〈6-2〉再会と合図
夜。
「楽しかったーーー!!!」
仰向けでベッドに飛び込み、四肢を上げながら満足気に笑みを浮かべるシキ。
「僕も、いろんな本が読めたよ」
「俺は鍛えてきたぜ!見ろよこの筋肉!!」
「……………よかった」
それぞれがロドモンテを満喫し、その思い出に浸り語る。
そんな中
「みんな楽しそうでよかったわ……」
スピカは疲れ果てた顔をして腰をかける。
「ど、どうしたのそんなにやつれて……」
「全てこのバカのせいよ」
心配するヴェーターに、スピカは少し怒った顔をしながらシキを指差す。
彼女はシキに散々振り回された挙句、次へ次へとあまりの速度でどこまでも行ってしまうため、ただ追いかけるだけで一日が終わってしまったようだ。
「もう疲れたわ…。少しだけ休ませてちょうだい、流石にもう頭も回せないわ………」
そう言うとスピカはふらふらと身体を揺らしながら歩き、そのまま倒れ込むようにベッドへ身体を横にした。
「俺も寝るとするぜ。敵はいつ来るかわかんねぇ、明日に備えるのは大事だ」
アルケーもまた、早々と瞳を閉じる。
「えーーー、もうちょっと話してたいのに!!」
そんな二人を見ながら頬を膨らませるシキ。
「ま、まぁ、僕はまだ起きてられるから。少しだけ話そっか」
「…………私も」
少しだけ不満気なシキを見たリゼットとヴェーターが彼女の相手をしようと挙手。
二人を見た途端、シキは目を大きく輝かせた。
「いいの!!!やったぁぁぁああああ!!!」
「うるせぇええええええ!!!!!」
ボフッ
「うげっ!」
シキの叫び声に、アルケーが怒りの枕投げが炸裂する。
「少しは声抑えろや!!」
「は、はーい」
シキはちょっとだけ反省した顔で返事をした。
「………………何、話そっか」
「じゃ、じゃあ…みんな何してたかとか?」
「いいね!うちはねー……………」
こうして三人だけの夜の会話が始まる。
ロドモンテでの出来事、観光、そして楽しかったことも。
シキは必死に声を抑えながら意気揚々と話し、ヴェーターが笑顔で返す。
リゼットもまた、そんな二人を見ながら小さく微笑んだ。
窓が照らす月明かりが、彼女の淡い金髪を照らす。
平和で、そして楽しい日常。まるで夢見ていた時間が今、ここにあるかのようだった。
この時間こそが、彼女にとっての今日の一番の思い出なのかもしれない。
「ねえねえ!リゼットはどこ行ってたの!?」
「…………えっ?」
そんな思いに浸っている中、突然話を振られたリゼットが少し驚いた表情で声を漏らす。
「…………………ドールショップ」
「やっぱり!!」
「リゼット、人形好きだもんね」
リゼットが言葉を返すと、それに食いつくように二人がリゼットを見つめ返した。
自分を見つめる二人の瞳が、リゼットには何よりも輝いて見えていた。
そして三人は夜遅くまでずっと話し、そしてそれぞれが語り尽くしたところで眠りについた。
そして、隣の部屋では…
「な、何だか聞き覚えの声がしたような…………」
「は、はい!私もしました!」
メルティとラミアが隣の部屋で寝泊まりをしていた。
「早い再開になりそうだよ…」
頭を抱えるメルティ。
ラミアはリゼット達との再会がすぐそこまで来ていることに、期待に胸を膨らませていた。
「早く会いたいな……」
そう、ラミアは空に向かって呟いた。
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翌日。
「おはよぉおおおおおおお!!!!」
「うるせぇええええ!!」
ガンッ!
