〈6-4〉解析開始
ホテルの一室。
七人はテーブルを囲んでいた。
テーブルの上に広げられているのは、一枚の大きなロドモンテの地図。
「まず、ロドモンテは大きく五つの街に分かれている」
メルティが、地図の中央へ指を置く。
「まず中心街ルッジェーロ、北がオルランド、東がイザベッタ、西がブラダマンテ、そして南がマンドリカルド、この五つだ」
六人は地図を覗き込む。
「つまり、一つの地区につき、一人のセフィラが配置されている可能性が高い。ということかしら」
「僕もそう考えてる」
スピカの言葉に、メルティが頷いた。
「僕がゲラーテと接触したのはルッジェーロだ。君達は?」
その問いに、全員が地図へと手を伸ばし答える。
「私はここね」
「うちもそこ!!」
スピカはイザベッタを指差す。
「俺はここだな」
アルケーが指したのはマンドリカルド。
「ぼ、僕は多分この辺」
ヴェーターがブラダマンテ。
「…………ここ」
そしてリゼットがオルランドを差した。
「私もリゼットさんと同じ場所です」
その隣ではラミアも小さく頷く。
メルティは全員が示した地点を見つめると。
「綺麗に分かれたね」
と、小さく呟く。
スピカの目が細くなる。
「偶然と考えるには、出来すぎているわ」
おそらく、それぞれに管轄街が存在する。演説も同時刻に、それぞれの場所で行われていた可能性が高い。
ならば敵の配置はある程度読めるはずだ。
しかし
「問題はここからだね」
メルティが腕を組んで考える。
「昨日と同じ場所に同じ相手が現れる保証はない。僕達は一度、それぞれの相手と接触してる。顔も、魔法もある程度は分かる。だから、同じ相手と戦えるならそれが一番いい」
たしかに、メルティの言う通りに動けばそれが一番効率的だ。
しかし、こちらの存在を認識した以上は配置を変更する可能性も十分にあった。
「さて、どう動くべきかな」
メルティが地図を睨み、慎重に考えていたその時。
「待って」
スピカが口を開いた。
「待つ必要なんてないわ」
「どういうこと?」
そう言う彼女に、メルティが問う。
「こちらから動くのよ」
スピカの指が、地図の中心へと置かれる。
「昨日の状況から考えると、ここがセフィラの拠点である可能性が最も高い」
彼女が指したのはルッジェーロ。街の中央ということは、全ての街へ最短距離で移動できる場所でもある。
「なるほど。ここに集まってる可能性があるのか」
「ええ。そして」
スピカは顔を上げ、一人の少女へと視線を向ける。
「最初に動くのはリゼットよ」
「………………え」
突然名前を呼ばれたリゼットが僅かに目を見開く。
スピカは、そんなリゼットを真っ直ぐに見つめた。
「私達は、それぞれ昨日セフィラと接触した場所へ向かう。そして、リゼットには一人でルッジェーロへ行ってもらうわ」
「ちょっと待て」
スピカの発言に、アルケーが眉をひそめ反論する。
「それじゃリゼット一人で……」
「ええ」
スピカはアルケーの発言を遮り、言い切る。
「彼女には、セフィラの拠点を襲撃してもらう」
「えぇぇぇぇえええええ!!!!?」
案の定、最初に叫んだのはシキだった。
「リゼット一人!?いくら何でも危ないよ!!!」
「ぼ、僕も危険だと思う……」
ヴェーターも不安そうに口を挟む。
しかし
「戦う必要はないわ。リゼットにしてもらうのは、敵を倒すことじゃない」
スピカは冷静な瞳で全員を見つめる。
「分断よ」
そう言うと、スピカはリゼットに視線を向けた。
「傀儡魔法で人形を展開。それぞれに風魔法を使わせて、セフィラ達を強制的に各地へ飛ばす」
スピカの発言で策を理解したメルティが小さく笑う。
「あー、なるほど。僕達が敵のところへ行くんじゃないってことね」
スピカもまた小さく笑った。
「ええ。敵を私達のところへ連れてくるのよ」
その作戦にシキとアルケーが顔を見合わせる。
「すっご!!!」
「んなこと出来んのかよ!?」
そして二人は、ほぼ同時にリゼットを見る。
「……………………」
リゼットは少しだけ考える。
そして
「…………できる」
小さく口を開いた口から放たれた一言。その言葉だけで十分だった。
その一言に、不思議なほどの確信が宿っていた。
「ありがとう、リゼット」
「でもよぉ」
アルケーが再び口を挟む。
「その一瞬でも、リゼットは全員の前に出るんだろ?」
「そうだよ!!誰かいた方がいいよ!!!」
シキも珍しく真剣な表情を浮かべる。
「………………」
リゼットは二人を見る。
自分を心配してくれている。
その事実に、ほんの少しだけ胸の奥が暖かくなった。
「……………………任せて」
リゼットはそっと胸元へと拳を添える。
「…………私にしか、できないから」
そう言うリゼットの瞳を見た瞬間、シキとアルケーが黙る。
「私もそう思ってる」
スピカが静かに続けた。
「リゼットだから頼んでいるの」
「………………」
リゼットがスピカを見る。
真っ直ぐな視線。そこにあるのは不安でも、恐怖でもない。
