45 黒 みのたゴブリン
大変長らくお待たせしました。
目が覚めるとパパとお姉ちゃんがテントをぐるぐる片付けていた。
「あ、サクヤ起きた?」
「おきた」
「起きたならどいトブォ」
ワタシがまくらを静かにさせると、お姉ちゃんがワタシに小さく切った肉を挟んだパンを渡してくれた。片付けとかはもう済んでいたみたいで、朝ごはんを食べた後はすぐに
「しゅっぱーつ!」
「しゅっぱーつ」
しゅっぱーつになった。
ミュスに乗ったワタシ達について来るまくら。
「オレも乗せて欲しいなぁ~なんて……」
「却下だ。自分の事は自分でやれと言った筈だぞ」
「ポァ!」
まくらの言葉にパパが返事して、ワタシのミュスがそれに合わせてまくらをつつく。ワタシが寝てる間になにか話し合ってたのかな?ミュス達がまくらを見張るみたいににらんでる。
「カミツキ君の教育はミュスに任せる事になったの」
ワタシが不思議そうにしてるのを見て、お姉ちゃんが教えてくれた。
まくらをつついているミュス達はちゃんと手加減しているみたい。……まくらよりミュスのほうが頭良さそうだし、任せて大丈夫だと思う。
それからしばらく走ったワタシ達。お昼に近くなった頃に、前の方の木々の向こうに高い石の壁が見えて来た。
大きな壁の大きな門、前のヤドリの町の壁より高くて大きいその壁の横に、袋を被った大きなゴブリンが立っている。……袋が変な形に尖ってるけど、袋にゴブリンって書いてあるからたぶんゴブリン。
「なにかの迷宮の入り口みたい」
「俺が前に来た時から随分様変わりした物だ。ゴブリンと言われてもミノタウロスにしか見えないんだが」
ミュスに乗ったお姉ちゃんと、ミュスから降りたパパがつぶやきながら近付いて行くと大きなゴブリンがパパに話し掛けて来た。
モーモー言ってて聞き取りにくいけど、まくらを指差して何か言ってる。まくらが悪いみたい?
「カミツキは街に入れないらしいな、どうしても入るなら同行者が必要だそうだ」
「師匠達が居るから何の問題もないっすね!」
ワタシがよくわからなかったのが判ったみたいでパパが教えてくれて、その横でなぜか胸を張ってるまくら。その手に、大きいゴブリンが【臨時 ペット枠】と書かれた袋を手渡した。
「今日の日付けと滞在期限が書かれてるのね〜」
興味を持ったらしいお姉ちゃんが、袋に書かれてる文字を読みながらまくらの頭に被せた。
「街の中でこれを外すとすぐに追い出されるんだって〜」
「命に関わる事もある、とは随分だな。まぁそれだけ重要という事なんだろう、忘れないようにな」
モーモー言う大きいゴブリンの言葉をパパが伝えてくれた。
大きいゴブリンに見送られながら大きな門をくぐって街の中に入ると、正面にまた大きな丸い建物が見えた。
門をくぐった途端に頭にざわざわ響いてくる感覚。あわててチカラを閉ざすと、ざわざわは消えて周りの感情がゆっくりと聞こえなくなっていった。
「あれはトンデン名物のコロセウムだな。この街では俺からあんまり離れないようにするんだぞ?」
「あんまり歩き回る子じゃないから大丈夫だとは思うけど」
「コノハ、お前もだ」
ミュスを引っ張って歩いているパパが正面の大きな建物を指差しながら注意して、お姉ちゃんがミュスを近付けてワタシの手を握ってくる。
トンデンの街は人の数がヤドリの街よりずっと多くて、ミュスに乗ってるとちょっと通りにくい。頭にゴブリン袋を被っているゴブリンもかなり多くて、大きいゴブリンちっさいゴブリンがいっぱい忙しそうに走り回ってる。馬みたいな身体のゴブリンも居るみたい。
馬っぽい身体から人っぽい身体が生えてて、本で読んだケンタウロスみたいだけどたぶんゴブリン。
