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1話.鼻からスイカってよく言うけど実際無理

グリフィン王国初代国王レン・グリフィン・フォスターは苦楽を共にし、建国にあたって多大なる貢献をした4人に公爵の地位を与えた。



その四大公爵家の一つ、ウィルソン公爵家は現在ただならぬ緊張感に包まれていた。

それもそのはず、もうすぐ待望の公爵家当主の第一子が誕生するからである。


現当主のロバート・ウィルソンは10年前にマーガレット・ウィルソンと結婚。しかし、長らく子宝に恵まれず、貴族は世継ぎが必要だから今の嫁とは離婚して新しい嫁をもらうのはどうかと、他の貴族から妹や娘を紹介されたりと大変煩わしい思いをしていたロバートは、マーガレット以外を愛するつもりはないと、もし今後も子供ができなかったら養子をもらうと周りに宣言し牽制していた。それが約5年前の出来事。


その後もなかなか子供は出来ず、そろそろ養子先の検討をし始めようかという時、なんとマーガレットが妊娠したのだ。それからウィルソン家は大騒ぎ。ロバートはマーガレットと子供に何かあったらいけないと厳重に守り、そしてやっと今日出産を迎える。


公爵家のとある一室には出産中のマーガレットと数人の医者の姿があった。その者達は、母子共に無事出産できるよう国中の医者の中からロバートが選別した腕利きの医者達。



「奥様もうすぐ産まれますよ!」


医者の声を聞きながらあと少しで我が子に会える、その気持ちを支えにマーガレットは気絶していまいそうな痛みと苦しさに耐えていた。


「くっ……はっ!」


「息を吸ってー、はい!力んで!」


「くぅーー……はっは……ん」


「頭がでてきましたよ!もうすぐです!」


「あーー!!っく……うっ」



そのマーガレットの苦しげな声を部屋の外から聞いていたロバートが落ち着かない様子で扉の前を何度も往復していた。


「旦那様、落ち着いて下さい」


落ち着きのなさを従僕に注意されながらも、やはり落ち着かずまた行ったり来たりを繰り返す。ロバートにとっても初めての経験。出産に対する心配、そして待ち望んだ我が子に会える期待。さまざまな感情を抱くロバートは部屋の中から漏れ出る声を耳にし更に落ち着かない気持ちで不安そうに端正な顔を歪めた。


「あんなに苦しそうなのに大丈夫なのか?」


「それほど出産とは命懸けなのです。その為腕のいい医者を用意したではありませんか。母子ともに無事でいれるように神に祈りましょう。そして、奥様を信じてあげるのです」


「命懸け……ぁ、マーガレットどうか無事でいてくれっ!……神よ、どうか、どうかマーガレットと子供を守ってください!!」



ロバートが祈るように跪いたその時、



「オンギャーーンギャーー!!」



部屋の中から一際大きく産声が響いた。



「ああ!!産まれた!産まれたぞ!!」


「ええ!よかったですね!!」


それを聞いたロバート達は安心したように笑顔になる。


「もう部屋に入っていいよな!?」


「だ、駄目です旦那様!医者の許可が出てからです!」


「何だと!?早くしろ!!」


「私に言われても困ります!!」


そわそわしながら待っていると数分後に医者が出てきて入室の許可が出た。

急いで部屋に入るとまず妻の無事を確認した。


「マーガレット!!」


「ロバート様……」


「顔色が悪いが……大丈夫なのか?」


「ええ、心配いりません。少し疲れてしまっただけですわ」


外から尋常ではない苦しそうな声を聞いていたいたため心配気にマーガレットの様子を窺うが、マーガレットはそんなロバートの顔を見ると出産の疲れも忘れたように嬉しそうに微笑む。そばにいた医者に命に別状はないと伝えられたロバートは安堵の息を洩らしながら最愛の妻の手をとり口付けを落とす。


「お疲れ様、そして本当にありがとう!」


「無事産むことが出来てほっとしました。これも、ロバート様が手を尽くしてくれたお陰ですわ。本当にありがとうございます」


「いや、私がしたことなんて些細な事さ。悪阻の苦しみや出産の痛みに耐えたのはマーガレット自身だよ。だからもっと自分を褒めてあげるべきだ」


普段冷たい印象を与える顔を忘れたかのように満面の笑みを浮かべながらマーガレットを抱きしめた。そしてロバートは腕の中にいる愛する人の温もりを感じながらこれまでの事を思い出していた。




子供ができなのは自分のせいだと謝るマーガレット。


周りから離婚するよう言われてたこと。


それを聞いたマーガレットは内心傷付きながらも笑顔で耐えていたこと。


二人で子供ができるよう色々努力したこと。


それでも長年子供ができず、ついに責任を感じたマーガレットから離婚を切り出されたこと。


ロバートはそれを拒否し子供ができなくても構わない、愛してるのはマーガレットだけた伝えると悲しそうに笑ったところ。


そして、誰もいないところでマーガレットが一人で泣いていたこと。


これ以上マーガレットに負担をかけないよう話し合い今後養子をとることに決めたこと。


それからは心穏やかに過ごしたこと。


……ある日、嬉しそうなマーガレットから妊娠したと幸福な報せを聞いたこと。


その日はお互い泣きながら一日中抱きしめ合って寝たこと。


次の日は二人とも目が腫れてブサイクな顔になっていて腹を抱えるほど笑ったこと。


マーガレットが悪阻で辛そうだったこと。


産まれてくる子供の名前を二人で考えたこと。


どんな子供がうまれてくるか二人で想像したこと。


男の子か女の子どっちなのか楽しみだったこと。


でも、最終的には元気にうまれてきてくれればそれだけでいいと思ったこと。


それから、どんどんお腹が大きくなって動きづらそうなっていくマーガレット。


お腹を触っていた時蹴った感触が伝わったこと。


早く我が子に会いたくなったこと。


そして、今日ついにマーガレットが頑張って二人の愛する子供を産んでくれたこと……。



様々なことを思い出したロバートは込み上げてくる感情を抑えることができず腕の中のマーガレットを一際強く抱きしめた。マーガレットは少し苦しそうにしながらも微笑んでそのままにしていた。少しすると落ち着いたのか腕の中からマーガレットを解放し、目を合わせるとお互いの目は涙で潤んでいた。


