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WitchDoll〜傀儡人形は夢を見る〜  作者: うつろ
Chapter-5【ガヌロン王国編】

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〈5-10〉偶然の出会い

時は少し遡る。


リゼット達がガヌロン王国にいた頃、別の場所でもまた一つの出来事が起きていた。


「私の恩人が探している人と特徴が似ていたので。もしかして、獄炎の魔術師さんですか?」


街中で情報を集めていた彼にそう声をかけたのは、白い髪に赤い瞳、コウモリの羽のついたカチューシャを付けた、一人の幼い少女だった。


彼は不思議そうな表情で少女を見つめる。

「そうだけど、君は?」

「ラミアと申します」

ラミアは、小さく頭を下げる。

「私の恩人達が、あなたを探していました」

「恩人?」

「はい。リゼットさん、シキさん、スピカさん、ヴェーターさん、そしてアルケーさんです」

ラミアはリゼット達の名を彼へと告げる。


「え、あの子たちも学園を出たの!?」

聞き覚えしかない名前に、彼は小さく目を見開いた。

エウケー魔法学園を去った五人。まさかこんなところで、リゼット達の知り合いに出会うとは思ってもいなかった。


「それで、五人は今どこに?」

彼はラミアに問う。

「確かガヌロン王国に行くと言ってた気がします。私はマルフィーザの街で皆さんとお別れしましたので」

そう答えるラミアに、彼は僅かに眉を寄せる。


「君、一人なの?」

「はい」

幼い少女が一人旅という事実に、彼は少し心配そうな視線を向ける。

しかし、当のラミア本人は全く気にしていない様子だった。


「それより、獄炎の魔術師さんは何を?」

「メルティでいいよ、呼びにくいだろうし。で、僕はゲラーテって人をを探してる」

その名前を聞いた瞬間、ラミアの瞳が僅かに動いた。

「氷晶の魔術師さん、ですね」

「知ってるのか?」

「はい。リゼットさん達も探していましたから」


どうやらリゼット達の目的は同じらしい。

いや、もしくは自分の手助けのために来ているのか。

どちらにせよ、リゼット達が学園を出た理由は自分にあることが発覚した。


「君、よかったら少し手伝ってくれる?」

「もちろんです。恩人の探してる人ですし、良い人そうですから」

即答だった。

そう答えるラミアの表情は、相変わらずほとんど変わらない。

それはまるで、リゼットを見ているかのようだった。


メルティはそんなラミアを見つめると、小さく笑った。

「じゃあ決まりだ」

メルティとラミアは、お互い行動を共にすることとなった。



「とりあえず情報を集めたい。二手に分かれようか」

メルティは二人で同じ場所を回るより、別行動をした方が効率が良いと判断する。

「僕は向こうを回る。君はこの辺りを頼めるかい?」

「分かりました」

そう言うと、メルティとラミアはお互いに背を向け、歩き出した。。



二人は街の人々に情報を聞きまわる。

しかし、聞いては知らないの繰り返しだった。

「……こりゃダメだな」

メルティは頭を掻く。

これ以上聞いて回ったところで、大した情報は得られないだろうと感じていた。


「ラミアの方はどうだろうな」

少しだけラミアの事を心配するメルティ。

本人は妙に落ち着いていたが、彼女もまだ幼い少女だ。長い間一人にするのは危険がありすぎる。

「一回戻るか」

そう呟き、メルティは来た道を引き返した。




一方その頃。


「すみません。少しお聞きしたいことがあるのですが」

ラミアもまた、街の人々へゲラーテについて尋ねていた。

しかし結果はメルティと変わらない。

誰もゲラーテについての情報を持つ者はいなかった。


小さく呟き、次の場所へ向かおうとした。


その時だった。

「ようやく見つけたぜ、魔女さんよぉ」

突然聞こえてきた聞き覚えのある声に、ラミアの足が止まる。


ラミアはゆっくりと声のした方を見る。

そこに立っていた男を見た瞬間、彼女の瞳からいつもの穏やかさが消えた。


「久しぶりだな、ラミア」

ヴェルムは口角を大きく吊り上げる。

「随分探したぞ、屋敷に行ってみればもぬけの殻。まさか本当に外へ出ているとはな」


そう言うと、ヴェルムはラミアに近づく。

ラミアは逃げなかった。その顔をただ静かに、憎悪の瞳で見つめ続ける。


自分から父を奪い、街から追い出した張本人。

そんな彼が今、自ら自分の目の前に現れたのだ。


緊迫した空気が一気に重くなる。

まるで空間が歪んでいるかのような感覚だった。


「ヴェルム……!!!!」

「いちいちうるせぇな魔女さんよぉ!!!!」

ラミアは自身の指を噛み血を出すと、それを一気に放出させて周囲に漂わせる。

ヴェルムもまた、全身に雷を纏わせた。


そして少しの沈黙の後、二人が同時に魔法を放つ。

「操血魔法!!!」