たった一つの信頼だった。
「…………わかった」
リゼットは僅かに微笑んだ。
「決まりね」
「僕も賛成だ」
メルティが頷く。
「リゼットが大丈夫なら!うちも!!」
「俺もだ。先行は任せたぜ」
「ぼ、僕も!」
一人、また一人と作戦に賛同していく。
「あの」
そんな中、ラミアが小さく手を上げた。
「一つだけ、お願いがあります」
全員がラミアを見る。
「実は……ロドモンテには、ヴェルムも来ています」
その名前を口にした瞬間、ラミアの表情から柔らかさが消えた。
彼女にとって、父の敵がこの都市にいるのだ。
「なのでリゼットさん」
ラミアは真っ直ぐリゼットを見る。
「もしヴェルムがそこにいたら、私のところへ飛ばしてください」
彼女から発されたのは迷いの無い、決意の声だった。
「………………わかった」
リゼットもまた、迷うことなく答えた。
「ヴェルムは雷魔法使いだったわね。なら、あなたは私達と一緒に行きましょう」
「たしかに、私も賛成します」
ラミアが大きく頷く。
「これで決まりだね」
リゼット対ヴェルテクス。
シキ、スピカ対トルポル。
ラミア対ヴェルム。
ヴェーター対メルゴ。
アルケー対テンペス。
そして、メルティ対ゲラーテ。
それぞれの戦うべき相手が今、ここで決まった。
メルティは七人を見渡した。
「全員、生きてここに戻ろう」
真剣な眼差しでメルティが言う。
「わかった!!!」
シキが真っ先に手を挙げる。
「………………うん」
「当然だろ」
「ぼ、僕も頑張るよ」
「もちろんよ」
「はい」
一人ずつ答えていく。そんな六人を見てメルティは最後に小さく笑った。
「それじゃあ……」
七人は立ち上がった。
それぞれが、それぞれの戦場へと向かうために。
「作戦開始だ!」
その言葉と共に、それぞれが向かうべき場所へと向かった。
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「なんなのよ、もう!!計画は邪魔されるし、あいつらまでいるし!!」
メルゴが不満そうに頬を膨らませる。
「うるせぇぞボケ女」
そんな彼女にテンペスが荒く返す。
「誰がボケ女ですってぇ!?」
「お前だよボケ」
「アタシはボケてなんかないわよ!!」
「……はぁ」
二人のやり取りにゲラーテが深くため息を吐いた。
その近くでは、トルポルが腕を組みながら壁にもたれている。
そして少し離れた場所にはヴェルムもいた。
部屋の中央に立つはヴェルテクス。
「おい、お前ら少し落ち着………」
ゲラーテがそう言いかけた時だった。
「待ってください」
ヴェルテクスが口を開くと、メルゴとテンペスの声が止まる。
ヴェルテクスの瞳が細くなる。
「かなり大きい魔力を感じます」
「…………この魔力」
ゲラーテも気付いていた。
瞬間、膨大な魔力に全員が動いた。
背中を合わせるように、それぞれが周囲へ視線を向ける。
「誰よもう!」
「ボケが来たか?」
それぞれが周囲を警戒する。
そしてその外で
「…………傀儡魔法」
突如、複数の魔法が屋敷を襲う。
「な、何よ!?」
屋敷が一瞬にして破壊される。
砕けた窓ガラスが無数の破片となって宙へと舞った。
「なんなのよこれ!!」
「風か!!面白ぇボケじゃねぇか!!」
瓦礫の向こうで、その月光を背にした少女が立っていた。
淡い金髪が、夜風に揺れる。
コバルトブルーの瞳、白い肌、そしてその周囲には無数の人形が展開されている。
「人形……まさか!?」
その光景にゲラーテが反応する。
次の瞬間、人形達が一斉に動き始めた。
「………………風魔法」
「なっ!?」
六人を囲む暴風が、それぞれ別方向へ吹き荒れる。
「ちょっ、待ちなさいよぉぉおおお!!」
「なんだこれ!面白ぇボケだな!!」
「ちっ、やるじゃねぇか」
「君は警戒していたが、まさかここまでとはな。してやられたよ……」
それぞれが、己の敵が待つ戦場へと運ばれていく。
そして、二人だけが残った。
「なるほど、分断ですか」
ヴェルテクスが周囲を見渡す。
「またしても、やられたというわけですね」
そう言う彼の表情から余裕は消えていなかった。
「たった一人で我々の拠点へ乗り込み、全員を強制的に別々の場所へ移動させる。随分と大胆な作戦だ」
ヴェルテクスは不敵に笑う。
「……………………」
その瞬間、リゼットが一瞬震えた。
脳裏に蘇る、あの時の記憶。
スピカの言葉がまだ心の奥に残っていた。
必要とされた。自分にしか出来ないと、そう言われた。
それだけのことなのに、不思議と胸の奥が暖かくなる。
あれほど恐ろしかったはずの男が目の前にいる。それなのに、今は逃げたいとは全く思わなかった。
「…………………いくよ」
リゼットが両手を小さく上げる。
その瞬間、ヴェルテクスの周囲にも神々しい光が満ちた。
リゼットとヴェルテクス。互いが互いを見つめ合い、そして魔法を展開する。
そして
「………………解析開始」
リゼット達の人形とヴェルテクスの光が一斉に動き出した。




