16話.貴方が貰って嬉しいモノと私が貰って嬉しいモノは違います
私ローズ・ウィルソンは、今日この日を《神子孤立記念日》に制定することをここに宣言します。
はああ、悲惨な記念日ができたよ……。
これから一生友達も恋人もできないのか。いや、前世でも恋人いなかったから何にも変わんないんだけどさ。何か思い出したら悲しくなってきた……。
転生したら恋人できるかもって期待したのに。……まてよ?転生したからって恋人できるとは限らないよ。そうだよ!神子じゃなくても元々恋人なんてできなかったかもしれないんだから一緒じゃん。
むしろ、恋人ができない理由を神子のせいにできるからよかったのでは?これだったら前世のようにコイツ寂しい独り身なんだと可哀想な目で見られないじゃない?
自分の言葉で心が痛いよ……ついでに涙まで出てきた……。
違うんだよ……前世で恋人ができなかったのはきっと私の運命の人が地球に存在してなかったからのはず……多分あの世界線では出逢えなかったんだよ、うん。そもそも理想の条件がおかしいってよく友達に言われてたもんな。
ただ私は優しくて、少し天然だけど包容力があって、髪の毛は色素薄めのさらさらストレートロングで、瞳は大きく色素の薄いのタレ目で、肌は白くてつるつるの体毛薄めで、身長は175センチ以上で、体型は見た感じ細いけど脱いだらきちんと筋肉が付いていて、ヒゲなし、眼鏡あり、口調は敬語、声がめっちゃよくて、外見綺麗系と可愛い系がミックスされた感じで、仕草はめっちゃ可愛くて、たまに見せる男らしいところがあれば完璧って言っただけなのに、友達に言ったら冷たい目で「そんなヤツいるわけねーだろ」「妄想乙」「画面の中にもいねーよ」「きもい」「イタイ」「病院が来い」とか色々言われたわ~。
ほんと正直な友達だね?ちょっとくらい「いいね~」とか言ってくれてもいいのに一切忖度なし。要約すると「現実みろよクソ女」だもんね。別に理想くらい語ってもいいじゃないか。聞かれたから答えただけなのにさ。私だってそんな人いるわけないって分かってたよ。いたらいいな~って夢見ただけじゃん。
でもこっちの世界は二次元ぽい人いっぱいいるから、もしかして理想の人いるかも?って期待してたけど、よく考えたら画面の中にもそんなヤツいないって言い切られてたし望み薄だなコレ。もし理想の人存在してたら、即効土下座でもして逆プロポーズするんだけどな。まあ、実際そんな素敵な人は絶対売却済みだから観賞用になるな。と言うことは恋人ができないってことになるから神子だろうと一般の令嬢だろうと一緒ってことになるね……?
……ほら、こんなに長々語ったのに結局振り出しの《恋人は一生できません》に戻っちゃったよ。人生ゲームだったらスタート地点から一マスも進んでないじゃん。
やめよ!もうこんな不毛な事を考えるのはやめるのよローズ!いいじゃない恋人なんてできなくても。私を愛してくれる両親もいるし、公爵家の使用人さんも優しい人ばっかりだし、何だかんだいってえるたんは神子という私を大事にしてくれてるし、それで充分じゃない。これ以上望んだらきっとバチがあたるわ。
ローズが必死に自分の人生を肯定してる間にトマスの説明がいつの間にか終わっていた。
あれ?教会のお偉いさんの話終わってるじゃん。あちゃー最後の方全然聞いてなかったよ。何の話だったのかな?まあ、神子の事ある程度理解できたから大丈夫だよね?
