〈7-3〉それぞれの思惑
司祭長リベリオが魔法学園に向かっている。
それを阻止するため、リゼット達は再び学園を離れることとなった。
「も、戻ってきて二日でまた離れることになるなんて……」
「……………………もうちょっと、いたかった」
「学園長仕事早すぎるよぉおおお!!!でも、またみんなと一緒にいられるからうちは嬉しい!!!!!」
そんな思いを、学園を眺めながら声に出す。
アストルフォに帰ってきて二日。そして学園に戻ってきたのはたったの一日だけ。
それでもリゼット達の心には名残惜しさが残っていた。
「でも、リベリオを撃退したらまた戻ってこれます。皆さん、頑張りましょう」
そんなリゼット達に、ラミアが励ましの言葉を送る。
「そうね。ラミアの言う通り、リベリオの撃退に向かうとしましょ」
彼女の言葉に、五人は大きく頷いた。
しかし、スピカがそう告げた後、彼女は小さく口角を上げて言葉を続けた。
「……なんて、言うと思った?」
「えっ?」
彼女の言葉に、全員の肩が小さく上がった。
リゼット達を見つめるスピカの瞳に大きな疑念が宿る。
「シキ、あなたさっきなんて言ったか覚えてる?」
「えっーっとね!!うーーん…………アイス食べたい!!」
「何言ってんのよ」
バシッ
「いたっ!」
まるで何も考えていないシキの発言にスピカのデコピンが飛ぶ。
「……………………仕事が、早い」
「あ!それだ!!!」
「それだ!!!じゃないのよ。自分で言ったんでしょ」
スピカは呆れた表情でシキを見たあと、視線をリゼットへと向ける。
「書物庫を調べると言っても、偶然とかじゃなければいくらなんでも早すぎるわ。それに、司祭長の名前をピンポイントで伝えてきた。あまりにも出来すぎているわ……」
「たしかに、いくらなんでも早すぎるのは確かだな。ラミア、お前は学園長と一緒にいたんだろ?なんか怪しい動きとか無かったか?」
スピカの言葉にたしかにとアルケーが小さく呟き、そして視線をラミアへと向けて、問う。
「普通でした。でも書物庫を調べに行く時に私も一緒に行こうとしたら、ここで待ってて欲しいって言われまして。だからそこからの学園長さんが何してたのかはわからないです」
ラミアがそう言うと、スピカは再び顎に指を当てて考え込む。
ワクスの表情からは嘘や邪念は感じ取れなかった。けれど、彼の言葉や行動には疑念が多く残る。
本当に、アーカーシャ教団の司祭長の名はリベリオなのだろうか。
本当に、この学園に向かってきているのだろうか。
様々な疑問がスピカの脳裏に過ぎる。
そんな時
「なぁ、大事なこと忘れてねぇか?」
「大事なこと?」
突然アルケーから放たれた言葉に、スピカが返す。
「そもそもそのリベリオってやつ、名前しか知らねぇだろ。顔も知らなきゃ魔法も知らねぇ。そんな奴を撃退しに行けってのがまずおかしいだろ」
何気ないアルケーの一言に、スピカは大きく目を見開いた。
「たしかに、あなたの言うとおりだわ。私も疑問があまりに多すぎて大事なことを見落としていたみたいね。ありがとう、アルケー」
スピカはアルケーを見つめて小さく微笑む。
リゼット達はリベリオの名前しか聞かされていない。アルケーの言う通り、顔も魔法も何もかもを知らない。
更に、もし本当にワクスが書物庫からアーカーシャ教団に関わる情報を見つけていたとしても、少なからずその書物を見せてもおかしくない。
「つまり、リベリオは司祭長じゃない。ということですか?」
「………………………可能性はある」
ラミアの質問に、リゼットが小さく答えた。
「その通りね。けど、それが確定したわけじゃない。ならばこちらからも動くとしましょ」
そしてスピカは作戦を立て、それを五人に説明する。
「まず私達は一度家へ戻るわ。そして夜もう一度学園に行きましょ」
「ま、また夜かぁ。でもどうして?」
再び夜の学園に少し嫌そうな表情でヴェーターが言う。
