〈6-18〉受け継ぐもの
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「ここまで本気でぶつかるのは何年ぶりだ?」
「さぁね。僕も覚えてないよそんなこと!」
時間は現在へと戻る。
メルティとゲラーテは互いを見つめ、大きく笑みを浮かべた。
そして、空を飛び回りながらお互い魔法を放つ。
まるであの時と対比するかのように、メルティの背中をゲラーテが追いかけていた。
「逃がさないよ!!氷魔法・氷晶ノ絶壁!!!」
ゲラーテはメルティの前に氷の壁を作り出す。
しかし彼はその壁を逆に足場として使い、氷の絶壁を強く蹴り飛ばして方向を変える。
「悪いね。利用させてもらったよ」
「たわけが」
二人は再び大空を飛び続ける。
炎と氷を衝突させながら、互いの距離を縮めては離しての繰り返し。
「しつこいなぁ。そろそろ諦めてくれないか?」
「なんだ?私を倒すとか威勢張っておいて逃げ続けるだけじゃないか。私は答えてやってるんだ。ほら、向かってこいよ、私を倒すんだろう?」
呆れたように言うメルティに、ゲラーテは嘲笑いながら挑発する。
だがこの程度の煽りを彼が素直に受け入れることは無い。
メルティはゲラーテの言葉を聞き流し、そのまま空を飛ぶ。
だが、メルティは違和感に気付く。
炎の勢いも変えてないし、魔力もまだまだ余っている。
それなのに何故か飛行速度が落ちていることに。
「っ!?」
メルティは足元を確認すると、炎の出力が段々と小さくなっていることを知る。
いや、小さくなってるのではない。凍らされているのだと。
「ようやく気付いたか」
ゲラーテは得意気な顔で口を開く。
ゲラーテは氷で足場を形成しながらメルティを追い続けていた。
彼女から放たれる氷からは凄まじい冷気が放たれる。
つまり、長い時間空を飛び続けていたせいでゲラーテの氷は周囲を覆い尽くし、その冷気が空をも飲み込むかのように包み込んでいた。
そして
「捕まえた」
ゲラーテは手を前にかざすと、そこから氷魔法を放ちメルティの足を捕らえる。
「マジか……」
右足を氷で掴まれたメルティは、その場で宙吊りになる。
逆転した光景が彼の瞳に映る。
ゲラーテはそんな逆さまのメルティの目の前に立つ。
その瞬間
「えいっ!」
メルティは勢いよく身体を起こし、右手でゲラーテの身体を叩いた。
それはゲラーテから見れば、ただの悪足掻きのようだった。
「魔法を使う気も無くなったか。せめて最期まで抗って欲しかったよ」
ゲラーテは哀れむようにメルティを見つめると、メルティの胸元へ氷魔法を放とうとした。
だが
「はっ!?」
氷が出現しない。確かにゲラーテは氷魔法を使おうとした。魔力切れも起こしてないし、感情がそれを拒否しているはずも無い。
ただ、魔法が出せなかった。
「メルティ……貴様、何をした」
ゲラーテが怯んだその瞬間、メルティは炎魔法でゲラーテの四肢を捕縛する。
そして足を掴んでいた氷を溶かすと、まるで立場が逆転したかのように彼は足元に形成されていた氷へと立つ。
「氷魔法!!」
ゲラーテは氷魔法で捕縛する炎の縄を凍らせようとするも、やはり魔法が使えない。
ゲラーテの額から汗が流れ落ちる。
彼女からは想像できない焦りの表情が、これでもかと言う程露わになっていた。
「言っただろう?君を倒すって」
メルティはゲラーテを見つめると、手を彼女の前へとかざし炎魔法を放つ。
「炎魔法……」
ゲラーテを見つめるメルティの瞳は、どこか寂しそうだった。
これが、本当の別れになる。
ゲラーテを倒す夢をついに叶えられるはずなのに、彼の心の底が悲しみを湧きあげる。
「獄炎ノ礎」
メルティの掌から放たれた炎は、ゲラーテの前で大きく爆発する。
