〈7-4〉英雄の名
学園長ワクス。彼の言葉の真偽は定かではない。
本当にリベリオはアーカーシャ教団の司祭長なのだろうか。この探知魔法入りの首飾りは一体なんのために付けさせたのだろうか。
少なくとも、六人の行動には細心の注意と警戒が必要だった。
「リゼット」
「………………?」
アストルフォの門前、スピカに呼ばれたリゼットが小さく首を傾げる。
「今回もあなたの人形の風魔法で向かうわ。行き先はガヌロン王国よ」
「…………………わかった」
リゼットは人形を複製し、風魔法で六人を浮かせる。
そして六人は再びガヌロン王国へと向けて空を飛び立つ。
リベリオの情報を集めるため、そして学園長ワクスの真相を知るため、リゼット達は再び学園の外へと飛び出した。
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「ガヌロン王国ぅううううう!!!!」
「そんな経ってねぇと思ってたけど、割と懐かしく感じるもんだな」
再び訪れる場所に、シキとアルケーが懐かしさに浸る。
「…………………ただいま」
「た、ただいまはちょっと違う気がするけど……」
リゼットはまるで故郷にでも帰ってきたかのようで周囲を見渡し、呟く。
そんなリゼットに静かに口を挟むヴェーター。
「あの、すみません」
「ラミアちゃん!どうしたのー!!?」
「私ここに来るの初めてなので、少し観光しながらでもいいですか?」
と、ラミアが自信無さそうに五人に問いかける。
以前ガヌロン王国に来た時、ラミアは別行動をしていた。
つまり、彼女がここに来るのは初めてだった。
「観光!!!うちもラミアちゃんと観光する!!!!」
「テメェは前も来ただろうが、何しに来たんか忘れたんかバカ」
ゴツンっ!
「いだいっ!!」
自分もラミアと観光しに行こうとはしゃぐシキの頭にアルケーの拳が落ちる。
「ふふっ」
そんな三人を見てスピカが小さく微笑んだ。
「そうね。いつまでも重苦しい空気になってるのもあれだし、少しばかりハメを外しましょ。観光を兼ねた情報収集ってところかしら」
「え!!!!いいの!!!!???」
スピカの提案に真っ先に反応したのはシキだ。
シキは目を輝かせながらスピカに視線を向ける。
「メインは情報収集よ。そこは忘れないようにね」
「はーい!!!ラミアちゃん!行こ行こーー!!!!」
「ちょっ、シキさん、そんな引っ張ると腕が痛いです」
スピカの言葉を聞いているのか怪しいシキは、ラミアの手を強引に引っ張り走っていく。
「はぁ…あの子ったら全く………」
「あいつは言っても仕方ねぇよ。バカだし」
小さくなっていくシキの背中を見つめながらため息をつき、頭をかかえるスピカとアルケー。
「ぼ、僕たちも行こっか」
「……………………うん、行こ」
シキたちの背中を追うように、リゼットとヴェーターもその場を離れた。
「さて、私達も行きましょ」
「そうだな、早くしねぇとあのバカがどこ行くかわかんねぇし」
スピカとアルケーもまた、ゆっくりと四人を追いかける。
「迷子になるのはあなたも心配だけどね」
「なんで俺もなんだよ!?」
「あら?海で溺れかけてたのは誰だったか覚えてないのかしら??」
「ちっ、嫌なこと思い出させやがって」
嫌なことを思い出させられ、仏頂面でスピカから視線を逸らすアルケー。
「ふふっ」
そんな彼を見て、スピカは静かに笑みを浮かべた。
それから六人は情報収集を兼ねた観光を満喫した。
「見て!!アイスだって!!!食べに行こうよ!!!!」
「こらシキ!あんまりはしゃがないの!!!」
と、目的を忘れてはしゃぎ回るシキをスピカが追いかけたり
「これ、美味しいですね。皆さんは前来た時も食べたんですか?」
「いや、前行った時は来なかったな。そんな暇無かったしよ」
と、まだ行ったことの無いお店の料理を食べてみたり
「……………………これ、かわいい」
「リゼット人形好きだよね。僕も何か見ていこうかな」
と、自分の好きなものを見に行ったり
それぞれがそれぞれの時間を満喫していた。
しかし、その過程で情報収集も忘れない。
店主や街行く人々にリベリオという名を出し、話を聞いて回る。
「リベリオ?そりゃもちろん知ってるぞ!なんたって英雄の名だからな!」
「もちろん知ってるわよ!英雄リベリオ。魔法無くして世界の頂に立つ者!憧れるわぁ」
「リベリオってあの英雄リベリオだな!もちろん知ってるわよ。なんてったって俺たちの希望の星だからよ!」
人々は彼をこう呼んだ。
【英雄】と。
「英雄……。称号だけは聞いたことあるけれど、リベリオという名前は初めて知ったわ」
足元を見つめ、考え込むスピカ。
「英雄ってことはさ、アーカーシャ教団の司祭長じゃないってことじゃない!!?」
そんなスピカに、シキが口を挟む。
「いいえ、そうとは限らないわよ」
「どうして!!?英雄なんだよ!!!?」
「思い出してみて。この国は既にアーカーシャ教団の信仰者で溢れている。もし仮に司祭長を英雄と呼んでいるのであれば、彼が本当に司祭長である可能性も出てくるわ」
以前来た時もガヌロン王国ではアーカーシャ教団の布教が広まっていた。
今回は女王メルゴがセフィラの魔術師から降りた影響からか、以前程の布教や勧誘は見られなかったものの、ちらほらとその名を口にする者はいた。
「じゃあ会ってみねぇとわかんねぇじゃねぇか」
「でも顔が分からないんですよ。私も容姿について色々聞いて回りましたが、見た事ないの一点張りでした」
様々な情報を聞いて回ったが、その容姿は不明のまま。
得られた情報は、彼が【英雄】と呼ばれていること。
そして、魔法を使えないということだ。
「……………………魔法が、使えない」
突然リゼットが足元に視線を落とし、小さく呟く。
「……………………アーカーシャ教団は、魔法の無い世界を、望んでる」
何気無く放たれたリゼットの一言に、スピカが反応する。
「確かに、辻褄は合うわね。リベリオが魔法を使えない。そしてアーカーシャ教団は魔法のない世界を望んでいる。少なくとも学園長の話と矛盾はしていないわ」
まるで点と点が繋がるかのように、リベリオが司祭長であるという理由が生まれてくる。
スピカは言葉を続ける。
「でも、それだけでリベリオ本人が魔法を憎んでいる証拠にはならない」
それはワクスの信用が確実になったわけではない。
だが、アーカーシャ教団を信仰する者にとっての英雄であり、魔法を持たずして頂へと立つ男。
疑えば疑うほど、ワクスの言葉は奇妙なほど事実と噛み合っていく。
「ならばリベリオを探しましょ。少しでもいいわ、容姿でも服装でもなんでもいい。その情報を集めましょ」
スピカが告げ、それぞれが再び歩き始めようとした
その時
「オレのことを調べてる人がいると聞いたんだが、もしかして君達かい?」
ふと後ろから聞こえた声に、六人は一斉に振り向く。
そこに居たのは腰に剣を構えた一人の青年だった。
「あなたは?」
スピカの問いに、青年は答える。
「オレの名はリベリオ。ただのしがない剣士さ」
出会いは突然だった。
リゼット達の前に今、探し求めていたリベリオ本人がそこに立っていた。




