〈1-5〉天才の葛藤
あの時の光景が、未だに頭から離れない。
あの時の屈辱が、未だに胸から離れない。
アルケーは静かに、そして強く拳を握り締めていた。
あの時の苛立ちが未だに収まらない。
脳裏に焼き付いたあの光景が、未だに頭から離れてくれない。
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「なんだよあれ……!」
時は、魔法能力テスト模擬戦
生徒達はただ一点を見て圧巻していた。
「こんな魔法……見たことない……」
空中を漂う複数の人形。
そこから一斉に放たれる魔法陣。
その光景は、静かで、美しくて、それであって圧倒的だった。
「傀儡魔法…」
リゼットの魔法は、戦場そのものを支配していた。
彼女だけではない。
「なんだこれ、宇宙空間かよ……!」
スピカが空間ごと重力を歪める。
「っていうか何なんだよ幽霊のやつ!?!?」
シキが複数の幽霊を呼び出し、操る。
「こいつの魔法どういう原理だよ!無敵かよ!?」
ヴェーターが飛来する魔法全てを拒絶する。
誰もが常識外れの異常者だった。
そしてアルケーもまた、その光景を見ていた。
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(ふざけるな…………)
自分は特別だと思っていた。
誰より優れていて、誰より才能があって、ここの誰よりも上に立つ存在。
そう信じていた。
だからこそ、許せなかった。
自分と並ぶ存在がいることが。
自分より上の存在がいることが。
いや、本当に許せなかったのは、自分が一番じゃない事に気付いてしまったことなのかもしれない。
「一番になるのは…俺なんだ…………!」
誰にも聞こえないほど小さな声で彼は呟く。
その瞬間……
彼の前に、忘れられないあの姿が映る。
「…………っ!」
廊下を歩いていたのは、リゼットだった。
朝の陽射しが、淡い金髪を照らす。
その横顔は、今にも壊れそうな程に儚かった。
そして、まるで何かに絶望しているような、そんな瞳を映し出していた。
瞬間、アルケーの眉が歪んだ。
俺より強いくせに……
俺より天才のくせに……
俺より注目されてるくせに……
アルケーはただ、黙ってその背中を睨むことしか出来なかった。
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「っらぁああああ!!!」
轟音が響き渡る。
魔法実践授業。彼の魔法で、演習場全体が揺れる。
アルケーの放った魔法が標的を跡形もなく吹き飛ばした。
「す、すげぇ……」
「レベル違いすぎだろ……」
周囲の生徒達が息を呑む。教師ですら、その凄まじい才能に目を見開いた。
確かにアルケーは天才と言える程強かった。他の生徒からすれば、それはもう圧倒的な程だ。
一年生の中では、間違いなく頂点クラス。
けれど……
(足りねぇ……)
アルケーは拳を強く握る。
脳裏に浮かぶのは、またあの四人。
リゼット
シキ
スピカ
ヴェーター
あの姿が、あの光景が、一向に頭から離れない。
(こんなんじゃ…………!)
気付けば唇を強く噛み締めていた。
彼の唇から一滴、血がぽたりと落ちる。
「やっぱすげぇなアルケー!」
「今度魔法教えてくれよ!」
周囲の生徒達が集まってくる。
羨望、尊敬、憧れ…………
それら全部が、自分へ向けられていた。
なのに、彼の心は何一つ満たされなかった。
「…………ちっ」
アルケーは舌打ちすると、そのまま人混みを抜けて歩き去っていく。
残された生徒達だけが、呆然とその背中を見つめていた。
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放課後
「では、気を付けて帰ってくださいね」
担任教師、アシュリーの声が響く。
アルケーは何も言わず席を立つ。
今日一日、誰ともまともに話していない。
あれ以降、誰も彼に近寄ろうとしなかった。
「……くそが…………」
吐き捨てるように呟き、教室を出る。
その時だった
視界の先に、見覚えのある四人の姿が映る。
「…………あ」
思わず声が漏れてしまう。
そして、その声を聞き逃さなかった少女がいた。
「あぁぁぁあああああっ!!!!!!」
学園中に響き渡るような大声に、周囲の生徒達が一斉に耳を塞ぐ。
「アルケーだよね!?本物だよね!?やっと見つけたあぁぁ!!!!」
紫色の髪を揺らしながら突撃してきたシキが、勢いのままアルケーの手を掴む。
「ちょっ…………!」
「会いたかったんだよ!!」
後ろでは、スピカが呆れたように溜息をついていた。
ヴェーターは少し離れた場所で縮こまる。
リゼットは、ただ黙って静かにこちらを見ていた。
「やっと見つけた!!ねえねえ、あれ凄かったね!!!」
シキは満面の笑みを浮かべる。
「うちらさ、異常者じゃん??うちも、スピカも、リゼットも、ヴェーターも、そしてアルケーも!!だからさ、うちら全員友達になろうよ!!!」
その言葉に、アルケーの眉がぴくりと動いた。
「ね!いいよね!!よし!これで五人揃ったね!!チーム名どうする!?【異常五人衆】!?【ヤバスギーズ】!?あ、でもセフィラの魔術師にちなんで……【クリファの魔術師】とか!!!」
シキはアルケーの反応など気にしようともせず、勝手に話を進める。
「…………ふざけんな」
低い声に、一瞬で空気が止まる。
アルケーはシキの手を勢いよく振り払った。
「俺はテメェらと馴れ合う気も、仲間になる気もねぇ!!」
「俺をテメェらみてぇな連中と一緒にすんじゃねぇよ」
そのまま彼の視線が、リゼットへ向く。
彼女のその壊れそうなほど綺麗な瞳に目を向けると、アルケーは奥歯を噛み締めた。
「…………絶対に……超えてやる…!」
そう小さく、吐き捨てるように言い残してそのまま背を向ける。
その背中を、決して誰も引き止めなかった。
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夜。
「何が異常だ……」
アルケーの自室に鈍い音が響く。
彼の拳が、部屋の壁に叩き付けられた。
「何が特別だ……!!」
「何が天才だ!!!!」
異常、特別、天才。
それは、きっと自分を誇らしくしていた言葉だった。
なのに今は違う。
その言葉が、自分を縛っていた。
最強でいなければならない。そうでなければ、自分には何も残らない。
荒い呼吸の中、脳裏に浮かぶのはあの四人だった。
「………………」
アルケーは、ただ強く拳を握る。
「ぜってぇに超えてやる………………!!」
その呟きを残し、彼は静かに部屋を飛び出した。




