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WitchDoll〜傀儡人形は夢を見る〜  作者: うつろ
Chapter-1【エウケー入学編】
8/12

〈1-7〉小さな一言


────────────────


「またねリゼット!ちゃんとヴェーターのこと誘っておいてよーー!!」

そう言うとシキは勢いよく屋上を後にする。

スピカもまた静かに手を振ると、シキと共にその場を離れた。

「…………………………」

ヴェーターを誘う。

シキがほぼ強制的に決定したことだが、今の自分には出来そうな気がしていた。


────────────────



放課後。

授業を終えた生徒達が、それぞれ友人達と談笑しながら教室を後にしていく。

「じゃあねー!」

「また明日〜」

賑やかな声や笑い声が、徐々に静寂へと変化していく。

そんな中、リゼットはただ静かに席へ座っていた。

「……………………」

腕の中には、いつものアンティークドール。

その隣ではヴェーターが机へ顔を伏せ、小さく身体を縮こませている。

「ぅぅ………………帰りたい…………」

ぼそぼそと小さな声が漏れる。

どうやら彼は、皆が帰った後に一人でこっそり帰っているようだ。

「…………」

その姿を見て、リゼットは小さく視線を落とした。


『ヴェーターのこと、誘っといてね!!』


不意に、シキ言葉が脳裏に浮かぶ。


『あの子、多分自分から来れないタイプだからさ!!よろしくね!!!!』

『……あなたもでしょう?だから、あなたにしかできないと私は思うわ』


スピカの静かな言葉。


「……………………」

沈黙。

二人だけ残された教室には、ただただ静かな時間だけが流れていく。

ヴェーターは何も言わない。そしてリゼットもまた、何も言えない。

自分から声をかけるのはまだ怖い。 けれど、逃げたくは無かった。

リゼットは小さくアンティークドールを握る。

シキがくれた温度。 スピカがくれた言葉。

あの時感じた暖かさが、彼女の中に残っていた。


「……………………」

小さく震えながら、息を吸う。そして……

「………………ねえ」

その声に、ヴェーターの肩が上がる。

「ぇっ…………」

ヴェーターがハッと顔を上げる。

一瞬リゼットの顔を向いたが、その顔はすぐに自分の足元へと向けられていた。

リゼットはそんな彼をただ見つめた。

自分とどこか似ていると感じた。

周囲を怖がって、自分を閉じ込めて、一人で小さく震えている。

でも……いや、だからこそ

「…………一緒に……帰ろ……………………?」

小さな声。今にも消えてしまいそうな弱々しく淡い声。

けれど確かに、それは今のリゼットが心から絞り出した言葉だった。

ヴェーターの瞳が少しだけ揺れる。

そして初めて、彼はちゃんとリゼットの目を見た。

「……………………」

その瞳は不安そうだった。今にも壊れそうで、涙が溢れてしまいそうで。 それはまるで、もう一人の自分のようだった。

「……………………えっと……」

ヴェーターが戸惑う。

リゼットもまた同じ気持ちだった。

彼が向けたその視線は、まるで自分自身を映し出しているかのようだった。

だからこそ、リゼットは胸に誓う。絶対に逃げないと

シキとスピカが、自分の手を握ってくれたように。

今度は、自分が。


リゼットはゆっくりと、ヴェーターへ手を伸ばした。

「っ…………」

ヴェーターが少しだけ目を見開く。

そっと触れる、柔らかくて冷たい手。

その瞬間、ヴェーターは気付いた。

リゼットの手もまた、小さく震えていたことに。

「…………怖いの……?」

思わず、そう聞いていた。

「………………ううん」

リゼットは首を横に振る。

そして少しだけ視線を逸らし

「ただ…………すこし、楽しみなだけ………………」

そう呟いた。

ヴェーターは静かに、その言葉を聞いていた。

共感ではない。寄り添いでもない。

でもその言葉は、不思議とヴェーターの胸の奥に静かに響いた。

「……………………はは、なにそれ」

その瞬間、ヴェーターが少しだけ笑った。

「……シキちゃん達に頼まれたんでしょ?顔に書いてあるよ」

気の抜けたような声。でもどこか柔らかくて、優しい声。

その言葉に、リゼットも少しだけ目を丸くする。

そして……

「………………うん……」

リゼットは不意に目線を逸らす。

そして、ほんの少しだけ小さく笑った


「…………………………行こっか」

リゼットが静かに立ち上がる。

ヴェーターも小さく頷くと、席を立ち上がった。

静寂の中、二人は並んで教室を後にした。





────────────────




校門前。

「あ!やっと来たぁあ!!遅いよぉぉぉぉ!!!!」

シキの大声が三人の耳を貫く。

「待ちくたびれたよ〜!!!」

「そう?私はあまりにもあなたが喋るものだから、あっという間に感じたわ」

隣でスピカが呆れたように笑う。

そんな二人の姿を見て、ヴェーターが小さく肩を震わせた。

「ぁあ…………今日も元気だ…………」

ヴェーターは咄嗟にリゼットの後ろに隠れる。

彼の心から人に対する恐怖は消えていない。

でも、今はこの時間がどこか安心するとも思えていた。


「ねぇねぇ!!せっかくだしこの後どっか寄ってかない!?初一緒帰り記念!!!」

「それはまた今度よ。明日もあるんだから」

「えぇーーーー!!!」

また始まるシキとスピカのやり取り。

きっといつか聞き飽きたと思えてしまいそうな、他愛もない会話。

でも、その時間がとても大切なものに思えた。

これから先、もしこれが当たり前になったとしても。

きっと今日のこの気持ちは、星のように胸の奥で輝き続ける。


リゼットは静かに空を見上げた。

夕陽が、四人を優しく照らす。

地面へ伸びる四つの影。

その影はまるで、この先もずっとこの時間が続いて欲しいと願うように、長く伸びていた。

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