〈1-6〉星の輝き
エウケー魔法学園の教室は、今日も生徒達の賑やかな声が響いていた。
「ねぇスピカスピカ!!」
その喧騒の中を、紫色の髪を揺らしながら一目散に水色の髪の美女に駆け寄る少女。
シキだ。
「リゼットとヴェーターってさ、なんか不思議って感じするよね!!!」
まるで語彙力の無い彼女の言葉に、正面で座るスピカが小さく息を吐く。
「そうね……。あなたに半ば強引に昨日紹介されたけど、少し違和感を感じるわ…………」
「特にあのリゼットって子。まるで中身が空っぽのような、それで何かに埋め尽くされてるような、そんな感覚がしたわ」
スピカは静かに窓の外を見る。
雲に覆われた青空が、まるで彼女の心を表すかのように映る。
「でも、不思議なの」
「ん?」
シキが首を傾げる。
「彼女、ずっと苦しそうな顔をしているのよ」
「え?でもリゼットって常に無表情じゃん!」
「……表情だけじゃないわ」
スピカの瞳が細くなる。
「あの子はずっと、どこか自分を押し殺している」
その言葉に、シキは少しだけ喉を縮めた。
昨日、シキがリゼットの手を握った時、彼女の指は確かに震えていた。
まるで、誰かと触れ合うことそのものを恐れているように。
「でもさ」
シキは小さく笑う。
「昨日、ちょっとだけ笑ってたよね!」
その言葉に、スピカは静かに目を閉じた。
「ええ」
長い水色の髪が静かに揺れる。
「だからこそ、気になるの」
「気になる?」
「……あの子は、壊れてしまいそうだから」
その声は、とても静かだった
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屋上。
昼の暖かい風が、静寂に吹く。
「……………………」
リゼットはフェンスの向こうへ広がる空を、ただ静かに見つめていた。
淡い金色の髪が風に揺れる。
その腕の中には、いつものアンティークドール。
昼休みだというのに、彼女は誰とも話していなかった。
ただ一人で、静かに空を見ていた。
「ここにいたのね」
屋上の静寂に乗るような美声が聞こえる。
リゼットが小さく肩を揺らし、振り返る。
「……………………」
その後ろから、まるで静寂の空気を壊すかのようにシキが顔を出す。
「やっほー!元気ー!?」
「…………こんにちは」
小さく、今にも風にかき消されてしまいそうな声。
でも昨日より、ほんの少しだけ柔らかいような気もした。
シキはリゼットの隣へ寄ると、そのまま空を見上げた。
「いや〜、いい天気だね!!」
「…………うん」
「リゼットはこういうとこ好きなの?」
「……………………」
リゼットは空を見る。
青空、流れる雲、遥か遠くを飛ぶ鳥。
その光景を目に、リゼットはただ沈黙した。
「うちはね、こういう静かなとこ好きだよ!!!」
「シキの場合、静かな場所でも静かにできないでしょう」
「ちょっとスピカ!!それは酷いと思うんだけど!!!」
シキとスピカが会話を弾ませる。
二人の会話を、リゼットはただ静かに見つめていた。
そして、なぜだか不思議な気持ちが胸に溢れていた。
「………………」
アンティークドールを抱く手から、少しだけ力が抜ける。
スピカはその小さな変化を見逃さなかった。
「ねぇリゼット」
「…………?」
「あなた、星は好きかしら」
スピカが尋ねる。
突然の言葉に、リゼットは少しだけ目を瞬かせた。
「………………星?」
「ええ」
スピカは空を見上げて言う。
「星って、とても綺麗でしょう?」
「…………うん」
「でも、本当は傷付きながら燃えているの。私達が見ているのは、ただの表面だけなのよ」
スピカは少し笑みを浮かべ、話を続ける。
「それを聞いた時は驚いちゃったわ。子供の頃から好きだったものが、近くで見たらこんな感じなんだーって」
「でも、私はそういうところが好きなの」
その言葉を聞いた瞬間、リゼットの心が少しだけ揺れた。
まるで、自分のことを言われているみたいな感覚だった。
「……………………」
リゼットは、そっとアンティークドールを抱きしめる。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
スピカはそんな彼女を、まるで夜空に浮かぶ星を見つめるような瞳で見つめる。
そして静かに、優しく彼女の目を見つめ
「リゼット、あなたはとても綺麗よ」
不意に、スピカが言った。
「え………………」
リゼットの瞳が揺れる。
『綺麗』
そんな言葉を面と向かって言われたことなんて、ほとんど無かった。
太陽が反射したその瞳を輝かせるリゼットに、スピカは微笑む。
「きっとあなたは、誰かを照らせる星になれるわ」
その瞬間、リゼットの中で少しずつ何かが溢れてくるのを感じた。
胸の奥が、ほんのり暖かかった。
「………………えっと…ありがとう。…………なんか…嬉しいような……恥ずかしい気もするような…………」
彼女は視線を逸らして言う。
その時リゼットの顔は、少しだけ笑っているように見えた。
とても小さな声だが、確かに彼女自身の言葉だった。
その光景に、シキが目を丸くする。
「あっ!今リゼットいっぱい喋った!!!」
「っ…………」
突然のシキの声に驚いたように、リゼットは肩を上げる。
その顔を見るや否や、シキが嬉しそうに笑った。
「えへへぇ〜!今度はうちとももっといっぱい話そうね!!好きなこととか、後は食べ物とか!!あ、魔法のこともいいね〜。うちら同じ固有魔法使いだし!!!それから……」
「こらシキ?リゼットが困っちゃうでしょ」
興奮して口が止まらないシキに、スピカが軽く一喝を入れる。
彼女達のやり取りを見ていたリゼットの瞳は、ただ綺麗に輝いていた。
「ねぇ、今日はみんなで帰ろうよ!!」
二人のやり取りを見ていたリゼットに、シキが乗り出すように言う。
「うちらと、あとヴェーターも呼んでさ!きっと楽しいと思うんだ!!夢だったんだよね〜、ここに来て友達作ってみんなと話して〜!!!」
「アルケーは?」
楽しそうな想像を膨らませるシキに、スピカが静かな声で呟く。
「ちょっとスピカ!うちトラウマなんだからね!!あの後めちゃくちゃ、それはもう目から涙が出ちゃうくらいに落ち込んだってにぃぃぃぃ!!!!!」
「涙は目から出てくるものよ?」
「知ってますぅぅぅ!!!!」
また二人のやり取りが始まる。
誰かが楽しそうに話してる。昨日まで嫌だとすら思えたその光景が、今は何故か心地良いものだと感じていた。
「…………………………ふふっ」
リゼットが小さな声で笑った。
「あっ!!ねぇスピカ!リゼットが!!!」
相変わらずリゼットの表情はあまり変わらない。
でも、この時の笑顔は何よりも輝いているように見えた。




