17話.忘れたい思い出ほど忘れない
宣誓が終わった後、ロバート達はお茶を楽しみこれからの事を一通り話し合っていた。
そんな大人達の会話が響く中、当事者のローズはというと揺籠の中でスヤスヤ眠っている。頑張って起きてはいたが権力者に会った緊張と神子についての色々なことにキャパオーバーしてしまい、つい先程眠ってしまった。いくら中身が大人であろうとも体力は赤子なので襲いくる眠気に耐えられなかったのだ。
そして次にローズが目を覚ました時には既にオリヴァー達は帰った後であった。
◇◇◇◇
そして現在、あの悲しき《神子孤立記念日》から時は流れローズは4歳になっていた。
小さかった体は大きくなり、短かった白銀の髪は長く伸び背中で緩く波打っている。
幼いながらも美しく成長したローズは今、特徴的なアメジストの瞳に憂いをのせ自室から外を眺めていた。
ロバートから先程来月の予定を伝えられた事で、つい昔の事を思い出してしまったせいである。
生後半年で自分が神子という存在だと知り衝撃を受けたあの日のこと。
3歳で神様が神子専属モンペだという事を絵本で知り若干恐怖を覚えたあの日のこと。
はあ~、本当に色々あった~。最初の頃はしばらく自分が神子だということにビビってたな。でも周りのみんながホントいつも通りだったから変に意識することなく赤ちゃん時代を過ごせた。もし腫れ物に触るようお世話されてたら、赤ちゃんなのにストレスでハゲてたかもしれない。みんなありがとう。貴方達のお陰で私と私の頭皮は守られました。
ウィルソン家の者はローズが生まれた時から神子だと勿論知っている。今更態度を変えることは一切ない。それが例え自分の国の国王と大司教がローズに膝を折った後でさえ。何故ならウィルソン家の家訓は《ローズ第一》だ。中身が親バカの為、国王が宣誓したり神様がローズの為に悪人を消した事を知ったとしても、その態度は一貫していた。そしてローズは、ウィルソン家一同がただの親バカ集団だとしばらく気付かなかった。しかし、それにローズの精神が守られているのも事実である。事実を知った後でもローズは常に感謝していた。
それからみんなに可愛がられ3歳に成長したローズは初めて自分の容姿を確認した際、改めて自分は神子なのだと痛感した。
いや〜あの時はビックリしたな。だってカラーリングがえるたんとまったく一緒だったもん。まあ、カラーリングに驚いたあと自分の整った容姿に狂喜乱舞してえるたんの事しばらく忘れちゃったんだけどね。いや、だってめっちゃプリティな幼女がいたんだよ。ナニコレかわいい♡ってなっちゃうよね。
サラサラの白銀の髪、小さい顔の中には白銀の長い睫毛に囲まれたキラキラ光るアメジストの大きな瞳、ふくふくほっぺは桜色をして、唇はプルプルの桃色。
か、か、可愛すぎか!!!奇跡の幼女に吐血しそうになったわ。でも何でこんな可愛い幼女が自分なんだ……せめて自分じゃなかったらこの可愛い幼女を一日中抱きしめることもできたのに……。
でもこんなに可愛くても私とお付き合いしてくれる人はいないだろうな。この奇跡の可愛さも将来の恋愛には一切役に立たないってことだね。でも大丈夫、恋愛に使用不可なら自分を癒す為に使おう。そう思い私は日々鏡の中の美幼女を見つめている。
別にナルシストじゃないよ。前世とあまりにも違いすぎるから、この可愛い幼女が自分だって意識がないんだよね。今でもたまに自分の容姿忘れて「そういや私美幼女だったわ」ってなるもん。癒されたい時はずっと鏡の中の美幼女を眺めてるから、周りから〈こいつ自分大好きだな〉と思われてそうだけど私はやめない。何故ならそこに可愛いロリがいるからだ!
初めて自分の容姿を確認した日の夜、お風呂にも新しく用意されていた鏡で全身を確認して一瞬心臓止まった。だって胸の上から鎖骨にかけて青い薔薇が描かれてるんだよ?驚くに決まってるよね?
