33 黒 うまととり
たびだちません。
「よし、メシも食ったしサクヤの調子も戻ったみたいだし、早速だが次のトンデンの町へ向かうか。 馬を買ったら宿から荷物を取って出発しよう」
「馬かあ、白い馬いるかな?」
お姉ちゃんは白いうまがいいみたい。
うま、ワタシは『邪魔』って言わないうまがいい。
パパに連れられてうま屋さんに行くと、お店の中にあふれかえる、くさい臭い。
うま屋さんの人は平気そうにしてるの、ちょっとすごいなぁ、と思いながら鼻をつまんで見て回ると、色々なうまが居た。
白いうま、茶色いうま、青いうま、黒いとり。
とり?
おっきい鳥が居る、へんな鳴き声。
「プー」「ぷー」
「ポー」「ぽー」
「ペァー」「ぱぴぷぺぽー」
「何語なの、それ」「こけぽっぽー」
しらない。
ワタシが鼻をつまんだまま首を振って答えると、腕を組んで首を曲げるお姉ちゃん。
「たぶん大鳥語?」
たぶんそれ。
「お、その大鳥が気に入ったかね?」
ワタシが鳥と話してると、うま屋さんの人が話に混ざってきて、色々説明してくれた。
みゅすは、うまと同じ乗り物の生き物みたい
馬車を引っ張るのにはうまより向いてないけど、上に乗っていくのには問題ないらしい。
この子は特に、オトシヨリだからちょっとお安くなっております。
……落としたのかな? 怪我とかはしてないみたいだけど、落としたらなんでお安くなるんだろう。
すごい高い所から落としたのかな?
「長く乗る予定じゃないし、まぁ気に入ったのならそれがいいだろう。 コノハはどうする?」
「うーん、白馬が良かったんだけど、サクヤがミュスにするんだったらミュスもいいかなぁ」
「じゃあミュス3羽にしとくか、鞍も頼む」
パパがあっさり決めて、ワタシはさっきの黒いみゅす、お姉ちゃんは白いみゅす、パパは茶色いみゅすを選んだ。
白もかわいいな、あとで乗せてもらおう。
パパがお金を払って3羽のみゅすを買うと、お店の人がみゅすの背中にイスをつけてくれた。
くら、というものらしいけど、イスだよね?
……あ、お金払えなかった。
ワタシとお姉ちゃんをみゅすのイスに乗せて、パパはみゅすの口、くちばし?につけてあるひもを引っ張って歩くみたい。
「ちょっと寄る所があるから、ここで待っててくれ」
うま屋さんから宿に帰る途中で、兵士の人がいっぱいうろうろしてる家の近く、立て札の前で立ち止まるパパ。
みゅすに乗ったワタシ達を離れた所に待たせて、立て札を見てちょっと寂しそうな顔をしてる。
お姉ちゃんは、手を目の上にかざして、立て札の方をじーっと見てる。
「ここからだと読めないなぁ、もうちょっと近くにしてくれたら良かったのに」
みゅすから降りる気はないらしい。
ここから10メートルくらいだし、読めると思うんだけど、お姉ちゃんは読めないのかぁ。
犯罪者、えっと、悪いことした人の名簿?みたい。
エゼン ザムト ラエール 以上三名
マツリ村への襲撃の罪により死罪と処す
執行については…………
ワタシのしらない人のことだった。
立て札を見ていると急に道の一方が騒がしくなって、馬車が兵士の人の家の前に止まった、ぎょしゃだいに居た人が、そのまま馬車から飛び降りて、パパの横を走り抜けて兵士の人の家に走り込んで行く。
ゴブリンの何とかかんとかって聞こえる。
「野ゴブが出たんだって?」
「まだゴブリン祭りには早くないか?」
その辺に居た町の人達がざわざわしてる。
「野ゴブリンか、珍しい物じゃないんだが、この辺だと大体トンデンの辺りに出るから、ゴブリン祭りの時以外はあまり見ない筈なんだが」
兵士の人の家に入って、すぐ戻って来たパパが教えてくれた。
「ゴブリン祭り?」
「ああ、コノハは知らなかったか? 説明が難しいな……まあ、ゴブリンの大量発生みたいなもんだ」
ゴブリン祭りは知らないけど、ゴブリンは緑で角があってゴブゴブーな生き物だったかな?
どの本でも、弱くておばかって書いてあったから、たぶん弱くておばか。
「だがちょっと厄介だな、数がわからん。
場合によっては数日様子を見る事になるかも知れないぞ」
そう言いながら、そこの人達の様子を見ているパパ、何か考え込んで、また兵士の人の家に入って行った。
集まってきた人達に囲まれて、みゅす達も何かポーポー騒ぎ始めてる。
「一旦宿に戻って、部屋を取っておかないとな」
「ポー」「ポー」「ポー」「ぽー」「ぽー」
また戻って来たパパに、みゅすとお姉ちゃんと一緒に返事して、そのまま騒ぎながら宿に着くと、尖った人が迎えてくれた。
みゅすは裏のうまやにひもで繋ぐみたい。
「とりあえず1日追加と、ミュスを預かってくれ」
「はいはい〜、3人で銅貨30枚です、ミュスはサービスで預かりますけど、食事は別料金になります」
「いらん」
「なんでですかよ!」
楽しそうに話しているパパと尖った人。
さんじゅう、さんじゅうかぁ……
お金を払おうとしてるパパに両手を出してワタシがお金を払いたいと主張してみると、サイフのふくろを渡してくれた。
いち、に、さん、ご、なな、はち、じゅう、きゅう…………まる、はむ、ぱん、さんじゅう!
できた!
数えたお金を渡すと、嬉しそうな尖った人。
「これがチップというやつですね!なんて可愛い娘さんなんでしょう!」
「いや普通に着服しようとするなよ……まぁミュスの預かり賃でいいか」
「あら、ほんとにいいんですか?言ってみる物ですね」
「まぁたまには小遣いくらいやってもいいか、程度だ」
「今だに子供扱いですかよ!」
ふたりともたのしそう。
「そうそう、トンデン側の街道沿いでゴブリンの群れが現れたの知ってます?」
「ああ、さっき聞いた」
「なんだ知ってたのです……ああ、それで一泊追加なのですね」
「そういう事だ。 ここならゴブリン程度は余裕で狩れる奴も多いし、長くはかからないだろうしな。 まぁ手は打っておいたからそんなに早く次の手が来るとも思えないし、今日はゆっくり休むか」
「て」
「じゃあミュスで遊んで来てもいい?」
パパに何か言おうとした尖った人にすかさず割り込むお姉ちゃん、割り込むタイミングを見てたみたい。
そしてちょっと失敗したみたい。
「あー、そうだな、騎乗に慣れておいた方がいい。 ミュスにここの宿の場所を覚えさせておけば、帰りは案内してくれるだろう」
「覚えさせる?」
「ああ、ミュスは大まかにだが言葉を理解するから、普通に話しかければいい」
「へー、馬はだめなの?」
「多分な」
「ふーん、まあいっか、じゃあいってきまーす」
「夕飯までには帰って来いよ、っと帰りについでに買ってきてくれ」
パパがお姉ちゃんにサイフのふくろを渡して、うなずくお姉ちゃん。
「いこう、サクヤ」「ぷー」
「気に入ったのね」
うん。
宿の裏側、うまやで自分のみゅすに乗って、ワタシ達はお散歩に出ることになった。
「ここの場所、覚えといてね」「ぷー」
ワタシがおぼえとくから、みゅすに頼らなくてもだいじょうぶ。