「ごめん、苦しかっただろう?どこか痛めてないか?」


「ええ、どこも痛くありませんわ」


「よかった。それで私達の天使はどこだい?マーガレットはもう会ったのか?」


「いいえ、私もまだなんです。今お医者様が検査しているらしくて。でも性別は聞きました、女の子です!」


「そうか!女の子か!君に似て可愛いんだろうな、早く会いたいな」


そう話していると一人の医者が二人に近付き声をかけてきた。医者はどこか心ここに在らずのようで、その時になってようやくロバートは医者だけでなく室内全体がどこか様子がおかしいことに気付き、もしや子供になにかあったのではと不安に襲われる。


「あの……公爵閣下……」


「どうした?もしや、私達の子供に何かあったのか?」


「えっ……お医者様私達の子供は無事ですよね……?」


「えーと、ですね……」


「はっきり言え!」


「はい!閣下の御子様はご無事です!検査致しましたが問題ありません!健康的な女の子です!」


「よかった……紛らわしい態度はやめてくれ」


「健康なんですが……」


「もしや何かまずいことでもあったのか!?」


「まずいことなんてありません!!素晴らしい事です!」


「……は?いやもういい、それより早く我が子に会わせてくれ」


要領を得ない会話にうんざりしてると医者の後ろから別の医者が子供を抱いて近付いてきて、その医者の顔もやはり浮わついていた。

しかも何故だか涙目である。



(……何故涙目なんだ。感動でもしたのか?優秀なベテランの医者を集めたはずだが……)



ロバートは医者達を気味悪く思いながらも早く子供を腕に抱きたくて急かすように話しかける。


「その子が私達の子供か?」


「はい。公爵閣下の御子様です……そして神の御子でもあります」



「え?」


……神の御子?


「まずはご確認をお願い致します」


そう言って丁寧に我が子を渡された。子供を抱くロバートは緊張で少々ぎこちなかったがその腕の中にある確かな重みに苦しいほどの幸せを感じた。

そして腕の中の我が子の顔を見ようと覗き込んだロバートはあまりの衝撃で言葉を失った。

その様子をベッドから見ていたマーガレットが不安になり声をかけるがロバートは子供に見つめたまま微動だにしない。


その時腕の中の子供が動き出した。


「あ~ぶっ!ぶっ~!」


「ロバート様?早く私にも抱かせてください!」


その声で我に返ったロバートだったが振り返った顔は驚愕に染まっていた。マーガレットがもう一度不安そうに声をかけるとロバートの目から涙が溢れとても幸福(しあわせ)そうに笑った。


「マーガレット……私達の子供は本物の天使だよ。……本当にありがとう」


「え?ロバート様?」


「さあ、マーガレット私たちの天使に挨拶しよう」


そうしてゆっくり渡された我が子を腕に抱きそしてロバートと同じように驚愕した。

その子供は白銀の艶やかな髪に少しつり上がった大きめのアーモンドアイ。そしてその瞳の色は美しいアメジスト。


この時点でまず有り得ない。

この世界には白銀の髪の人もアメジストの瞳の人も存在しないのだ。なぜなら白銀もアメジストも神様(エルピス)自身の色。なのに腕の中の我が子は紛れもない神の色を持って生まれてきている。何より一番衝撃的な特徴が我が子にはあった。それは胸の中央から左右の鎖骨の下を沿って肩まで描かれている青い薔薇と蔦の美しい紋様。



まさしく神子の特徴(しるし)であった。



自分の子供が神子……と一瞬動揺したが腕の中の赤子はそんな事関係ないとばかり笑っていた。その笑顔をみていると子供の目元がロバートに似てることに気付き、今腕の中にいるのは神子ではなく愛するロバートとの子だと強く実感し涙が溢れた。



(そうよ、この子は私とロバート様の大切な子。生まれてきてくれてありがとう)



「ロバート様私達の子供をこれから沢山愛していきましょうね」


「ああ、勿論だとも!こんな素敵な天使と会わせてくれてありがとう!私は世界一幸せ者だな!」


「あら、聞き捨てなりませんね!絶対ロバート様より私の方が世界一の幸せ者です!」


そう二人は幸せそうに笑いながら我が子を見る。


「ロバート様名前を何にするか決めましたか?」


「ああ、この子を見てすぐに思い付いたよ」


「何ですか?と言っても私も思い付きました」


「そうかい?じゃあ一緒に言ってみようか」


「うふふ、分かりました」


「じゃあいくよ……」


「「ローズ」」


「一緒ですね!」


「やはりこの名前がぴったりだな」


「君の名前はローズ・ウィルソン。これからよろしくね」


「私達の元に来てくれてありがとう!愛してるわ!」


そうしてローズ・ウィルソンは生まれた。


そのローズ本人は両親から話しかけられ分からないながらも楽しそうにしていた。


____なんて事はなくバッチリ理解していた。

(新しいパパとママめっちゃ美形なんですけど!!)


「あぶあぶーー!!」


ローズは転生者だった。

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