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WitchDoll〜傀儡人形は夢を見る〜  作者: うつろ
Chapter-1【エウケー入学編】
9/12

〈1-8〉特別な普通

「みんなぁーー!おはよぉぉー!!!!」

朝の教室に、今日も聞きなれた騒がしい声が響く。

「……………………おはよ」

「う、うん……」

その声に、リゼットとヴェーターが少しぎこちなく返した。

「二人とももう来てたのね」

透き通るようなスピカの声に、ヴェーターは少し肩を揺らしながら小さく答える。

「まぁね……今日は、その……ちょっと早く来ちゃっただけっていうか…………」

つい数日前まで、机へ顔を伏せて周囲から目を逸らしていたヴェーター。けれど今の彼は、少しずつではあるが誰かの顔を見て話せるようになっていた。

それはリゼットも同じだった。

入学したばかりの頃。彼女は誰とも話さず、まるで人形のように静かに席へ座っているだけだった。

でも今は違う。彼女はほんの僅かだが、笑顔を見せるようになっていた。

「たしか今日は合同授業がある日だったよね!!!ほら、グループワーク!!うちらで一緒に組もうよ!!!」

今日もまた、シキが勢いのまま話を進めていく。

その姿を見て、リゼットは小さく目を細めた。

もう見慣れた光景。でも、その当たり前が彼女にとっては少し嬉しかった。

胸の奥が、ほんの少しだけ暖かい感じがする。

「……………………いいよ……」

この時のリゼットはまだ気付いていない。

少しずつ、自分の気持ちを伝えられるようになっていることに。

「やったぁあーー!!!ヴェーターもいいよね!!」

「え、あ……うん」

「シキ。そんなにグイグイいったら困っちゃうわよ」

シキの勢いに押されるように返事をするヴェーター。

そんなシキをなだめるスピカ。

いつも通りの日常。そして、自分にとって特別になり始めた日常。

リゼットは三人を見つめ、小さく微笑んだ。



─────────────────



合同授業。

一年生全体で行う実践形式のグループワーク。 複数人で班を組み、共有しながら行う授業だ。

「難しいよぉ〜〜〜……」

シキが机へ突っ伏すように声を上げる。

「文字多すぎるってぇ……」

「シキ、それさっきから三回目よ」

「だって難しいんだもん!!!」

そんな彼女へ、ヴェーターが小さな声が返す。

「あ、えっと……ここは…………」

「ここの詠唱を重ねて、それから、えっと……短縮させて…………」

「…………こう?」

「う、うん……たぶん……」

シキが術式を書き換える。

すると、今まで経験したことの無い魔法が発動する。

「あっ!!できた!!!ヴェーターすご!!ありがとっ!!!」

純粋な満面の笑みを向けられ、ヴェーターが慌てて目を逸らす。

耳が少し赤い。

人と関わることを避け続けてきた彼にとっては、その感情はまだ慣れないものだった。

「……………………」

その姿を見たリゼットは、小さく目を瞬かせる。

誰かが誰かを頼って、誰かがそれに応えて……。

そんな光景を、昔の自分は知らなかった。

きっと、想像すらしなかっただろう。

「あら、ここも短縮できそうね」

今度はスピカが術式を指差す。

「……………………うん。ここ、繋げられる」

リゼットが静かに書き加える。

今度は、スピカが普段は同時詠唱していた重複魔法を簡略化させることが出来た。

「リゼットって本当に器用だよねぇ〜!!」

その光景を見ていたシキが目を輝かせる。

「……………………そう?」

「そうよ。あなた、魔術演算がとても綺麗だもの」

スピカが静かに微笑む。

その言葉が、リゼットは嬉しく感じた。

リゼットは三人を見る。

騒がしく笑うシキ。

小さく困ったように視線を泳がせるヴェーター。

そんな二人を優しく見守るスピカ。

「……………………」

胸の奥が、また少し暖かくなるのを感じる。

この感情の名前はまだ彼女にはわからない。

でも、忘れたくないと思えるような気持ちだった。



─────────────────



「……………………」

少し離れた場所。

アルケーは、ただ四人を見つめていた。

楽しそうな声、笑い合う姿。

そして、自然に交わされる言葉。

その光景が、何故だか妙に腹立たしく感じる。

「チッ」

小さく舌打ちをする。

心の奥底で湧き上がってくる感情。

彼はそれがなんなのか分からなかった。いや、理解したいと思わなかった。

消し去りたい程に邪魔だった。

「見てろよ…………」

アルケーは拳を握る。

誰よりも強く、誰よりも上へ行く。

あいつらを、そして全てを超えて、自分が一番になる。

ただその夢だけを、一心に見続けた。

強くなる。そのために彼は孤独という道を選んだ。


不意にリゼットが顔を上げると、こちらを見ているアルケーの姿が目に映る。

その瞳は隠しきれない程の怒りに満ちていた。

でも、何故だかそれは少しだけ寂しいようにも見えた。

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