「え、タトゥー!?」ってなったわ。
側にいたアメリアに慌ててこの薔薇について聞いたら「神子の紋様です」って言われちゃって意識が飛びそうになったし。
どうりで、パパ達が[ローズ]って名前を付けるわけだよ。こんな全身で《薔薇です》って言ってたら満場一致でローズになるよね。出産の時も周りの様子が可笑しかったのはこのせいだったんだ。カラーリングがえるたんと一緒で体に神子の紋様を持った赤ちゃんなんて驚くに決まってるもん。
…………………えるたん。
自己主張強すぎない?
こんな全身で「私が神子です!」って言わなくてもいいよね?しかもこのカラーリングって神様の色だから今この世界に私しかいないみたいだし。
目 立 ち す ぎ。
もうめっちゃ悪目立ちするねコレ?体の紋様は隠せるかもしれないけどカラーリングは誤魔化せないよ?これから私は全身で「神子です!」って言いながら生きていかなきゃいけないのか。
……泣いていいですか?
いや、でも神子ってみんなこの目立つ色で生まれてるんだよね?今までの神子さん達もホント大変だったんだろうな、こんな目立つ外見で生まれたら。うん、あんまり文句言わないでおこう。私一人が神子だったわけじゃないんだ。大変な思いをしたのは過去の神子さん達も一緒だもんね。
___ローズは知らないが、白銀の髪とアメジストの瞳を持った神子は歴史上存在しない。ローズは初めて神の色を持って生まれた神子なのだ。その辺りにエルピスのローズへの贔屓が表れている。しかしローズはその贔屓を知らないので今のところエルピスの愛は一切伝わっていない。……ドンマイ、エルピス。
まあ色々言ったけど、この外見めっちゃ気に入ったんで神子とか気にしない事にしたよ。せっかく可愛く生まれ変わったんだから、もっと磨いていこうと思う。
自分の癒しの為に!!
可愛いモノと綺麗なモノって癒されるじゃん。恋愛はもうムリだし、私は私の為に綺麗になります!!そしておばさんになった時に「あの人いつまでも綺麗」って言われるように頑張ります!!
気合いを入れているローズへ側に控えていたアメリアが窺うように声をかけた。
「ローズお嬢様どうかなさいましたか?随分張り切っておられるようですが。もしや、王太子殿下が訪問される件で何かお困り事かおありなのですか?」
違います。ロリの無限の可能性について考えてました。しかし、そんな事を言ったら頭おかしいって思われるからアメリアの話に合わせておくとするか。
「あ、うん、そうなの。どうやっておもてなししようか考えてたの」
そう何故か、王太子殿下が遊びにくるらしいです……来月、我が家に。
……イヤだーーー!!!
◇◇◇◇
それは夕食の席での出来事だった。
珍しくロバートの仕事が早く終わり今日は久しぶりに家族3人揃って食事ができると聞いたローズは嬉しそうにしていた。夕食の席でもロバート達にその日あったことを楽しそうに話し和やかな時間が流れた。デザートも食べ終わり大変幸せな気持ちでいたローズに神妙な顔をしたロバートが声をかけた。
「……ローズ、お友達が欲しくないかい?」
「え、お友達ですか?」
欲しいか、欲しくないかだったら……めちゃくちゃ欲しいです!!!友達作るの諦めてたのに、まさか私にお友達が出来るの!?
「そう、ローズ今まで年の近い子供と交流したことがないだろう?ローズさえ良かったら今度遊んでみないかい?もちろん、ローズが嫌ならこの話はなかったことにするよ」
「ぜひ遊びたいです!!!」
「そうか、分かった。では来月辺りに我が家に遊びに来て頂こうか」
「来月ですね、楽しみです!!」
うわー!!まさか私と遊んでくれる子がいるなんて!!早く来月にならないかな〜。あ、そういえばどんな子が来てくれるんだろう?
「お父さま、どんな方が来たくださるんですか?」
「ごめんね言い忘れてた。遊びに来てくださるのは殿下だよ」
なんて???
「え、殿下って……」
「王太子殿下だよ」
そ れ を 先 に 言 え!!!
王太子殿下って王族じゃん!!
いや、何で私も聞かなかったんだ……まず誰が遊びに来るか聞くべきだった!!え、今さらイヤって
って言えない。ど、どうしよう……もうテンション高くOKしちゃったし今いきなり断ったら王族に対して嫌な印象を持ってるって思われて、パパと陛下の関係も気まずくなるかも……。断るのムリだこれ。
「……そ、そうなんですね!!まさか殿下だなんて驚きました。どうしてわざわざ我が家に来てくださるんですか?」
なんで、殿下が私と遊ぶことになったのさ……別の子はいなかったの?
