第2話 「灰色狩り」
白い裂け目が空を覆う。
巨大な瞳が灰色世界を見下ろしていた。
【異常個体確認】
【追跡継続】
【排除開始】
その声だけで空気が震える。
リズが舌打ちした。
「最悪だ」
さっきまでの軽さが消えていた。
レインは気づく。
初めて見せる顔だった。
「知ってるのか」
リズは短く答える。
「知ってる」
「だから生き残った」
その言葉には妙な重さがあった。
だが問い返す前に地面が揺れる。
灰色の砂が吹き上がる。
地平線の向こうから何かが現れる。
四足。
巨大。
全身が灰色の殻で覆われている。
狼に似ている。
だが大きさは家ほどあった。
妹が小さく呟く。
「また来た……」
レインが振り返る。
「知ってるのか?」
妹は頷いた。
「ここでは人を襲う」
「灰色狩り」
その瞬間。
狼が消えた。
速い。
次の瞬間には目の前。
クロウが叫ぶ。
「右だ!」
レインは反射的に飛ぶ。
直後。
いた場所が抉れた。
砂が爆発する。
リズが前へ出た。
「下がってろ!」
拳を握る。
そして殴る。
轟音。
灰色狩りが吹き飛ぶ。
地面を転がりながら数十メートル滑った。
レインの目が見開く。
「強いな」
リズは鼻を鳴らした。
「だから言った」
「この世界で一番強いって」
そして少し小さく付け加える。
「たぶん」
その瞬間。
灰色狩りが立ち上がる。
傷が消えていく。
再生。
クロウの顔色が変わった。
「まずい」
「核持ちだ」
レインが問う。
「核?」
クロウが答える。
「価値世界の価値核に近い」
「こっちは生命核だ」
「壊さない限り死なない」
リズが舌打ちする。
「面倒なんだよ!」
灰色狩りが再び突進する。
速い。
さっきより速い。
だが。
レインは前へ出た。
リズが叫ぶ。
「何してる!?」
レインは静かに言う。
「交換する」
久しぶりだった。
交換。
自分の力。
対象を見据える。
灰色狩り。
生命核。
異常な再生能力。
レインは手を伸ばした。
「交換」
対象。
生命核の価値。
代価。
自分の体力。
世界が軋む。
次の瞬間。
灰色狩りの身体が止まった。
狼が困惑したように動きを止める。
再生が消えていた。
レインは膝をつく。
身体が重い。
だが。
成立した。
生命核の価値を下げた。
リズの目が見開く。
「今の……」
レインが笑う。
「やるなら今だ」
リズの顔に笑みが浮かぶ。
「最高だ!」
飛び出す。
拳。
一撃。
灰色狩りの頭部が砕けた。
今度は再生しない。
巨大な身体が崩れる。
沈黙。
そして。
リズが笑った。
「初めて見た」
「そんな能力」
レインも笑う。
第1章では少なかった。
純粋な勝利だった。
しかし。
その時だった。
灰色狩りの死骸を見つめていた妹が呟く。
「違う」
全員が振り向く。
妹は震えていた。
「この子」
「逃げてた」
レインが眉をひそめる。
妹は死骸に近づく。
「追われてたんだ」
空を見る。
巨大な瞳。
白い裂け目。
その奥。
何かがいる。
リズの顔色が変わる。
「……嘘だろ」
レインが問う。
「何だ」
リズは答えない。
いや。
答えられない。
震えていた。
初めて。
あの明るい少女が怯えていた。
そして呟く。
「来る」
クロウの顔から血の気が引く。
「まさか」
リズが叫ぶ。
「逃げろ!!」
次の瞬間。
空そのものが割れた。
裂け目の奥から。
白でも灰でもない。
漆黒の腕が現れる。
世界を掴むように。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
こちらへ伸びてきた。
妹が呟く。
「……あれが」
「私たちを閉じ込めたもの」
レインの背筋を冷たいものが走る。
価値世界。
その外側。
さらにその外側。
まだ知らない敵がいる。
第二章はここから始まる。
(第3話へ)
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