その魔法に、ゲラーテはただ小さく笑った。
至近距離で爆発を受けたゲラーテは全身に大きな焼け跡を残す。
そんな彼女を見て、メルティは炎の縄を解く。
重力に従うままにゲラーテは空から落ち、そして灼熱と冷気が立ち込める地面へと叩きつけられた。
メルティはそんな彼女の後を追うように、ゆっくりと降下する。
地に仰向けとなるゲラーテの前に立つと、彼女は微かにまだ息をしていた。
しかし、もはや立ち上がれる状態では無いことは確かだった。
「………………」
メルティはただ黙って魔法を解除し、灼熱の地が元に戻る。
「隠してたんだ、僕の魔法のこと。この魔法は、僕のじゃない。君と出会う前に育ててもらった人から貰ったものなんだ」
「なんだよ、それ」
「僕はね…………」
彼はただ、自分の本当の姿を明かした。
メルティは何の魔法も使えなかった。炎も、水も、氷も、他の何も出せない凡人。
けど、たった一つだけ不思議な魔法が使えた。
それは、他者から一つだけ魔法を奪う魔法。
メルティは誰かから魔法を奪うことで初めて魔法が使えるようになる。
それを知ったのは、メルティを育てた魔術師に触れた後、突然炎魔法が放てるようになったことがきっかけだった。
そして彼がまだ六歳の時、親とも呼べる魔術師が亡くなった。
高齢だったこともあり、いつか死ぬことはメルティも覚悟していた。それでも、自分の親とも呼べる存在が亡くなった事実に感情が追いつかなくなり、自暴自棄になった。
ただ、彼から奪った炎魔法を出し尽くす日々。
そんな時に声をかけたのがゲラーテだった。
「……これが、僕の本当の姿さ」
「そうか。だが、いいのか?」
ゲラーテは静かに目を瞑り、メルティに問う。
「炎魔法はもう長年使ってきたし、身に染みたせいかな、本当の意味で自分のものになったんだと思う。今でも出せるし。でも、正直君の魔法を奪うのも賭けだったよ」
「親の魔法を捨てる覚悟までして私の魔法を奪ったのか、とんだたわけだな」
小さく鼻で笑うゲラーテを見つめると、メルティはただ静かに彼女の胸に氷を突き立てる。
静寂の空気が、二人の空間を包み込む。
「君も、そうだから」
「何がだ」
「君も僕を育ててくれた。師匠みたいなものだから」
「そうか……」
「君は僕を育ててくれた師匠だけど、同時に倒すべき敵でもあり、一つの夢でもある。だから最後は、君から受け継いだこの氷で、君を葬るとするよ」
「何言ってんだ、託した覚えなんか無い。奪っただけだろ」
「うん。けれど、僕は君を受け継ぐ。君が僕を育て、セフィラの魔術師として迎え入れ、最後まで僕の前に立ち塞がったことを、忘れないために。そして、その証を氷魔法に記すために」
「最後の最後に綺麗事言ってんじゃないよ。殺るならさっさと殺れ」
「うん。あと、これだけ言わせてくれないか」
「聞いてやる」
「────僕のことを見つけてくれて、ありがとう」
突き立てられた氷が、静かにゲラーテの心臓を貫く。
自分から流れる血の温かさに、不思議と心地良さを感じていた。
ゲラーテは自分の死を受け入れ、静かに瞳を閉じる。
───────メルティもこっち側に入れようとしてたのに。あーあ、計画も私もこれで終わりか…………
───────でも……
───────お前が私の最期を迎えてくれるのなら、それも悪くないか
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───────私の魔法、ちゃんと練習しろよ
静寂だけがそこに流れた。
空を覆っていた氷が砕け散り、宙を舞う。
月明かりに照らされる氷の結晶が、美しく、そして儚く二人の姿を照らす。
その輝きに混じるかのように、メルティの頬を伝う涙が小さく輝いた。