「書物庫よ。ワクスの発言が嘘か本当かわからない以上、こちらで確かめる必要があるわ。それなら、夜の学園に侵入して私達で書物庫に行くとしましょ」
スピカの作戦はたしかに有効だ。
人から聞く情報と自分の目で確かめる情報には雲泥の差がある。
彼女はまず真相を確かめることが優先だと判断した。
しかし
「……………………多分、無理」
「え?」
リゼットがそれは不可能だとスピカに告げる。
「…………………これ」
彼女は首元から静かにワクスから貰った首飾りを取り出す。
「この首飾りがどうしたの?」
「…………………探知系の魔法、かかってる」
ワクスからセフィラの魔術師になった記念に貰った首飾り。
リゼットは、そこに嵌められた魔力石に込められたものを既に解析していた。
彼女がそう言った途端、その場にいた五人が大きく肩を震わせると共に、驚愕の瞳を向けた。
「探知魔法!!!?じゃあうちら監視されてたってこと!!?これ捨てちゃおうよ!!!」
「そ、そういえばリゼット、休み時間ずっとこれ見てたもんね………」
「趣味悪ぃ、ぶち壊しといた方が良さそうだな。だが、これで益々怪しくなってきたってわけだ」
突然放たれた事実。誰もがその首飾りを捨てようとした時
「待って」
と、スピカが止める。
「今これを壊したら、私達が探知されてることに気が付いたとバレてしまうわ。そうなると次にどう動くか分からない」
探知されているということは六人の行動も見られているということ。
つまり、ワクスに疑念を悟られないためには一度アストルフォを出るしかない。
しかし、それをスピカは逆手に取る。
「ええ。けど、私達が向かうのはリベリオと戦うためじゃないわ」
「ど、どういうことですか?」
スピカの発言にラミアが首を傾げた。
「考えてみて、私達はリベリオの顔も知らない。魔法も知らない。彼の名前以外の何もかもを知らない。けれど、外に出ればリベリオと会えなくても、リベリオに関する情報を探ることはできるわ」
撃退ではなく情報収集、これがスピカの取った作戦だ。
「たしかに!!街を出れば、ちゃんと向かってるように見えるもんね!!!」
「いい案だな。俺も賛成だ」
「流石スピカさんです」
彼女の提案にそれぞれが賛同の声をあげる。
リベリオという存在がまだ未知である以上、情報を集める必要がある。
それに探知されている以上、この街を出るしかない。だからこそ今の六人にできることはそれしか無い。
「全員着替えたらアストルフォの門前に集合ね」
スピカがそう口にすると、五人は返事をしながら頷いてその場を離れた。
そして数時間後。
「みんな揃ったわね」
「もっかい冒険だね!!!!!」
「でも、私はまた皆さんと旅ができるのは嬉しいです」
それぞれが門前で小さな会話を広げる。
「だがよ」
そこにアルケーが会話を割り込み、口を挟んだ。
「この首飾り、どうするよ」
アルケーは首飾りを首元から取り出す。
たしかにこれがある以上、六人の行動は把握され続けることとなる。
だが、その対策も既にスピカは用意していた。
「道中で壊すのよ」
「は?壊したらバレるんじゃねぇのか??」
スピカの発言にアルケーが大きく首を傾げる。
「それはさっきの話よ。でも道中で壊したら、リベリオとの戦闘中に壊れてしまったという口実ができるわ」
「なるほどな、それなら問題ねぇか」
その言葉にアルケーは納得した顔で頷いた。
「さて、全員大丈夫かしら?」
スピカがそう言うと、それぞれが大きく頷く。
「さ、行くわよ」
そして六人は再びアストルフォの街を離れた。
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「どうやら、行ってくれたようだね」
学園長室。
ワクスが地図を眺めながら呟く。
その地図には六つの小さな紫色の光点がゆっくりと移動していた。
「さて、僕の方もそろそろ動くとするかな……」
ワクスは席を立ち上がり、学園長室を後にした。