コロセウムの壁の横にいっぱいある出店で、みんな買い物をしたり物を売ったりしてて楽しそう。ワタシも買い物したいな〜
「サクヤ、ちゃんと前見てないと危ないから。お買い物は先に宿を取ってからにしよう、ね?」
お買い物、できるみたい。
「ここが今日の宿だ。手続きをして来るから、ミュスに乗ったまま少し待っててくれ」
パパはそう言うとちょっと大きめの宿屋のお店に入って行った。パパが見えなくなった途端に、なんだか周りの人がこっちを見ているのが長くなった感じがする。お姉ちゃんがワタシの手を強く握って来た。
「いたい」
「あ、ごめんサクヤ。ちょっと色々考えてて」
「宿は取れたぞ、ミュスを厩に入れよう……どうかしたか?」
戻って来たパパに、お姉ちゃんは首を横に振って答える。どうもないみたい。
ミュスをミュス小屋に入れると、まくらはミュスと仲良くなりたいみたいで一緒にミュス小屋に入って行った。
「おかいもの」
「そうね〜。パパ、ご飯はどうするの?」
「宿で済ませたい所だが、それだとサクヤが収まりそうにないな」
「そう思う〜。わたしもちょっとお買い物してみたいかな」
「なら、買うのは食べ物以外にして食事は宿で取るか」
「賛成〜」
「さんせい〜」
なにを買うんだろう? ゴブリン袋が歩きまわる街の中を、変な歩き方でワタシとパパの手をぐるぐる引っ張りながら歩くお姉ちゃん。
「フンフフンフフ〜ン」
「ふふーふんふーん?」
……歩きにくい。
色々なお店と、色々なゴブリンと、やっぱり大きい丸い壁。
壁のまわりの道を、ぐるぐる回ってもずっと見えててなんだか変な感じ。ここの街の人達は変な感じにならないのかな?
「これはパン屋さん」
パン、知ってる。丸くておいしい。
「これは薬屋さん」
くすり、知ってる。馬車がゆれて気分が悪いときに飲むもの。
「これは洋服屋さんね、パパ、新しい服買いたい!」
洋服……なんだっけ?あ、ワタシが着てるこれだ。
「んー、まぁたまには良いか」
「やったー!」
「やった〜」
洋服屋さんのお店に入ると、色々ないろがあふれていた。白い、青い、黄色い、……紅い。
あかいのはいやだなぁ。と思いながらパパと一緒にお姉ちゃんの後をついていくワタシの頭が、またボーッとなって来て。
黒と一緒に走ってたワタシ……ワタシなのにワタシじゃない、なんだろう?
あ、これが夢なのかなぁ。
白い黒の白い背中。追いかける白。走って、走って、あと少しだと思った時に、急に黒が見えなくなった。
暗い灰色の空、空いっぱいに拡がる黒い翼。
赤い紅い、白の肉体
全身を貫く、声すら圧し潰される痛み、痛み、痛み。
大きな口が白の足を、おなかを、腕を引き裂いて、紅に染まる白の肉……。
手をつないでいた黒は何処だろう、何も見えない。
……クロって誰だろう。
「サクヤ、試着してみよ!」
手を引っ張られて気がつくと、お姉ちゃんが、しちゃく……しつ?の小さな部屋の中に入るみたい。
開いた部屋を閉ざす赤い布に、さっきの夢のクチを思い出してちょっとだけゾワッとなる背中。
パパが不思議そうな顔でこっちを見てるけど、どう話していいかわからないみたい。
お姉ちゃんと一緒に赤い布を抜ける時にふと目に入った、赤い、紅い、血の色の服。……血の臭いがした気がするのは、きっとシロのせいなのだろう。
ワタシはサクヤ、お姉ちゃんもパパも居る、だいじょうぶ。……こわくない。
少しだけこちらを書き進める余裕が出て来たので、久々に更新してみました。
今後もかなりのスローペースになるとは思いますが、自分で読みたい小説として書いている事もあり完結はさせたいと思ってます。気長にお待ち頂ければ。




