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WitchDoll〜傀儡人形は夢を見る〜  作者: うつろ
Chapter-6【ロドモンテ編】

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〈6-17〉二人の時間

当時のメルティは生意気で、乱暴で、それなのにどこか自分自身に抗っているようだった。


魔法の才能は確かにあった。事実、ゲラーテが手加減していたとはいえ数時間もかかった相手なのだから。

しかし、彼の魔法そのものの扱い方はものすごく雑で、どう見ても使いこなせているようには見えない。


ただ火力に全てを任せて撃ち続けているだけ。


その姿はまるで、魔法そのものが自身に馴染んでいないかのようだった。



「ほら、入れ」

ゲラーテは自室にメルティを招く。

彼女の小さな部屋には大量の魔導書が綺麗に並べられており、その全てが分厚く、見るだけで気が遠くなりそうだ。


ゲラーテはその中から一つの魔導書を手に取ると、それをメルティの足元へと放り投げる。

「これ読んどけ」


それは炎魔法についての魔導書。

炎魔法の扱い方や技の種類等、これまでの炎系統の魔術師達が発現してきた魔法がそこに書かれていた。


「めんどくさいな」

「いいから黙って読め」


そう言われたメルティは深くため息をつくと、そのまま床に座って分厚い魔導書を開く。

細かな文字が隙間なく並ぶその中身に、メルティは早くも顔をしかめていた。

そして、メルティは数ページ程読んですぐ魔導書を放り投げた。


「こんなん出来ないし、文字多すぎるし」


そんなメルティの姿を見て、椅子に座って紅茶を嗜んでいたゲラーテはその場からゆっくりと立ち上がる。

静かにメルティの前へ立つと、魔導書を拾い上げて元の位置に戻した。


「仕方ない……」

ゲラーテは小さく呟くと

「小僧、こっちへ来い」

と、メルティを外へと連れ出した。


二人の向かった先は人気の無い広い草原地帯。

大きな爆発が起きても誰も気づかないような、山々に囲まれた静かな場所だ。


「お前の魔法を今、ここで撃ってみな」

「は?」

メルティは突然の指示に、あっけらかんとした表情でゲラーテへと視線を向けた。


そんな彼の瞳を、ゲラーテは鋭い目つきで返す。


「いいからやれ」

「ちっ、わかったよ」


メルティは言われるがままに空に向かって炎魔法を放つ。

確かにその威力は絶大で、まるでこの草原地帯全てを焼け野原に変えてしまう程だった。


炎の熱のせいか、メルティの足元の草が小さく燃えている。


しかし、それは逆を言えばコントロールが出来ていないとも捉えられた。

ゲラーテは即座にそれを見抜く。


「大雑把」

ゲラーテはメルティにたった一言の感想を告げた。

「前に戦った時もそうだが、無茶苦茶に炎ぶちまけてたな。お前、それしか出来ないんだろ」


その言葉に、メルティは大きく目を見開いて身体を震わせる。

それは、彼にとって核心を突く一言だった。


「魔法は凄いのに技術が何一つなってない。使い方も雑、これじゃあ宝の持ち腐れだ」

そういうと、ゲラーテはメルティの前に手を向ける。


「見てろ、これが魔法だ」

ゲラーテは静かに氷魔法を放つ。


ゲラーテの手に現れたのは氷の剣だった。

それだけでは無い。彼女の周囲には氷の礫が、地面からは氷柱が形成される。


彼女の魔法を前に、メルティは小さく口を開いたまま言葉を発さなかった。


同じ氷魔法なのに、幾つもの形が作り上げられている。

ただ単純な魔法のはずなのに、彼にとってはそれがどうしようもなく格好よく感じられた。


そして、心の中で自然と強い憧れの感情が湧き始めていた。


自分もそうなりたいと。




それから二人は特訓の日々を送った。

メルティは魔導書を読むようになり、ゲラーテと共に草原へと行き、実践する。


何日も、何日も。メルティは炎魔法を自分のものにするために必死に足掻き続けた。



そして

「できた…………」

それは、メルティが初めて炎魔法を作り上げた瞬間だった。

「出来たよ!ゲラーテ!!」

彼は満面の笑みでゲラーテへと視線を向ける。


メルティが初めて習得した魔法は大したことのない魔法だ。

