〈7-2〉司祭長の名前
エウケー魔法学園、新学園長ワクス。
彼は穏やかな表情でリゼット達を迎え入れた。
「この子は?」
ふと、ワクスが五人の隣にいる小さな少女へと目を向ける。
「ラミアです。よろしくお願いします」
と、ラミアはそう名乗ると、小さく頭を下げた。
元々ラミアはこの学園とは無関係の者だ。五人と共に学園長室へやって来た彼女を疑問に思うのも無理はない。
「あぁ、君がラミアくんか。状況から見るに、この子達と一緒についてきたってわけだね」
ワクスは納得したように大きく頷く。
「本来、この学園への入学は十六歳からになるんだけど……まぁ、今回は特例としようか。それに、ここにいてくれた方が好都合だしね」
「好都合とは?」
ワクスの発言に、スピカが反応する。
「今日、君達を呼んだのは他でもない。祝福するためだからさ」
「祝福?」
「ああ。学園の生徒から新たなセフィラの魔術師が生まれた。それは僕にとっても、この学園にとっても喜ばしいことだからね」
ワクスは満面の笑みを浮かべると、机の引き出しから小さな箱を取り出し、そこから魔力の込められた小さな首飾りを取り出す。
中心には紫色の魔力石が埋め込まれ、その奥に微かな光が揺らめいていた。
「僕からの就任祝いだ。受け取ってくれ」
ワクスは一人一人に首飾りを渡す。
「すご!!なんか可愛い!!!」
シキは受け取った首飾りを光にかざし、目を輝かせる。
「こういうのがあると、僕達も凄い人になったんだって実感湧いてくるなぁ……」
「セフィラの証ってやつか」
ヴェーターとアルケーも、その輝きに興味を示し、魔力石をじっと眺めていた。
「……………………綺麗」
リゼットは掌に乗せた首飾りを、静かに見つめる。
「喜んでもらえたなら何よりだよ」
そんな六人の様子を、ワクスは微笑みながら眺めていた。
「さて、実はもう一つあるんだ」
やがてワクスは六人へと視線を戻す。
先程までの柔らかな表情が消え、少しだけ真剣なものへと変わる。
「君達が学園を離れていた理由を、教えてくれないか?」
「私が答えるわ」
ワクスの問いに、スピカが口を開く。
彼女は、これまでに起きた出来事を順を追って説明していく。
前学園長マグヌスを殺害した犯人が、元教師でありセフィラの魔術師でもあったゲラーテだったこと。
そのゲラーテと彼女を追ったメルティを追うために、五人で学園を離れたこと。
そして旅の中で、旧セフィラの大多数がアーカーシャ教団と呼ばれる組織に属していたことを知ったこと。
ワクスは時折小さく頷きながら黙ってスピカの話に耳を傾けていた。
一通り話を聞き終えると、ワクスは僅かに考え込む。
「アーカーシャ教団、ね」
「何かご存知で?」
「名前を聞いたことがあるくらいで、詳しいことは分からないんだ」
ワクスは六人へと視線を戻す。
「こちらでも少し調べておくよ。もしかしたら、学園の書物庫に何か情報が載っているかもしれないからね」
「え!! 学園長も協力してくれるってこと!!!?」
シキが嬉しそうに身を乗り出した。
「もちろん。学園の今後にも関わってくるだろうし。何か分かったことがあれば、君達にも伝えるよ。それまでは、今まで通り学園生活を送っているといい。ラミアくんのことは僕が面倒を見るから、安心してくれたまえ」
「すみません。よろしくお願いします」
ラミアはワクスを見つめて小さく頭を下げる。
「いいんだ。君もゆっくりしていってくれ」
「はい」
ラミアは小さく返事をする。
「さて、私達も戻りましょ。学園長、ラミアのことをよろしくお願いしますね」
「うん。任せておいてくれ」
五人はワクスに一礼すると、学園長室を後にした。
長い旅を終えた五人に、以前と変わらない日々が戻ってくる。
こうして、リゼット達は再び普通の学園生活を送ることとなった。
「……………………」
「リ、リゼット……ここ教えてくれる?」
「……………………こう」
リゼットは沈黙の表情で授業を受け、ヴェーターはそんな彼女に教えて貰いながら進める。
「スピカぁぁああ!分かんないよぉおおおお!!」
「はぁ……。仕方ないわね」
シキはついていけないと頭を抱え、それを小さくため息をつきながらスピカが教える。
「オラぁぁああ!!!」
アルケーはいつも通りの魔法演習だ。
戻ってきた日常を、ただ当たり前のように満喫する。
ただの何気ない一日が、五人にとって輝いて見えた。
そして
─────────────────────────
放課後。
「か、帰ろっか。シキ達ももう終わってると思うし」
「………………うん」
リゼット達が帰り支度をする中、再び学園からの放送が鳴り響く。
『生徒のお呼び出しを申し上げます。リゼット、シキ、スピカ、ヴェーター、アルケー。以上五名は、至急学園長室へお越しください』
「よ、呼び出しだって。なにか分かったのかな」
「………………行ってみよ」
リゼットとヴェーターは帰り支度を中断し、すぐに学園長室へ向かう。
「リゼット!!ヴェーター!!!」
「アルケーも出てきたわね」
「呼び出しの話は聞こえてたよな?行くぞ」
廊下で揃った五人はそれぞれ顔を合わせ、頷く。
想像よりも早い収穫。
その情報に期待しながら五人は学園長室へと走っていった。
「良かった、来てくれたんだね」
「皆さん。いいお知らせがあるんです」
中に入ると、笑顔で迎えるワクス。
ラミアは五人の元へ駆け寄り、その隣に立った。
「アーカーシャ教団について、わかったことがある」
彼はいつもの笑顔から急変し、真剣な視線を向ける。
それは、重要な手がかりを見つけたとでも言いたがるような、そんな瞳だった。
「アーカーシャ教団、司祭長の名が判明した」
「えっ」
その一言に、リゼット達は目を見開く。
そしてワクスの口から小さく、その名が告げられる
「アーカーシャ教団、司祭長。その名はリベリオ」
「……………………リベリオ」
彼の口から告げられたその名を、リゼットが小さく復唱する。
そんな彼女達を見たワクスが再びその口を開く。
「それと同時に、セフィラの魔術師として依頼したいことがある。それはリベリオの撃退だ」
「撃退?」
突然の依頼に戸惑う六人。
しかし、ワクスからは更に驚愕の情報が提示された。
「友人に協力してもらったところ、彼は今この学園に向かっているという情報も入ったんだ。だから、君達にはそれを阻止して欲しい」
「えぇええええ!!!ここに来てるの!!!!???」
司祭長リベリオがこの学園へ向かっている。
もしワクスの情報が正しければ、再びこの学園が戦場になる可能性も充分に有り得る話だ。
それだけは避けなければならない。
リゼットは静かに顔を上げた。
「…………………………わかった」
リゼットが小さく言うと
「俺も行く」
「私も行きます」
「うちも!!!!」
「ぼ、僕も行くよ」
「もちろん、私も行くわ」
と、次々と承諾の声を上げる。
「ありがとう。彼はロドモンテを経由して来ているらしい。急ですまないけど、頼んだよ」
ワクスはそう言うと、学園長室を出ていく六人の姿を見送った。
そしてリゼット達は学園を守るため、司祭長リベリオの撃退へと向かった。




