに、これじゃまるでダメだ。


(意識をスコープの向こうに……)


 背中ではなく前面に神経を集中させる。

 今僕がするべきことは、敵の制圧とオウミさんの救出なんだから。


(出た)


(ここ)


「さっすがユウくん! 完璧だ!」

「スゴイ……本当に、殺さずに済むんですね……!」


 落ち着いて、敵が出てきた瞬間を切り取るようにトリガーを引いていく。


 盗賊は、オ(・)ウ(・)ミ(・)さ(・)ん(・)た(・)ち(・)の(・)も(・)の(・)と(・)は(・)違(・)う(・)銃(・)撃(・)を警戒している様子だ。段々と、体を晒す者が少なくなってきた。


 これでは狙えない。でも、そうして動きを止めた連中はオウミさんや冒険者たちが倒してくれる。

 それから逃れようと姿を見せた相手は、オウミグループ構成員が仕留める。銃が良いのか彼らの腕が良いのか、命中率はなかなかのものだ。


 当然、僕も積極的に狙撃する。みんな殺さないように気をつけているとはいえ、鉛弾とゴム弾じゃ生存率が違う。


 できる限り、僕が倒すんだ。


 撃つたびに背中でカオルの胸がムニュッと潰れる感覚に耐えながら、制圧を続けた。



 〜〜〜〜〜



「増援が止んだみたいだ」


 次々と現れる盗賊を倒し続けてしばらく経った頃、ようやく闘争の気配がおさまった。


 護衛の冒険者たちは、戦闘不能になった盗賊を縛り上げ、そこから少し離れた位置では、オウミさんが部下たちと何か話をしている。


 戦闘は終了したんだ。


 敵方に数名の死者は出たものの、こっちはちょっとした怪我人だけ。上々だ。


「終わったか。犠牲者が出たのは残念だが、彼らの世界ってのはそういうものだ。悲しいけど仕方がない……大丈夫? マルカ」


「…………はい。まだ頭にこびりついてますけど、どうにか」


「うん。辛くなったら我慢しなくていいからね」


 マルカの顔色もだいぶ良くなった。無理は禁物だけど、旅は続けられそうだ


「よし! それじゃあちょっとオウミさんと話してこようか。さすがに事情を知っておかないとヤバそうだし」


 そもそも何故こんなことになったのかを確かめるため、僕たちは馬車を降りて彼の元に向かう。


 外に出ると、一番に死体が目に飛び込んできた。パーヴァートさんに貫かれ、ずり落ちて死んでいった、彼が。


 マルカが咄嗟に口を押さえる。けれど彼女は堪え切り、少しの間目をつむってから、前を向いて歩き出した。


 カオルは何も言わず、マルカの頭を撫でる。ちょっとだけ、マルカの表情が和らいだ気がした。


「おお、君たちか。先程は助かったぞ! まさかそんなものを用意していたとはな! 少年も本当に戦えるとは思わなかった!」


 オウミさんの近くまで行くと、彼の方から勢い良く話しかけてきた。


 シルクのような衣服は返り血で汚れ、猟奇的な色調になってしまっている。

 その服と元気な彼のアンバランスさが、オウミさんという人物の異常性を強調していた。


「武器の話は置いといて、まず彼らが何者か説明してもらえます?」


「ああ失敬。確かに、君たちには話しておいてもいいな────」


「くそおおおアアアッッッ! お前だけはぶっ殺してやる! オウミィッ!」


「な、なんだぁっ⁉︎」


 オウミさんが話を続けようとすると、突然、縛られていた盗賊の1人が大声を出して暴れ出した。


「テメッ何やってんだ! ぶっ殺すぞコラァ!」


 アニキに脅されても、彼は暴れるのをやめない。


「うっ……うごおおおえっ……ゔぇっ」


 ひとしきり暴れると、彼は口から光る何かを吐き出した。


「あれは……?」


「くたばれ────”フィオガ・グリゴラ”」


 彼がその言葉を唱えると、吐き出された光る物体が飛び上がり、弾けた。


 光の粒が空中に広がる。

 この光、間違いない。


 マ(・)ナ(・)だ。


 僕が認識するのと同時に、マナは再度収束し、大きな火球へと姿を変えた。


(魔法か……!)


 予想外の事態に、頭は追いついても体が動かない。


 この中で唯一魔法に対処できそうなカオルも、口を開けて火球を見ている。


 その火球は周りの木を焦がし、速度を増しながら、オウミさんへ迫っていく。


 魔法は貴族のみが使える秘匿された技術のはず。なぜ彼が? まさか彼は貴族? 貴族がなぜヤクザや盗賊に?


 怒涛の謎が押し寄せる。でもそれどころじゃない。


 この大きさ、オウミさんだけじゃなく、僕たちも巻き込まれる!


「カオルッ」


 パーヴァートさんが走ってくるのが見え、それから堰を切ったように全員が動き出す。


 だけどこのままじゃ間に合わない。火球が速すぎる……!



「──反発(アブシュトーソン)」



 ヴゥン、ドヒュッ。


 この後に起こることを考え、思わず目を閉じてしまった時だった。


 女性の声が、窮地を切り裂き通り抜けた。


 目を開けると、そこにはピンク色のツインテールを携えた少女が立っていて、彼女が構える半透明の盾によって火球は空高く打ち上がり、消え去るように爆ぜた。


「盗賊が出るっていうから来てみたら、まさかこんなことになってるとはね。あ、そこのアンタ、そいつブン殴っといて」


 彼女はこの状況を当然のように受け流し、アニキに命令する。


 アニキはわけがわからないといった顔で、とりあえず盗賊を殴り気絶させた。


 一連の流れが唐突すぎて、誰も口を挟めない。この少女は一体何者なのか、皆目検討がつかない様子だった。


 ────ひ(・)と(・)り(・)を除いて。


「その声……その髪……」


 僕の隣から、涙に滲んだ息遣いが聞こえる。


 見ると、嬉しさに打ち震え、ずっと探していた人に会えたかのような反応をしているカオルがいた。


(まさか彼女は)


 少女が振り向き、カオルと対面する。


「久しぶり、先輩」


「アレクシア!」


 僕たちを救ってくれた少女は、僕たちが探し求めていた相手、アレクシア=ヴァーンスタインその人だった。

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