12話.予定を入れても当日急に行きたくなくなる時がある
雪がちらつく冬が終わりを告げ、暖かな春が訪れ柔らかな日差しに溢れた今日、ウィルソン公爵邸は一大イベントを迎えていた。
ウィルソン邸のタウンハウスは王都の貴族街にあり、広い敷地には貴族の屋敷に相応しい豪華な屋敷が建てられていてた。
門には警備兵が立ち、庭には色鮮やかな花が咲き、玄関ホール前には魔道具で作られた噴水があった。
敷地内には他にも使用人専用の屋敷や馬専用厩舎、そして温室がある。
公爵家と格式高い家だが主人と使用人の仲はよく、大きい家にも関わらずお互いの関係はとても良好であった。
これもひとえに、ロバートの人間性やマーガレットの優しい人柄によって作られていた。
その公爵家に半年前、前代未聞の事件が起こった。ウィルソン公爵家当主の長子が神子であったのだ。
それからウィルソン家はロバートやマーガレットに限らず使用人共々怒濤の日々を過ごしていた。
ローズがが生まれて半年、今そのウィルソン公爵邸内には何台もの馬車と数え切れないほどの騎士がいる。
そしてその騎士達に厳重に護衛されている男達がいた。この国の国王オリヴァーと、教会代表のトマスである。
そう今日は、神に指示されていた神子と顔合わせの日であった。
陛下達が訪問する少し前のこと。
ローズは今、アメリアの腕に優しく抱き抱えられながら両親と共に国王陛下達が待つ場所へ向かっていた。
雲一つない空と比例しローズの心は曇天模様だった。
その顔には哀愁を漂わせ気分は売られていく仔牛気分である。
こんにちわ……。
メイドさんにお偉いさんとの面会があるとさっき告げられ、寝耳に水状態の私です。
いや、ホント困りますよ~。
ただでさえ初対面の人と会う時緊張するのに、その相手が国王陛下とか殺す気ですか?
もう、赤子をストレスで殺す気ですね?
まあ、嫌がって泣き叫んだりぐずってみんなを困らせたりはしませんよ。
見た目赤ちゃんですが中身が大人ですからね、そこら辺の分別はききますよ。
でも怖いものは怖いんだよ。いやー会いたくないよ〜。
やっぱ大人になっても恐ろしいものってあるじゃん?
例えば、偉い人、宗教、借金、突然の腰痛、体力の軽減、健康診断の結果、久しぶりに乗る体重計、鏡を見た時に発見するシミ・シワ、だんだん減ってくる独身仲間、いい相手いないの?と言う親の言葉、その他多数……。
大人には怖いものがたくさんあるんだよ。なのに、その恐ろしいものに見事ランクインしてる“偉い人・宗教”がピンポイントで今から来るんですか?これって嫌がらせでしょ?
もうおへやもどりたい…、と心の中で泣いていたローズへ一緒に移動していた両親が話しかけてくる。
「ローズ今日は少し元気がないね?体調は大丈夫なのかい?」
「大丈夫ですロバート様。毎朝ローズは専属医に体調を調べてもらってますから。今日も朝までは凄く元気だったんです。でも陛下達と拝謁するする事を知ってからというもの少し元気がないんですよ」
「よかった体調は大丈夫なんだね。あ!もしかしてローズは、今から何があるのか何となく分かっているのかもしれないね」
「まさか、ローズは赤ちゃんですよ?」
「そんなの分からないよ~?ローズって私達が話しかけたりすると返事してくれるし、内容も理解してそうだよ?」
「確かにローズは、して欲しい事があると自分から身ぶり手振りで伝えてくれますね」
「ローズは賢いな~。だから今は陛下達と会うって理解してるから緊張してるのかもしれないね」
「成る程、だから少し元気がないのですね。でも緊張しなくても大丈夫ですローズ。陛下達は怖くないですよ。それに私もいますし何よりお父様がついてますから、そうですよねロバート様?」
「そうだよローズ?陛下は全然ちっとも怖くないからね~。大丈夫、もしいじめられそうになったらパパが陛下をやっつけてみんなを守ってあげるから!」
「まあ、頼もしいですわロバート様。でも不敬になりますからあまりそういう事は言わないようにして下さい」
「大丈夫まだ陛下来てないし!それに陛下はそんな事では怒んないよ」
両親の会話をなんとなく聞いていたローズはロバートの言葉にギクリとする。
パパ……?もしや貴様見た目プリチーな赤ちゃんの中身が成人済み女性だと分かっているのではあるまいな?
