〈6-5〉聖天の魔術師
月明かりの下。
そこには、無数の光と人形が展開されていた。
「………………いくよ」
リゼットの合図で人形が動き出す。
そして、複数の魔法を同時に展開しヴェルテクスへと放った。
「光魔法・聖天ノ刃」
ヴェルテクスもまた、無数の光の刃で応戦した。
魔法同士の衝突で起きた光が月光に照らされる。
輝く粒子の中でリゼットが小さく手を上げると、人形が一斉に動き始めた。
ヴェルテクスを囲むように、人形達は再び魔法を展開。
しかし
「甘いですね」
ヴェルテクスは魔法が展開される前に光魔法を人形に放つ。
「………………あっ」
彼の周囲にいた四体の人形は崩れ、その機能を停止する。
「人形を扱う魔法……ですか。面白いですが、私には敵いません」
そう言うと、ヴェルテクスはその手をリゼットへと向ける。
その手の中には小さな光が集まり、そしてそれは大きな光となっていった。
「……………………っ」
リゼットはすぐに自身の周囲の人形を集めて防御魔法を展開する。
「光魔法・聖天ノ巨撃」
ヴェルテクスの掌から放たれる巨大な光線。
人形の数が足りないと判断したリゼットは、全ての人形を防御魔法に扱う。
辛うじて防いだ一撃。しかし、残る全ての人形を使ってやっと防げる程だ。
だが、ヴェルテクスが魔法を放つということはリゼットにとっても好都合でもある。
彼女の最大の強みは解析。相手の魔法を見て解析することで攻略法を見つけるのが彼女の得意とする戦法。
しかし
「…………………………………」
リゼットは目を細める。
ヴェルテクスの扱う光魔法。その使い方を解析して突破しようと考えるも、彼女の脳内ではそれが結び付かなかった。
「……………………解析、できない」
リゼットはひたすらに考える。
たしかに、今の戦いで彼の光魔法は数回見た程度だ。しかし、リゼットならその数回である程度は分析し、その答えへと近づける。
だが、光魔法である事だけしか分からず、何一つ解への一歩を進めなかった。
「なにか悩んでますね。もしかして、私の魔法に小細工があるとか考えてるんじゃないですか?」
ヴェルテクスはまるでリゼットの心を読むかのように告げる。
その言葉に、リゼットは大きく動揺した。
そんな彼女を見ると、ヴェルテクスは口角を小さく上げる。
「魔力量、ですよ」
「……………………魔力量?」
「えぇ。魔力測定ってご存知ですか?あれの基準は五百。ではなぜ五百なのか?それは、五百以上の魔術士が現れなかったからです」
そしてヴェルテクスは自信げな表情でその手を自分の胸へと当てる。
「では誰が五百という数値を叩き出したのか。それがこの私。私はこの世界で最も魔力量の高い魔術師だからこそ、こんなに強大な魔法を放てるのです」
ヴェルテクスは自信満々にそう告げる。
しかし、その表情はリゼットの一言によって大きく崩れ落ちることになる。
「………………………私が測ったら、壊れた」
「へ????????」
その瞬間、ヴェルテクスの顔がさっきの自信満々な顔とはうって変わって呆気にとられたものとなる。
「こ、壊れた?え、なに?殴ったんです???」
「………………測ってたら、壊れた」
ヴェルテクスはあまりに信じられない発言にただリゼットを見つめる。
しかし、それはヴェルテクスにとっての屈辱でもあった。
今まで自分が一番だったという事実が、たった一人の少女に塗り替えられた。
それがただ屈辱で堪らなかった。
「私より、私より上だなんて………許せませんねぇぇえええ!!!!」
ヴェルテクスの表情が変わる。
いつもの笑顔は微塵もない、怒りの表情へと変貌した。
「あなたは!あなたは許しません!!この私が!!粛清して差し上げましょうううう!!!!」
怒り狂ったヴェルテクスから再び放たれる極太の光線。
しかし、それと同時に他のセフィラ達を分散させていた人形達がリゼットの元へと帰ってきていた。
「…………………」
リゼットは不思議そうな顔で防御魔法を展開。
しかし
「甘い!!甘いんですよ!!!」
リゼットの背後には既に光の刃が形成されていた。
「光魔法・聖天ノ刃!!」
リゼットを襲う無数の光の刃。光線を防いでいた人形のうち三体を後ろへと向け、防御魔法を展開。
「これも防ぎますか……」
たしかにリゼットはヴェルテクスの猛攻を防ぎ切っている。
しかし攻撃する余地が無い。
リゼットは表情を曇らせた。
「………………手強い」
ならばと、リゼットは人形を自身の前に集める。
人形達の小さな手に集まる小さな光。
それはやがて大きな光となり、ヴェルテクスへと放たれる。
「…………………光魔法・聖ナル戦線」
「いいでしょう!光魔法・聖天ノ巨撃!!!」
巨大な光の光線同士の衝突。
しかし、魔力量はリゼットが上でも光魔法においてはヴェルテクスの方が遥かに上だった。
人形から放たれた光はそのまま押し返され、これで六体の人形が壊された。
「……………………」
リゼットは沈黙を貫く。
残る人形はは残り十体。この十体の人形でヴェルテクスを相手にするのは不利すぎる。
傀儡魔法はそもそも人形に依存する魔法であり、人形の数が減るということはその分リゼットが弱体化することを意味している。
リゼットの戦況は劣勢だった。
「おや?おやおや??人形の数が減ってしまってますねぇ。これは私の勝ちではないですかね!!」
この状況を見て、まるで勝ち誇ったような顔でリゼットを嘲笑う。
そんな彼を見てもリゼットは表情を一つも変えない。
ヴェルテクスの言葉など聞き流すように、残された人形で出来ることを考える。
「そろそろ終わりましょうか」
ヴェルテクスは天へと両手をかざす。
その途端、光の雨を形成しリゼットへと矛先を向けた。
「光魔法……」
いくつも、いくつも形成される光の雨。その一つ一つが、まるで大きな針のように鋭い。
あの時、ロドモンテの人々を襲おうとした攻撃よりも遥かに強く、大きく、そして数え切れない程に多かった。
「聖天ノ乱嵐!!」
ヴェルテクスが唱えると、一斉にリゼットへと向けて降り注ぐ。
リゼットは人形を上に配置し、防御魔法を展開。
しかし、人形十体の防御魔法で防げるような攻撃ではない。
そして彼女は恐れていた。自身の身体が傷つくことを。
「……………っ!」
複数に形成された防御魔法がどんどん壊されていく。
人形が全滅するのも時間の問題だった。
そして
「私の勝ちだ!!」
防御魔法の最後の一つが割れ、光の雨はそのままリゼット向けて一直線に降り注いだ。