ラミアの周囲を漂っていた血液が硬化し、無数の刃へと姿を変える。

対するヴェルムは無数の雷の刃を作り出した。


雷魔法トニトルス!!」

血と雷の刃が一斉に激突する。

凄まじい衝撃が周囲へと広がった。

しかし、二人は止まらない。


「っ!」

高速で放たれたヴェルムの雷の刃がラミアの頬を掠める。

しかし、そこから流れた血液すらも、ラミアは操る。

「お返しします!!」

頬から流れた血が針へと変わり、ヴェルムへ飛ぶ。


「厄介な魔法だなぁ!」

ヴェルムは高速で上空へと回避。

対するラミアも血で羽を作り上空へと飛び立った。

上空からラミアが手を振り上げる。

地面に落ちていた血液が一斉に飛び、ラミアの周囲で槍となり硬化する。

そしてそれをヴェルムに向けて放った。


しかし

雷魔法トニトルス雷撃フルミニス!!!」

ヴェルムの強力な雷によって、血の槍は空中で砕け散る。


だが、散らされた血液は再びラミアの元へ集まっていく。

攻めても決まらない。守っても崩せない。


ヴェルムが雷を放てば、ラミアは血の壁で防ぐ。

ラミアが刃を放てば、ヴェルムは雷で撃ち落とす。

互いに決定打が何一つ無かった。


「随分強ぇ魔女さんだなぁ!」

「ずっと練習してきましたから!」


その言葉を聞いたヴェルムは、全身を雷で包む。

その瞬間、ラミアの視界から一瞬にして消えた。

「えっ!?」

ラミアは辺りを見渡すも、ヴェルムの姿を見つけられない。

それならばと操血魔法で大量の血の雨を硬化させて振らせようとした。


しかし

「遅ぇんだよ!!」

彼女が魔法を放とうとした時、時は既に遅かった。

雷を纏ったヴェルムは、ラミアの反応を遥かに超える速度で懐へ潜り込んでいた。


その手には、雷によって形成された一本の槍。

まるでラミアの父親であるコメスを殺した時と同じように、雷の槍をその手に持っていた。


「死ね!」

槍の先端が、少女の胸へ迫る。

今から血を集めても、防御も回避も間に合わない。

ラミアは死を覚悟し、強くその瞳を閉じた。


その瞬間。

「やっと見つけた」

「っ!?」

凄まじい獄炎がヴェルムとラミアの間を駆け抜ける。

ヴェルムは咄嗟に攻撃を中断し、大きく後ろへ下がった。


ラミアが視線を横へ向ける。

「大きな物音がしたから来てみたけど、まさかこんなことになっていたとはね」

ラミアが視線を向けた先には、メルティ姿があった。

「メルティさん!」

メルティはラミアの前へ立つ。

そしてヴェルムを見た瞬間、その表情から僅かに笑みが消えた。


炎が、さらに強く燃え上がる。

「さて、僕の連れに何してんだ?」

途端にヴェルムの表情が変わる。

セフィラの魔術師第三席。その実力をヴェルムが知らないわけがない。


「チッ」

大きな舌打ちと共に、ヴェルムは雷の槍を収める。

「テメェが出てくるとは思ってねぇよ」

ラミアだけなら戦える。いや、むしろ勝っていてもおかしくなかった。

だが、そこにメルティが加われば話は別だ。

ヴェルムは後方へ下がると、その視線をラミアへと向ける。

「決着をつけたけりゃ、ロドモンテに来い」


ラミアの瞳が僅かに見開かれる。

「ロドモンテ……」

ヴェルムの身体を再び雷が包み込まれると、そのままヴェルムは高速で飛び去っていった。




───────────────────────────




戦いによって荒れた街中で、ラミアはヴェルムが消えた方向を見つめ続けていた。

「おーい、ラミアー」

「は、はい!」

メルティの声に、ラミアは驚くように反応する。

「聞くまでも無いと思うけど、向かう?」

「はい。私はロドモンテへ向かいます」

その声には迷いがなかった。


ずっと追い続けてきた男が、自分を待っている。

ならば行かないという選択肢はない。

「そう言うと思ったよ」

メルティは小さく息を吐く。


ロドモンテ。

大都市である以上、ゲラーテについての情報も今いる街より遥かに集まりやすい。


「じゃあ、僕も行くよ」

ラミアがメルティを見る。

「いいのですか?」

「うん。ゲラーテの情報も全然ないし、ここに居続けても仕方ないからね」

そう言うと、メルティはラミアの頭へ軽く手を置いた。


彼の手の温もりに、リゼット達のことを思い出す。

ラミアはそんな彼を見て、少しだけ微笑んだ。


暫くして、二人は街を出る。

メルティはゲラーテを追うために、ラミアはヴェルムとの決着をつけるために。

二人はロドモンテを目指して空へと飛び立つ。


「ロドモンテまでは少し距離がある。疲れたら言えよ」

「はい。ですが、大丈夫です」

この少女、本当に大丈夫なのだろうか。そんなことを考えながら、メルティは彼女の隣を飛ぶ。


一方ラミアは、ただ真っ直ぐ前を見つめていた。


そして二人はまだ知らない。

同じ頃、リゼット達もまた同じ場所を目指していることを。

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