ま、まさかね?バレてないよね?
もしバレてるんなら今後パパとのコミュニケーションの取り方を考え直したいんですが。
さすがに、見た目赤ちゃんだけど精神が大人の女にチュッチュッするのはダメだと思います。
今は赤ちゃんだからと自分に暗示をかけて羞恥心を殺してたけどバレてるとなると話は変わるよ?
___ちなみにロバートはローズの中身が成人済み女性だとは気付いていない。
「もしやローズは天才なのでは!?」と思っているだけである。ただの親バカ、いやバカ親精神である。
いや今は中身成人バレなんか些細な事だ。だって今から会うのは国王陛下と教会のお偉いさんなんだから……。
命の灯火が残りわずかかもしれないじゃん!ラノベで読んだことあるもん!王族に粗相したら殺されちゃうんでしょ……?
いやー!もっと生きたいです!せっかく異世界に転生したのに全然異世界を感じたことないよ?
魔法の“ま”の字も体験してない!死ぬなら「ウォーターボール」とか呪文を叫んでみたかったよ。
はあ~~……ん、あれれ?ママ、今何て言った?陛下が怖くないとか言ってなかった?それってマジ?嘘じゃない?
パパもスルーしてたけどサラッと最高権力者に対して超失礼な事言ってなかった?打ち首になんない!?
ホント大丈夫?ちゃんと守ってくれるんだよね?信じるからね?私信じちゃうからね?
ローズが内心パニックに陥ってる中もどんどん一行は進んでいき、プライベートルームがある二階から降りるために階段に向かう。
そこには優雅な曲線を描くサーキュラー階段が左右にありローズ達は片側の階段からゆっくり降りていく。
ずっと二階で過ごしてたから何気に一階に降りるの初めてだ。すっごい!広い!綺麗!
やっぱり私の家って貴族なんだね。行動範囲が子供部屋と寝室くらいだったから、こんな広いとは知らなかった~。ロココ調のインテリアも素敵!
ローズの落ちていたテンションは少し上がっていった。女の子らしく可愛いモノ、綺麗なモノは大好きなのである。
ローズがあちら、こちらと視線を忙しなく動かしている間にとうとう目的の場所に到着してしまったらしい。
その事に気付いたローズのテンションはまた急降下した。
はあ~、着いちゃったよ。ここまで来たら腹をくくろう。
大丈夫!パパとママも一緒だし。粗相しないように気を付けるからね!
ふんす!と気合いを入れていたローズと側にいたマーガレットへロバートは声をかける。
「陛下達がそろそろ到着するから出迎えに行ってくるよ。マーガレットはローズと一緒に中で待っててね」
「分かりました。私はローズと中でお待ちしております」
じゃあ頼んだよ、と手を振りロバートは玄関へ向かって歩き出す。
それを見送ったローズとマーガレットは、使用人が開けた扉の中へ入ってった。
◇◇◇◇
その頃、
権力者達にビビっているローズよりもっとビビっている男達がいた。
そう、オリヴァーとトマスである。
ウィルソン邸に着きロバートに迎えられた二人の顔は、命を賭けた戦士のようであったと後にロバートは語った。
そしてついに顔合わせの時を迎える。
ローズがゴネてるせいか全然陛下達と顔合わせしてくれません(笑)
次は観念して会ってくれると思います!




