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5.目的。そしてショタコン

「サ、サキュバス⁉」


 デザインチルドレンの俺が言うのもなんだが、崎谷薫が人間ではないなんて予想していなかった。しかも250歳……⁉︎


「フフ、当然そんな反応になるよね。それじゃあ証拠を見せてあげよう」


 そう言った瞬間彼女の目が青く光り、怪しげなオーラを放った。


「んっ……これでどうかな?」


 少しだけ体を震わせた後、彼女の側頭部から金色の角が伸びてきた。赤い髪を掻き分け姿を覗かせるそれは、悪魔を連想させる形状でありながらも(つや)のある色気を漂わせている。


 さらに身に付けていたキャミソールとデニムの隙間、そこには黒く細長い尻尾がなまめかしく動き、羽織っている白衣の色とコントラストを成している。あれは腰の辺りから生えているのだろうか。尻尾の先端はトランプのスペードに近い形で、矢尻のように見えなくもない。


「ホントは羽も出せるんだが、あれ服が破れちゃうから嫌なんだよ。一応魔術で直せるはずだけどやり方が分からなくてね」


 彼女は体を元に戻しながら、軽く髪を整える。


 (サラッと口にしたが、今確かに魔術と言ったか?)


そんなものが実在するとは到底思えないが、目の前で変身を見せられたのだ、受け入れるしかない。


(本当にサキュバスなのか。あの、本でしか見たことがない伝説の淫魔族……)

「サキュバスそのものは君も馴染みがなくはないだろう? 異世界転生モノとかけっこう読んでるみたいだし」

「……どうしてそれを?」


 確かに読んでいるが、それが分かるのはごく一部の連中だけのはず。彼女は俺のことを知っているようだが、そんなプライベートまで?


「だってほら、私に『異世界で勇者にでもなるつもりか』って聞いてきたじゃないか」

「あ、確か――」


 崎谷を捕まえようとしたとき、彼女が異世界へ行きたがっている旨を聞いた。それに対して俺はそう答えたんだった。


「日頃から読んでないとあんな発想にはならないからね。兵士はそういうのに疎いと思っていたのだけど、意外と自由な面もあったのかい?」

「……メンタルケアの一環としてね。肝心なところで精神が壊れないように、定期的に娯楽を与えられていたんだ。アニメ、ゲーム、漫画……色々と触れて……その中でも僕は異世界転生にハマった。日常が地獄だったから、現実世界から異世界へ行く設定に惹かれたんだと思う」


 べらべらと自分の秘密を話す。理由は分からないが、この人になら喋ってもいい気がしていた。


「私のせいで、君のような子が造られてしまったのか……ごめんね」


 彼女はまた沈痛な面持ちを向け、消え入りそうな声で謝罪を述べる。元の宿敵とはいえ、絶世の美貌を持った女性のしおらしい姿を見て、だんだんと気まずい気持ちになってきた。


 いたたまれなくなった俺は無理やり話を変えた。


「カオルはどうして異世界に行きたかったの?」

「え? ああそれは、私が本来いるべき場所がそこにあると思ったからだよ」

「いるべき場所?」

「今まで人に話したことはないけど……まあユウくんにならいいか! これから一緒に過ごす相手に隠し事はよくないよね!」


 一緒に過ごす気はさらさら無いが、また元気を取り戻してくれたようで安心した。


「これは両親から聞いた事だが、かつて私の先祖は異世界……便宜上、魔界とでも言っておこうか。そこに住み、科学者をやっていたらしい。だがある日突然魔界を追放され、人間界……私達が元いた世界に飛ばされた」


 内容は突拍子もないものだが、それを話す人物がサキュバスなのだ。崎谷薫という存在そのものに説得力がある。


「カオルのお母さんも、サキュバスだったりしたの?」

「いや、私の母は普通の人間だったよ。知っている限り、近い家系の中にサキュバスはいない」

「ならどうしてカオルは?」

「まさに今追っている謎がそれだよ、『なぜ私だけ』。その答えを求めて、かつて先祖がいたという場所を目指したんだ。そのための技術は様々な国に()()されてしまったがね」


 やっと経緯を知ることができた。ここで改めて話してみてから、彼女は俺が聞いていたような人物ではないと感じていた。サキュバスだったことには驚いたが、決して人殺しを目的に動くような人物ではないと直感が訴えていた。


「理由はどうあれ私はサキュバスとして生まれ、先祖が魔界にいたことを知った。ならば私が確かめるしかないだろう! かつて魔界で何があったのかを! ――こんなに素敵な餞別も手に入ったことだしね」


 崎谷は熱のこもった視線で俺を見下ろしている。美人に想われることは光栄だが、この感覚には慣れそうもない。


――こんな、温かく包んでくれる感覚なんて。


「……カオルはなんで僕に優しくしてくれるの?」


 目を覚ました時から不思議だった。18歳の姿の時は興味もないような素振りだったのに、この体になってからはやけに俺を気遣う。自身が抱える秘密だって教えてくれた。


「それはねユウくん、好きだからだよ♡」

「えぇ……」


 またどんな深い訳が飛び出してくるかと身構えていたのに、帰ってきたのは嬉しいような嬉しくないような、言葉にしづらい答えだった。


「いやだって、私を捕まえにきた相手がなぜか一緒に異世界転移して、しかもこんな私好みのフワフワ髪でプニプニほっぺの美少年になってるんだよ⁉ こんなの絶対王子様じゃん! 運命感じちゃうに決まってるだろ!」


 なんだろう、これは。この人は真面目になったりアホになったり、本当に残念な人だ。


「なんか……飢えてるね」


 そう、彼女からは飢えを感じる。サキュバスだからだろうか? 変なところで欲に忠実だ。


「当然飢えているとも! 大変だったんだぞぉ~サキュバスだってことを隠して、友達も作らずに研究に没頭して、年齢やら住所やらごまかして、そんなだから恋愛もできないままで、たまに声をかけられたかと思えば体目当ての男ばっかりだし。そもそも私は『ショタコン』だ! そして気づいたら戦争が始まってて……グスっ、ううぅ……」


(“気づいたら”までを端折(はしょ)りすぎじゃない?)


 涙ながらに話す彼女を見てさすがに呆れてしまう。なんとも労しい……250歳の姿か? これが……


「そ、そういえばカオルはどうやって異世界転移の技術を完成させたの?」

「そんなに私のことが知りたいのかい? ユウくんはおませさんだなぁ」


 すぐに立ち直った彼女がニヤニヤと俺を眺める。本当になんなんだこの淫魔。


「嫌なら無理して聞かないよ……」

「いや、せっかくだから話しておこう。ついておいで」


 研究所の奥、さっきの白い部屋とはまた別の場所へ歩いていく。俺は今いる場所が本当に異世界なのかどうかも分からないまま後を追った。

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