「今日陛下と話している時にローズは同年代との交流があるのか聞かれたんだよ。私もそろそろローズにお友達をと考えてたところだったから丁度いいかと思って陛下にお願いしてみたのさ」
原因は貴様か!!丁度いいかと気軽に王族を誘うんじゃない!!もっと別の選択肢はなかったの!?
「そ、そうなんですね、ありがとうございます」
「本当は別の子にしようと考えてたんだ。でも、ローズは賢いから他の子と話が合わないと思ってね。殿下も賢いからきっとローズと仲良くなれると思ったんだ。本当は殿下が男の子だから私のローズにあまり近寄って欲しくないけど王族なだけあって万が一にもローズに危害を加えることもないだろう?他の家の者はいまいち信用できないし」
なるほど……私のためだったのね、ありがとうパパ。
でも軽く余計なお世話というか……もう友達欲しいとか言わないからなかったことにして欲しいというか……分かってます、はい、無理ですよね。別に王族を嫌っているとかじゃないよ?でも、元が庶民なんで苦手意識があるというか……粗相した時のことを考えると憂鬱なんです。でも、殿下と会うのは決定事項、これは腹を括るしかない。
「お父さま、わたしのことをいろいろ考えてくれてありがとうございます。来月が楽しみです」
ロバートに笑顔を見せるローズは心の中で泣いていた。
◇◇◇◇
つい、現実逃避で昔のこと思い出してたわ。いい加減真剣に考えよう……〈殿下〉について。
王太子殿下ってあれでしょ?陛下の子供って事だから王族じゃん。王族ってだけで無意味に緊張する。根が庶民だから心が自然にビクビクしちゃうんだよな~。
そして今回遊びにくる王太子殿下は私の一つ上なんだって。でも年は近くて子供だとしても王族は王族だもんな。しかも王太子殿下って次期国王って事でしょ。畏れ多いわ。
……ん?あれあれ?一つ上って事は5歳だよね?ということは…ショ、ショタなのでは?
陛下って美形だからその子供もきっとすこぶる可愛いはず……あれ?なんか楽しみになってきた。
可愛いショタくんと遊べるなんてただの楽園ですね、はい。
でも大丈夫かな?私中身が大人だし……で、でも私見た目4歳児だからイケるよね?
……イケる、これはイケる。絶対大丈夫、これ合法だわ。
___違法だ、この変態。
もう王族とかどうだっていい。
ショタはショタ。それ以外の何者でもない。
ショタは怖いものではなく尊いものなのです。
ち、違うよ?ショタコンじゃないからね?
ただ、可愛いモノが好きなだけだから!
___いい加減認めるんだ。キミは絶対ショタコンだ。
そ、そうだ!一生友達できないって諦めてたけど、来週頑張って私から友達になってくださいってアピールしようかな?
いや、断られたら悲しいな……。顔見知りでいいからってお願いしようか?
うん、そうしよう!目指せ顔見知り!
それに孤立記念日の時みたいに当日急に伝えられたわけじゃなく、一ヶ月猶予をもって教えてくれたお陰で心の準備もできそう。当日ショタくんと仲良くなれるよう今から計画立てようかな。
「ローズお嬢様が何かお考えになるのですか?当日の事は旦那様方がお決めになられると思いますので、ローズお嬢様が王太子殿下の為に貴重なお時間を使いお悩みにならなくてもよいと思いますが。それにもし、お嫌であればお断りしてもよいと思います」
「大丈夫!わたし今からすごく楽しみだよ?」
「そうですか?それは残念です」
……アメリアちょいちょいトゲあるね?
王族になんか恨みでもあるの?
「アメリアは殿下に会うのいや?アメリアがいやならやめるよ?」
「嫌ではありません。ただローズお嬢様が時間をわざわざ使い、ローズお嬢様が自ら予定を考えるなんて王太子殿下には勿体ない事だと思いまして。しかし、本当にそう思っていたとしても口に出すべき事ではありませんでした。メイドの分際でローズお嬢様のお考えに物言ってしまい、大変申し訳ありません。罰はお受け致します。しかし、専属変更だけはご勘弁ください。私は一生ローズお嬢様のメイドでいたいのです」
………専属メイドの愛が重いです。