ローズが自分の世界に逃避している間にトマスがしていた話は、エルピスが最後に言っていた『神子としてではなく人としてとても大切な存在、だからもし傷付けたらこの世界消すから』という愛の告白と脅迫の部分だった。
ローズは丁度それを聞き逃していたため、エルピスが自分を大切にするのは神子だからだと思ったままだし、自分が傷付けられたら世界が消えるのも知らないままである。
もし聞いていたら自分のせいで世界が消えると考え、恐怖のあまり引きこもりになっていたかもしれない。
そして、エルピスの特別な愛情をローズが知るのはこれからずっと先のことであった。
神託説明会が一段落つき、やっと本題に入る。オリヴァー達は今日、神子への顔見せと誓いをしに来ているのだ。顔見せは既に済ませたため後は誓いのみになる。
オリヴァーは立ち上がりローズの前まで移動するとその場で跪き胸に手を当て頭を下げた。
「グリフィン王国国王オリヴァー・グリフィン・フォスターは、生涯神子様の掟を守り、神の御子様を傷付けることなく、そしてご家族の皆様も守ることをここに宣誓致します」
そしてトマスもその後に続くようオリヴァーの隣へ並び、同様に跪く。
「グラース聖教会グリフィン王国支部代表トマス・フィデールは、この命尽きるまで神子様の掟を守り、神の御子様を絶対に傷付けることなく、そしてご家族の皆様も守ることをここに宣誓致します」
ロバートとマーガレットは驚き言葉を失った。一国の王と教会の幹部が自分の子供に跪き宣誓したのだ。今見た光景が信じられず暫し唖然としていた。
だがそんな二人よりもっと驚いている者がいた。
勿論、ローズである。目を見開き、口は大きく開いたままである。周りの者はオリヴァー達に注視していたためその驚いた顔は見られてないが、もし目撃した者がいた場合ローズは話の内容を理解しているのでは?と怪しまれたことであろう。
オリヴァー達が下げたままの顔を上げようとしたその瞬間コンサバトリー内が明るく柔らかい神聖な光に包まれた。
自然光ではないその光に何事かと瞬時にその原因を探ろうと皆が動き出そうとしたが、それは幻のように一瞬で消えた。魔法の気配は一切なかった。このコンサバトリー内は魔法耐性の効果が付与されてるため外部からの魔法を殆ど通さない。
一体何なんだ?と周囲を警戒しながら一同が考えていた時、一人だけ跪いたままの者がいた。それはトマスであった。目を閉じ頭を下げた状態のトマスへオリヴァーが声を掛けようかと悩んでいるとトマスは不意に立ち上がり驚くべき事を告げた。
「たった今、神から伝言を頂いたので皆様にお伝えしたいと思います。神はこう仰っておりました」
《君達の宣誓を見届けさせてもらった。必ず守るように》
エルピス登場である。
エルピスは約束がちゃんと守られるか今日ずっと見ていたのだ。流石、神子愛。ローズの事では一切手を抜かない。
神の言葉に驚く中、いち早く正気に戻る者がいた。オリヴァーである。
神様の自由奔放さに慣れてしまったオリヴァーは着実に被害者と同じ道を歩んでいる。
未だ周囲が呆然としている中、オリヴァーはロバート達に声をかけ元の席へ戻ると口を開いた。
「神が仰っていたようにこの誓いを必ず守ろう。だから安心してくれるといい」
続いてトマスも力強く宣言する。
「そうです。私達はこの誓いを決して破ることなく、一生守っていきます」
その重すぎる誓いを受け硬くなっていたロバート達へ、オリヴァーは空気を変えるように明るい声を出す。
「さて、重要な話は終ったんだ。お前たちも肩の力を抜いてくれ。そうだ少し喋りすぎて喉が渇いたな。美味しいお茶をご馳走してくれると嬉しいんだが?」
その様子にロバート達にも笑顔が戻った。今回お茶類は、話が終わってからゆっくり楽しむ為に用意してなかったのだ。さっそくとばかりにマーガレットが指示を出し最高級のお茶が用意される。
そのお茶を楽しみながら先程の話を和気藹々と語り合っている。さすが王様と貴族と教会幹部、切り替えが早い。
だが、未だ正気に戻ってない者もいる。
そう、当事者のローズは悟りを開いていた。オリヴァー達が自分に跪き喋り始めた時から狼狽えていたが、エルピスの言葉を聞いた途端思考が完全停止し、混乱から一周回って落ち着きを取り戻し悟りの境地に至った。
もう今まで悩んでいた事がどうでもよくなり、顔にはうっすらと笑みを浮かべ遠くの空を見上げている。
ふふ、ほんと綺麗な空だなあ~。
この空を見てたら私の悩みなんてちっぽけな事だと思えてくるよ、うん。
自分が神子なのも、一生友達と恋人ができないのも、権力者の大人達が跪くのも、神様が監視していたのも、些細なことだもんね?
…………………………………………………。
やっぱり神子返品していいですか?




