〈6-6〉光の衝突
無慈悲に降り注ぐ光の雨。
それは容赦無くリゼットへと降り注いでいく。
「勝ちだ、私の勝ちだ!」
防御魔法を打ち砕き、残るはリゼット本人のみ。
上空にはまだ無数の光の雨がそこに残っている。
しかし
「……………………光魔法」
窮地の中、リゼットは淡々と呟く。
先程まで防御魔法を展開していた人形達が一斉に光を集め始めた。
「破滅ノ煌光」
瞬間、巨大な光の柱がリゼットの上空へと放たれる。
月へ。いや、更にその先まで続く光は、一瞬にして光の雨を打ち消していく。
「な、なんだと!防御魔法は全て壊したはず!!あの状況から詠唱する時間なんて無い!!どうやった…どうやったんですか!!」
高笑いを決めていたヴェルテクスの表情が、その光景に驚愕し目を見開く。
たしかに防御魔法は全て壊された。
光の雨は高速で降り注いでいるため、脳内詠唱する時間なんてどこにも無い。
ヴェルテクスはそう思っていた。
いや、正確に言えば思い込んでいたのだ。
「………………………防御魔法は、自分で壊した」
「は?」
リゼットの言葉に呆気にとられた声を漏らす。
「どういうことですか」
「……………………純粋な、魔力」
「なっ!?」
ヴェルテクスの光魔法。それはなんの種も仕掛けも無い純粋な魔力の暴力。
そしてリゼットはヴェルテクスの魔力を遥かに上回る。
彼女は魔力には魔力で押し切ろうと考えたのだ。
「そんな馬鹿な!有り得ない!!絶対に有り得ないぃいいい!!」
再び怒り狂うヴェルテクス。
リゼットはそんな彼を沈黙の瞳で見つめる。
「光魔法!!光魔法!!!光魔法ぅぅううう!!!」
まるで悪足掻きのように光魔法を撃ちまくるヴェルテクス。
その姿はもう、セフィラの魔術師第一席としての威厳なんぞどこにも無かった。
「……………」
リゼットは沈黙のまま同じ光魔法で相殺する。
光が衝突し粒子が漂う中、ヴェルテクスの表情は怒りに狂い歯を剥き出しにしていた。
はずだった。
「にひっ」
リゼットは思いもよらぬ彼の表情を見て、首を傾げる。
ヴェルテクスの表情。それはまるで、何か策でも練っていたかのように口角を大きく釣り上げ、不気味に笑っていた。
「なぁんて、このセフィラの魔術師第一席様がこんなことで取り乱すとでも思ってたんですかねぇえ」
彼は既に策を実行していた。
光の粒子。それはこの空気中を覆い尽くすように漂っている。
その粒子こそがヴェルテクスの策である。
「そろそろ苦しくなってきたんじゃないですかねぇ」
ニヤリと笑いながらリゼットを見つめた。
しかし
「………………………………?」
まるで何をしているのかわからない表情で彼を見つめるリゼット。
その様子に、ヴェルテクスは再び呆気にとられた顔をする。
「あ、あれ?まだ早かったですかね。まぁいいでしょう」
そう言うと、再び光魔法を放つ。
「光魔法・聖天ノ神鳥!」
ヴェルテクスは光の鳥を作り出し、リゼットへと向ける。
輝きを放ちながら高速で飛ぶその姿はまるで、神の使いを表しているようだった。
「………………………光魔法・光ノ神鳥」
「は!?」
リゼットもまた、同じ魔法で衝突させる。
自身の魔法を真似されたヴェルテクスの驚愕の顔。それはもう何度目かと言うほどだった。
彼はリゼットという少女を知らない。
リゼットという、異質で、異常な存在を。
自身が頂点だと自覚しているからこそ、彼はたった一人の少女に全てを壊されていく。
「……………………できた」
リゼットは淡々と呟く。
リゼットがしたこと、それは相手の技の再現である。
彼女は解析を得意とする。そして、戦闘においてその解析は今まで”相手を攻略するため”に使用していた。
しかし、彼女はここで逆の考えをした。
攻略するためではなく、”相手の魔法を理解するため”に。
「……………………やってみた」
「そ、そんなことが!ありえない!!!」
ヴェルテクスは更に光の鳥を出現させ、リゼットを襲う。
しかしその攻撃はさっきと同じ。その鳥は全て同じ魔法で相殺されていく。
どちらも引けを取らぬ攻防戦。
だが、ヴェルテクスにはとある策があった。そしてリゼットはそれをまだ知らない。
そしてヴェルテクスも、リゼットという少女を知らない。
「…………………さっきの、お返し」
「さっき?あぁ、いいでしょう」
ヴェルテクスはその掌に光を集め、巨大な光線を放つ。
「光魔法・聖天ノ巨撃!」
そしてリゼットも人形を自身の前に集める。
「………………光魔法………いや」
そう言いかけると、リゼットはそっと目を閉じる。
この魔法は自分のもの。自分が解析した魔法。
そう考え、そして再び詠唱を唱え直す。
「………………傀儡魔法」
初めて出す名。それは、解析した自分の魔法である証だった。
「………………光ノ巨撃」
衝突する二つの光。
確かに技術力ならヴェルテクスの方が上だ。だが、魔力量はリゼットが大きく勝る。
そしてヴェルテクスの技術を解析し真似した今、ヴェルテクスが押されるのは当然であった。
「な、なんだと………!この私が!この!私が!!」
取り乱すヴェルテクス。
そして二つの巨大な光は二人の中心で暴発し、月明かりに照らされた小さな光が二人を包み込む。
「勝った………」
光と土煙の中、小さくそう言ったのはヴェルテクスだった。
「少女よ、私の策を聞きたいか?聞きたいだろう。聞きたいに決まっている」
口角を釣り上げ、不気味に笑いながら彼は土煙の中のリゼットに説明する。
「私の策、それは光の粒子そのものさ!光の粒子をお前の体内に入れた。そしてそれはお前の体のあらゆる器官を侵食し、殺していく!!つまり!!!お前はもう立っていることすら……………」
そう言いかけた時、平然とそこに立つリゼットの姿があった。
「えっ」
「……………………粒子が、なに?」
静かに、沈黙の表情でそこに立つリゼットを見て彼は驚愕した。
「おかしい!おかしいおかしい!どうして、どうしてだ!!耐性があるにしてもこんなに戦っていたんだ!!もうお前の体の中はズタズタなはず!!そんな馬鹿な!馬鹿な!?有り得ない!!有り得ないのです!!!」
頭を掻きむしり、取り乱すヴェルテクス。
考え、考え、そして彼はたった一つの答えにたどり着く。
それこそ有り得ない。けれど、そうとしか考えられない。
たった一つの答えに。
「まさか……お前、人間じゃ……………………」
「…………………っ!?」
その瞬間、リゼットの身体が大きく震えた。




