42 黒 とどめささない
「えっとね、前にゴブリンを見かけたって言ったと思うけど、その時にサクヤと戦って負けたからサクヤの子分になったみたい」
「ゴブリンの子分からサクヤの子分に鞍替えしたって事か?」
「そうじゃなくって、ゴブリンとも戦ってたから元々普通に人間の間で生活してたんだとおもう」
「えんとんとん、てき、まだとどめさすおわってない」
「それはもういいから……」
てきにはとどめさす、だいじ。
エントントンにもちゃんととどめさすしたいのに、何でお姉ちゃんはダメって言うんだろう?
「で、ゴブリンと戦ったあとでどっちが親分なのかを決めるために戦いを挑んで来て、サクヤが勝ったの」
「だからオレは親分の子分な訳で、付いていかなきゃならないんだ」
お姉ちゃんの言葉に、胸を張って続けるエントントン。
「……変な方向で筋は通っているが、だとしても爆弾投げつけられて尚付いて来るというのは少し無理があると思うんだが?」
「それもそうよね〜」
難しい顔をしたパパは難しい事を言ってる。
「正直に話せ、誰に雇われた?」
いきなり剣を抜いてエントントンに突き出すパパ。 あ、はずれた。
エントントンの首のところで剣が止まったパパ。エントントン動いてないんだから、首を切るならもっとちゃんと突き出さなきゃダメだとおもう。
「あ……あ……」
あ、しか言わなくなって固まってるエントントン。
「おしい、あとちょっと〜」「惜しくない!ギリギリセーフだよ!……ですよ!」
動かないままこっちに顔を向けてさわぐエントントン。うるさいなあ。
「どうでもいいが、さっさと吐かないと首が飛ぶぞ?」
エントントンの首に押し付けてる剣に、少しずつ力を込めていってるパパ、こういう時に言うことば、知ってる。
「いっき!いっき!」
「サクヤ、さすがにそれは」
手を叩きながら言うワタシに、なぜか首を振るお姉ちゃん。
「あってる?」
「合ってません」
首を傾げて聞いてみるワタシに、やっぱり首を振るお姉ちゃん。ちがったらしい。
「すいません!実は親分に養って貰おうと思ってましたっ!」「……は?」
ワタシとお姉ちゃんが話しているとエントントンがいきなり叫んで、さっきのエントントンみたいに固まるパパ。
「ミュスを即金で買える親分について行けば食いっぱぐれがないと思いました!ついでに剣術も教えてもらえそうだし、ついてったらいきなり新しい剣とか貰えたし、ついにオレの時代が来たと思いました!」
「……ああ、まあ、さっきのよりは筋は通ってるなぁ……」
ゆっくりと剣から力を抜いていって、鞘に収めるパパ。えー?とどめさすしないの?
「あと、メシ作ってるいい匂いがして、すげーいいタイミングだと思いましたっ!」
「ドサクサに紛れてごはんまで要求、こいつやるわね」
なんとなくホッとした感じのお姉ちゃんが、パパの代わりにツッコミを入れる。
エントントンは敵じゃないって事なのかな?
敵だったけど敵じゃなくて、とどめさすはしなくていい?……よくわからない。
「追い払っても普通について来そうだな……よし、こうしよう」
ワタシがエントントンについて考えていると、パパが何かを決めたみたいで、エントントンに向かって話し掛ける。
「先ず、路銀については全面的に自分でどうにかしろ、お前を養う理由などない。むしろ子分なら親分に貢ぐのが筋だろう。剣術に関しても、俺はお前に教えるような事はしない、覚えたければ見て覚える事だ。基本的に此方からお前には何もしない、付いて来るだけなら勝手にして構わないがこちらをアテにはするな。それが条件だ」
パパの長いことばに、うなづくお姉ちゃん。
んーと……やっぱりとどめさすはしないって事なのかな?エントントンは敵じゃなくなった?
「師匠厳し過ぎる!だがそれがいい!……とりあえずメシにしましょう、メシ!オレもう腹減って腹減って」
「おい、今の話聞いてたのか?」
「仲間にしてくれるって事っすよね!いただきまーっす!」
パパが煮込んでたキノコスープを勝手に食べ始めるエントントン。
顔を見合わせて、とりあえずごはんを食べてからという事にしたらしいパパとお姉ちゃんに、料理をほめながらひたすら食べてるエントントン、お腹がすいてたのは本当みたいかな。
「ところで、エンシェントコボルドって結局何だったの?」
「むご?ナニソレ?」
「えぇ〜、まさかの口から出まかせだったのね」
「わかんないけどたぶんそれっす」
たずねるお姉ちゃんに、なんだかよく解らないらしいエントントン。
エントントンはエントントンをよく知らないのかぁ。
なんだかむずかしい話すぎてよくわからない。
ぺらぺら喋りながらスープをモリモリ食べているエントントンを見ながら、ワタシは甘いパンをかじった。




