↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/42

第4話 「記録者」

巨大な影が地平線の向こうから現れる。


灰色世界そのものが揺れていた。


黒い人影は、その光景を見ながら笑う。


「やっぱり来た」


レインが前へ出る。


「お前は何者だ」


黒い人影は少し考えるように首を傾げた。


そして答える。


「名前はない」


「昔はあった」


「でも忘れた」


静寂。


だが次の言葉で空気が変わる。


「今は記録者レコーダー


クロウの顔色が変わった。


「記録者だと……?」


レインが振り向く。


「知ってるのか」


クロウは苦々しく答える。


「噂だけだ」


「価値世界の外にいる存在」


「消えた人間の記録を集め続ける怪物」


記録者は嬉しそうに頷いた。


「正解」


「だから君たちも記録する」


その瞬間。


巨大な影が動いた。


大地が割れる。


山のような巨体。


目がない。


口もない。


ただ無数の腕だけが生えている。


リズの顔が青ざめる。


「……また」


レインは違和感を覚える。


また?


知っている反応だった。


「リズ」


彼女は答えない。


拳を震わせている。


そして。


記録者が言った。


「久しぶり」


「生存者」


リズの肩が震える。


「やめろ」


「久しぶり」


「六人目」


世界が止まった。


レインが眉をひそめる。


六人目。


その言葉に違和感がある。


五人じゃない。


六人目。


記録者は続ける。


「君が逃げた」


「だから五人死んだ」


沈黙。


リズの顔から血の気が引いた。


妹もクロウも動けない。


レインだけが静かに見ていた。


リズが絞り出す。


「違う……」


「違わない」


記録者は即答した。


「君は逃げた」


「君だけ生きた」


リズの瞳から涙が落ちた。


三年間。


ずっと隠していた傷だった。


仲間を守れなかった。


ではない。


仲間を置いて逃げた。


それが真実だった。


レインは何も言わない。


責めない。


慰めない。


その時だった。


妹が突然空を見上げる。


「違う」


全員が振り向く。


妹だけが別の場所を見ていた。


「違うよ」


レインが問う。


「何がだ」


妹は指を差した。


巨大な怪物。


その胸部。


そこだけ空間が歪んでいる。


「中にいる」


空気が止まる。


「誰かが」


クロウの表情が凍る。


「まさか」


妹は頷く。


「閉じ込められてる」


その瞬間。


記録者の笑みが消えた。


初めてだった。


感情が揺れた。


レインは見逃さない。


(そこか)


弱点。


核心。


そして怪物が動く。


無数の腕が降り注ぐ。


逃げられない。


防げない。


だが。


レインは笑った。


「交換」


世界が軋む。


対象。


怪物の内部。


閉じ込められた誰か。


代価。


自分の視力。


右目が焼けるように痛む。


次の瞬間。


全員の位置が入れ替わった。


レインではない。


怪物の中心にいた人影。


それが外へ現れる。


世界が静止した。


リズの目が見開く。


「……え?」


そこにいたのは。


死んだはずの仲間だった。


三年前に消えたはずの少年。


記録者の声が初めて揺れる。


「ありえない」


レインも膝をつく。


右目から血が流れていた。


だが笑う。


「交換は」


「物だけじゃない」


「位置だけでもない」


初めて見せる応用。


存在位置そのものの交換。


記録者が後退する。


初めて恐怖した。


そして少年が呟く。


「リズ……」


少女の世界が崩れる。


死んだと思っていた。


三年間。


ずっと。


だが生きていた。


閉じ込められていた。


その事実が明らかになる。


そしてクロウが低く呟く。


「最悪だ」


レインが振り向く。


クロウは少年を見ていた。


信じられないものを見る目で。


「俺はこいつを知っている」


空気が凍る。


「価値世界で処分命令を出したのは」


クロウだった。


沈黙。


誰も言葉を失う。


クロウは拳を握った。


「だから俺は監査官を辞めた」


第2章最大の告白だった。


そして。


記録者はゆっくり笑う。


先ほどまでとは違う。


狂気を含んだ笑み。


「面白い」


「やっぱり人間は面白い」


空が割れる。


巨大な腕が再び降りる。


だが今度は違う。


リズが前へ出る。


涙を拭いながら。


「今度は逃げない」


その言葉と共に。


第二章最大の戦いが始まった。


(第5話へ)

読んでいただきありがとうございます。

感想・評価励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。