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第12話 「忘れられた者たち」

鎖が砕ける。


轟音。


怪物が絶叫する。


世界そのものが悲鳴を上げていた。


「やめろ!」


記録者が叫ぶ。


今までで最も強く。


最も人間らしく。


「それを解放するな!」


レインは止まらない。


「交換」


対象。


最後の鎖。


代価。


残っている記憶。


世界が揺れる。


頭の奥から。


何かが消えていく。


大切な何か。


だが。


レインは笑った。


「思い出せなくてもいい」


記録者が止まる。


レインは続ける。


「忘れてもいい」


一歩前へ。


「だから前に進める」


リズが目を見開く。


それは。


彼女が見つけた答えだった。


失ったまま進む。


レインはそれを選んだ。


最後の鎖が砕ける。


怪物の胸部が崩壊する。


光。


眩い光。


そして。


鎖の奥にいた人影が。


ゆっくりと落ちてくる。


記録者が震えていた。


「やめろ」


小さく。


弱く。


「消えたくない」


初めてだった。


読者が見る。


本当の記録者を。


怪物ではない。


悪人でもない。


ただ。


忘れられることを恐れた人間。


その時。


レインの記憶が弾けた。


白い世界。


夕暮れ。


約束。


そして。


ついに。


顔が見える。


レインより少し年上。


黒髪。


優しい笑顔。


その人物が言う。


『絶対に迎えに行く』


幼いレインが笑う。


『約束だ』


世界が崩れる。


レインの瞳が開く。


思い出した。


全部ではない。


だが。


一つだけ。


絶対に忘れてはいけない人。


その存在を。


「兄さん……」


静寂。


リズが振り向く。


クロウも。


妹も。


レイン自身も。


驚いていた。


口から零れた言葉。


兄。


自分には。


兄がいた。


その瞬間。


空が裂けた。


巨大な影が。


初めて動く。


ゆっくりと。


腕を上げる。


その一動作だけで。


世界が停止した。


怪物も。


空間も。


時間さえ。


凍り付く。


格が違う。


存在そのものが違う。


妹だけが見ていた。


涙を流しながら。


「違う……」


震える声。


「違うよ……」


レインが振り向く。


妹は首を振る。


「お兄ちゃんじゃない」


全員が凍る。


妹の瞳だけが真実を映していた。


「あれは……」


言葉が続かない。


恐怖。


理解。


絶望。


全てが混ざる。


だが。


それ以上は言えなかった。


巨大な影が。


こちらを見たから。


その瞬間。


記録者が崩れ落ちる。


怪物が消える。


腕が消える。


灰色世界が崩壊する。


全ての記録が。


解放されていく。


無数の光。


空へ昇っていく人々。


忘れられた者たち。


処分された者たち。


消された者たち。


その全てが。


ようやく自由になる。


クロウは膝をついた。


光を見上げる。


「すまなかった」


二十年越しの謝罪。


誰に届くかは分からない。


それでも。


言わなければならなかった。


その時。


記録者が笑った。


穏やかだった。


初めて。


本当に。


救われたように。


「覚えていてくれ」


レインを見る。


「一人でもいい」


「忘れないでくれ」


レインは頷く。


「忘れない」


今度は。


約束ではない。


決意だった。


記録者の身体が光になる。


そして。


消える。


最後まで名前は分からない。


だが。


それでよかった。


名前より大切なものがある。


覚えていること。


それだけで。


十分だった。


世界が静かになる。


しかし。


空にはまだ。


巨大な影がいた。


消えていない。


むしろ。


近付いている。


レインは見上げる。


胸の奥。


失ったはずの記憶。


思い出した兄。


妹が見た真実。


そして。


巨大な影。


全てが一つへ繋がり始めていた。


その時。


空の向こうから。


声が聞こえる。


『見つけた』


レインの背筋が凍る。


その声を。


知っていた。


兄の声だった。


第三章


『失われた勇者』


開幕。

読んでいただきありがとうございます。

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