「いだっ!!」
いつもの朝のシキアラームに飛び起きたアルケーが、そばにあった時計を投げつけた。
そして、その声にそれぞれが目を覚まし始める。
「うるさいアラームね…」
スピカが目を擦りながら身体を起こす。
昨日の疲れがまだ残っているのか、その動作はとても重たそうに見えた。
五人はホテルを出ると、一通り景色を見渡す。
「平和ね…。特に何か起きそうな気配もないし、今日も昨日と同じ行動になりそうね」
危険な気配が無いと感じたスピカは、再び昨日と同じように観光人に装うよう指示を出した。
「じゃあ今日もトレーニングだな!」
「ど、どこ行こっかな……」
「魔導具店に行きたいわね。シキ、あなた昨日は散々振り回してくれたんだから、今日は私に付き合ってもらうわよ」
「えぇええええええええええ!!!!!」
それぞれが自分の行き先を決め、再びそれぞれの方向へと歩き出した。
リゼットは、次は別の場所のドールショップに向かおうとしていた。
ロドモンテは広大な都市だ、ドールショップは複数店存在する。
新しい人形に出会えることに少しだけ期待に胸を膨らませる。
しかし、その道中に謎の人集りがあるのを見かけた。
「…………………なんだろう」
リゼットが少し遠くから視線を向けると、その先にいた人物を見た瞬間、大きく目を見開く。
「お集まりいただきありがとうございます。こんな沢山の方々に来てもらえるなんて光栄です」
忘れない。いや、忘れることのない声。その心に深く刻み込まれたその姿。
彼の姿が今、目の前にあった。
「自己紹介から始めましょう。私の名前はヴェルテクス、セフィラの魔術師第一席にして、アーカーシャ教団最高幹部の一人です」
「せ、セフィラの魔術師!?」
「第一席だと!」
ヴェルテクスがその名を告げると、その称号に人々が驚きざわつく。
「本日皆様にお集まりいただいた理由はただ一つ、魔法から世界を救うためです。魔法、それは凶悪にして差別の元凶。みなさんもそうでしょう?」
彼の演説に、人々は疑問の顔を浮かべる。
魔法。それは今を普通に生きる人々にとって当たり前のような存在。
それを突然悪だと呼ばれたのだ。誰もが疑問の表情を浮かべるのも無理は無い。
「魔法で虐げられた人、いませんか?弱者だと見下された人、いませんか?」
ヴェルテクスの言葉に一人、また一人と、何かを思い出すかのようにピクリと身体を震わせる。
「魔法を憎いと思う人、いませんか?魔法で大切な人を殺された人、いませんか?」
「そうだ…」
「私は魔法で……」
また一人、そしてまた一人。小さく声を上げる者もいた。
「この格差を、終わらせたいと思わないんですか?」
ヴェルテクスが小さく口角を上げる。
そしてその一言に感化された者たちが声を上げ始めた。
「そうだ!俺は魔法が弱くていじめられてた!!」
「私も!みんなにバカにされて生きてきた!!」
「この格差を変えてくれ!セフィラの魔術師様!!この世界を変えてくれ!!」
全員ではない、たった数人の声。だがその声は確かに心からの叫びだった。
過去を思い出し、その身に刻まれた記憶を掘り返した結果の、魂の言葉。
小さくも大きく、まるで身体の奥底まで響くその声にヴェルテクスは不敵な笑みを浮かべた。
「ええ、そうでしょう!辛かったでしょう、悲しかったでしょう。だから今、終わらせましょう」
ヴェルテクスは天へとその手をかざす。そして、その手の遥か先、上空に光を出現させる。
その光はここにいる全ての民に向けられた光の雨となり
「光魔法・聖天ノ慈涙」
その手を下ろした瞬間、無数の光の雨が人集りへと降り注ぐ。
圧倒的すぎる数、そして輝くほど綺麗な光。
その光に目を奪われた人々は、そこに迫りくる死にすら気付けなかった。
ヴェルテクスがニヤリと笑う。
「まず第一段階クリアかな」
勝ちを確信した笑み。まるで自信の敗北などありえないと、そう思わせるかのような凛としたその姿。
しかし
「……………傀儡魔法」
「操血魔法!」
血の壁と人形による防御魔法。重なる二つの魔法が傘となり、血の雨を防ぎ切る。
二つの魔法が今、彼の表情を一瞬にして変えた。
それはヴェルテクスだけでは無い。見覚えのある魔法を見た二人も、その先に視線を向ける。
「……………ラミア?」
「り、リゼットさん!?」
目を合わせた二人の瞳が大きく開く。
「チッ、計画が台無しじゃないですか……」
ヴェルテクスが二人を睨む。
リゼット、ヴェルテクス、ラミアの再開。
この三人から漂う空気が、これから始まる戦いの開幕を合図するかのように、重く変わり始めた。




