11話.頭がいい人との会話は大体成立しない
「今から細かい注意事項を言うからちゃんと聞いてね」
その言葉がスタートの合図となり神子愛が今まで以上に暴走し始めた。
「何度も言わなくても分かるとは思うけど一応言っとくね。神子を傷付けない、強制しない、利用しない、悲しませない、巻き込まない、そして神子だからといって何かを期待しない。神子には特別な力を与えているけどそれは神子の為の物で君達の為の物ではないからね。まあ、本人がいいって言うなら別だけど。力を君達の為に使いたいって神子は今までたくさんいたしね。でも絶対勘違いしないで、本人が望めばだから。少しでも強要したら……ね?」
___こわいこわいこわい。
“したら……ね?”って何!?何が起こるんだ!?すっごいイイ笑顔なのが逆に怖い!
あと、ツッコまないでおこうと思ったけど注意事項が多いわ!どんだけ神子大好きなんだよ!
神にそう問われた者達は力強く頷いた。
神が神子を想う気持ちは先程いやと言うほど理解したからだ。
もし、今言われた事を破った場合はきっと……過去の天罰とは比べ物にならない罰が与えられることだろう……。
「でも君達だけが了承しても意味がないんだよね。君達が善良なのはよく分かる、私が言ったことを絶対守ってくれるだろうね。でもさどの時代でもいるんだよ、バレないと高を括って約束を破るおバカさんが、ね。私には全て見えているのに。だからさ、最初からそういったおバカさんにはいなくなってもらおうと思ってね。後からいなくなるのも、先にいなくなるのも結局一緒だしね」
___で、でた!リアルサイコパス!今ここに殺害予告が出ました!しかも相手は一切不明!
神のそういうとこよくないよ?こどもがマネしたらどうするんだ。あれか?テロップで〈よい子はマネしないでね〉って入れとけばいいのか?
この言葉は全ての者に恐怖を与えた。やはりこの御方は我々とは違う理の中にいるのだ。理解したつもりでいたが完全には理解できていなかった。
こうやって気さくに会話し笑顔を見せ過去の事に怒り悔やんでいたりと、喜怒哀楽が自分達とまったく同じでもやはり相手は神。
……命を消すことに少しの躊躇いもない。
神にとって人とは愛し、慈しみ、見守る者ではあるが神子が関わるとなると別である。
神の愛は決して平等ではない。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。別に君達を消そうだなんて思ってないから。何度も言うけど私は君達が好きだよ?ただそれよりも神子が大事だってだけで。じゃあさっそく悪い芽は摘んでおこうね」
今から人を消すとは思えない、あまりにも軽い言葉だった。
神が軽く指を鳴らす、
その瞬間、何千人もの命が世界から消えた。
ある消えた者は、ヒトを拐い商売の道具にしていた。
ある消えた者は、ヒトを殺すことを快楽としていた。
ある消えた者は、権力に物言わせ私腹を肥やし善良な者を死に追いやっていた。
ある消えた者は、ヒトから奪い、襲い、殺していた。
ある消えた者は___、
数え切れない悪人が消えていた。
突然次々に悪人が死んでいるのだ。
きっと今頃世界中パニックになっているだろう。
確かに、神は冷徹で無慈悲だ。
しかし今この時、神によって救われた者が世界中にたくさんいた。
拐われて売られそうになっていた子供、殺されそうになっていた者、権力に耐え忍んでいた者、大切なモノを今まさに奪われそうになっていた者、他にも数え切れないほどの人間が救われていた。
「さて、終わったよ。君達はきちんと周囲に伝えておいてね、私がした事だって。そして掟を破ったらこうなるよ、とね。この国の人間も消えてると思うからキミが確認しとくんだよ?あと、教会の人間も消えたけど私の意志だと伝えておいてね」
まさかの爆弾が落とされた。国の者が、教会の者が消えた。
あまりのことに暫し唖然としたがその理由が理解できた瞬間、戦慄が走った。
……その消された者達は一体何をしでかしていたのだ、と。
周囲が戦々恐々している中、相変わらずマイペースに神は話を続ける。
「あ、それから神子の家族の事なんだけどさ、私は神子をとても愛してくれる家を探したんだよ。まあそれが偶々貴族の家だったわけだけど。神子が貴族の子として生まれるなら当然その親は貴族なわけだ。でもね、神子は掟に守られるけど家族は違う。貴族だということはキミに逆らえないでしょ?神子に命令できなくても他には出来る。分かってるとは思うけど神子が両親を愛する気持ちを絶対利用しないでね?神子が愛した者も私は守ると決めているんだ。だからその者に対しては神子の掟が多少緩くなるんだ。じゃないと両親は躾ができないし、恋人とケンカもできないだろ?私は何もべつに神子を箱の中に閉じ込めて一生誰にも触られないようにしたい訳ではないんだよ。ただ自由に生きて欲しいだけなんだ。でも特別な力があったら絶対何かに巻き込まれるでしょ?そういった悪意から守ってるだけなんだ。両親の躾にしろ、恋人とのケンカにしろそこには愛情がある。だから私は赦してるんだよ。まあ、愛情がなかったら絶対赦してないけどね。そういう事だから神子の家族に関しても気を付けてね。ちなみに生まれる家の名はウィルソンだよ。よろしくね?」
オリヴァーは驚愕で目を見開いた。身近な者の名前が出たせいだ。
ウィルソンとは公爵家で今の当主はこの国の宰相をしている謂わば自分の右腕だ。
しかも、ロバートは幼い頃から仲が良く悪友と言ってもいいだろう。
もうすぐ子供が生まれるとロバートは言っていたがそれがまさか神子だとは……。
「それから神子への顔見せの事なんだけど、君達の方から神子と神子の家族に挨拶しに行くんだよ?そこで神子と神子の家族に対して傷付けないと誓ってきてね。あ!でもすぐに行くのはやめてあげて。生まれたばっかりは疲れていると思うし、いきなり色んな大人と会うのはビックリするかもしれないからね。だから半年後くらいに会いに行ってよ」
こうして顔合わせの日取りが決まった。
半年後、ローズは最高権力者との対面をビビりながらすることになるがその原因がまさかのエルピスだった。
「それじゃあ最後に言っておきたい事があるんだ。神子は私にとって特別な存在だけど、今回生まれるあの子は違う。神子関係なく、ただ一人の子として特別な子なんだよ。だからくれぐれも気を付けてくれよ。もしあの子を傷付けるような事があれば私はこの世界そのものを消すよ」
___や め ろ!!!もう、ずっと怖いんだよ!頼むからその優しさを周りの人に分けてあげろよ!
贔屓反対!!!
一方的に言いたい事を言ったあと神は、じゃあそろそろ戻るね、とその言葉を最後に一瞬で消えた。
そして残されたのは、エルピスに振り回され続けた哀れな人間だけだった。
ちなみにエルピスが戻った理由は、マーガレットが産気づいたせいだ。
エルピスは生まれるローズを見守る為にそうそうに消えたのだ。もうこれは立ち会い出産と同じだ。
マーガレットが気の毒だが、相手は神様なので仕方がない。
幸いな事にこの出来事は誰にもバレる事なくマーガレットの尊厳は一応守られ続ける事になる。
___マジで、神様そういうところだぞ!?