ただ、炎を爆発させるだけの魔法。


それでも、メルティにとっては大きな一歩だった。


目を輝かせる彼の姿に、ゲラーテは軽く微笑む。

メルティを見つめるその表情は、まるで無邪気な子供を見ているかのようだった。


「ゲラーテ」

メルティはゲラーテの瞳を見つめ、口を開く。

「相手してくれよ」


生意気な態度は相変わらず変わらない。

けれど、まるで憑き物が取れたかのように彼の表情は少しずつ柔らかくなっていた。


「全く……」

ゲラーテは小さくため息をつくと、メルティの前に立ち、氷魔法を形成。


二人は二度目の戦いを繰り広げた。


──────────


「一つ成長したくらいで私に勝てると思わないことだな」

「ちっ、まだダメか……」


結果はゲラーテの勝利に終わった。

地面に大の字になって横になるメルティ。空を見つめる彼の瞳に、青く広がる空が映る。



「ねぇ」


「なんだ」


「一つ、夢ができた」


「言ってみろ」


「ゲラーテを倒す」


「それは大した夢だ。でも、今のお前じゃ不可能だな」


「でも、いつかきっと…………」


メルティは空へと手を上げ、拳を握りしめる。

初めてできた彼の夢、それは彼の瞳に映る空のように果てしなく遠いもの。

けれど、彼は本気で掴みに行こうと心に誓った。





それから数年の時が経ち……

「そろそろいいだろう」

ゲラーテはメルティを真剣な眼差しで見つめる。


「メルティ、お前をセフィラの魔術師として加える」

「セフィラの魔術師?」

メルティは初めて聞くその言葉に首を傾げる。


「セフィラの魔術師。それは、この世界において魔法の頂点に君臨する存在だ」


メルティはその言葉に大きく目を見開き、その瞳を輝かせる。


「炎の魔術士はいなかったからな。それに、私の推薦なら皆納得するだろ」


「僕が、頂点…………」


メルティはあまりの衝撃に小さく声を漏らす。

自分が世界の頂点に立つ。その実感が湧いてこなかった。

それと同時に、頂点という名への興奮が彼の心を震わせる。


「顔合わせに行くぞ。準備したらそこで待ってろ」


メルティは言われるがままにすぐ支度をし、出発の準備をする。

「行くぞ、頂点へ」

メルティは言われるがままにゲラーテの後ろを歩く。


初めて出会った時とは違う、期待に胸を膨らませた瞳を宿しながらゲラーテの背中を追いかけた。



待ち合わせ場所、そこは小さな街の一角にある喫茶店だった。

「久しいな」

ゲラーテがそこに入ると、既に他のセフィラの魔術師達が集合していた。

「よぉ」

「お久しぶりです、ゲラーテ」

「テメェから呼びかけなんて、珍しいじゃねぇか!」

「そうね。でも、くだらない内容だったら帰るわよ」


トルポル、ヴェルテクス、テンペス、メルゴ。

そこに居るだけで膝が崩れ落ちてしまいそうな程の圧に、メルティは小さく身体を震わす。


「喜べ、新メンバーだ」


そう言うとゲラーテは、メルティの背中を押し前に出す。


逃げ出したくなるような威圧感が彼を襲う。

けれど、自分も今から同じセフィラの魔術師になる。

メルティは静かに胸に手を当て、大きく息を吐いた。


「僕はメルティ。よろしく」


メルティが小さく言葉を発すると、それを聞いていた四人は彼の瞳を真剣に見つめた。


そして

「まっ、ゲラーテが連れてきたんならいいんじゃない?」

「今度勝負してみようぜ!!」

「うるせぇテンペス。黙ってろ」

「新人の前なんですから、喧嘩はしないでくださいよ」


その雰囲気はまるでメルティの想像していたものとは全然違っていた。

もっと恐ろしく、荒々しい人達だと思っていた。

けれどその雰囲気は、まるで友達のように軽く、柔らかい。


メルティはゲラーテを静かに見つめる。


「お前も今日からセフィラの魔術師だ。胸張ってけ」


ゲラーテはメルティにそう告げる。

その一言が、メルティの心を大きく動かした。


「ゲラーテ」

「なんだ?」

メルティは強い眼差しでゲラーテを見つめる


「君の席は、僕が落としに行くよ」

「はっ、相変わらず生意気な小僧だ」


あの時と変わらない夢。

けれど、その夢は少しずつ近づいてるように感じていた。

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