第1話 「灰色の空」
風が吹いていた。
レインは地面に倒れていた。
硬い。
草でもない。
石でもない。
灰色の砂。
どこまでも続く灰色の大地。
そして。
空も灰色だった。
「……ここ」
言葉が漏れる。
知らない世界。
価値核もない。
監査官もいない。
あの息苦しい圧力もない。
なのに。
妙な違和感があった。
世界が静かすぎる。
「生きてるか」
声がした。
クロウだった。
地面に座り込みながら笑っている。
「死ぬかと思った」
「俺もだ」
レインが答える。
すると。
隣から小さな声。
「お兄ちゃん」
妹だった。
レインは振り返る。
少女は少し不安そうに立っていた。
その顔を見た瞬間。
胸が痛む。
大切な存在。
そう分かる。
だが。
思い出せない。
何一つ。
妹は気付いたようだった。
少しだけ寂しそうに笑う。
「やっぱり忘れちゃったんだね」
レインは黙る。
否定できない。
クロウが立ち上がった。
「まずいぞ」
珍しく真面目な顔だった。
「何がだ」
「ここが静かすぎる」
レインも気付いていた。
風しかない。
鳥もいない。
虫もいない。
動物もいない。
生命の気配がない。
その時だった。
遠くの地平線。
灰色の砂煙が上がる。
何かが来る。
かなりの速度で。
クロウが顔をしかめた。
「冗談だろ」
レインが目を細める。
やがて。
姿が見えた。
人だ。
いや。
違う。
少女だった。
十代半ばくらい。
赤い髪。
灰色世界の中で異常なほど鮮やかだった。
そして。
笑顔。
満面の笑み。
「見つけたあああああ!!」
叫びながら突っ込んでくる。
レインが反応する前に。
少女が飛びついた。
「いた!!」
「本当にいた!!」
「生きてる!!」
「人間だああああ!!」
レインは吹き飛ばされた。
「何だお前!?」
少女は涙目で叫ぶ。
「三年だよ!?」
「三年間誰とも会ってないんだよ!?」
「やっと人間来たんだよ!?」
レインとクロウは顔を見合わせた。
そして。
同時に思った。
(濃いな)
少女は胸を張る。
「私はリズ!」
「この世界で一番強い!」
一拍。
「たぶん!」
クロウが頭を抱えた。
「面倒なのが来た」
妹が小さく笑う。
レインも思わず笑った。
第1章では一度もなかった。
自然な笑い。
その時。
リズの顔色が変わる。
「伏せて!!」
直後。
空が割れた。
灰色の空間に。
巨大な裂け目。
その向こうから。
白い光が覗く。
レインの顔から笑みが消える。
知っている。
あの色を。
価値世界。
そして。
裂け目の向こうから声が響く。
【異常個体追跡継続】
【対象確認】
【レイン】
【発見】
リズが呟く。
「……は?」
クロウの顔色が変わる。
妹がレインの袖を握る。
そして。
白い裂け目の奥から。
巨大な白い瞳が開いた。
世界そのものがこちらを見ている。
【第二監視層 起動】
レインは静かに前へ出る。
追ってきた。
世界の外側まで。
なら。
今度は逃げない。
灰色世界での最初の戦いが始まる。
(第二章 第2話へ)
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