〈5-8〉教団の歴史
何食わぬ顔で集めた情報を話すリゼット達。
まるで、ついさっきまで起きた出来事がなにかの夢でもあるかのように、リゼット達は平然と宿に集まっていた。
リゼットの胸に開けられた風穴も、シキの怒りの瞳も無い。
あの時聞こえた悲鳴もどこにも無い。
時が遡ったのか、夢だったのか、リゼット達は知る由も無かった。
一方宿の外では
「なるほど。では、この国にはもう用は無いと」
「そう言ってるじゃないの。別にここがどうなったっていいのよ、手に入れるものは手に入れてる訳だし、いつまでも女王とかやってんのは疲れるの」
ヴェルテクスとメルゴが痴話喧嘩でもしているかのように話している。
どうやらメルゴにとってこの国は滅ぼすこと前提だったらしい。
「なら邪魔してしまった責任は取らないといけませんね」
ヴェルテクスは高速で上空へと飛び、全体を見下す。
まるでゴミでも見るかのようなその瞳を向けると、右手を下へと出し、光魔法を放とうとする。
「一気に片付けましょう」
ヴェルテクスの光魔法が放たれる。
再びあの悲劇を繰り返そうとしたその時だった。
「二度目は無いよ」
「っ!」
突如、放たれようとしていた光魔法が消え去る。
ヴェルテクスがその声の先に視線を向けると、あの少年がそこに立っていた。
「まさかとは思いましたが、あなたが出てきましたか……」
「ずっといたんだけどね。ま、記憶が無いからしょうがないか」
「記憶が無い……ですか。つまり、一度私達の記憶を消したって事ですね」
再び繰り返されるはずの運命が、今ここで止まった。
いや、運命が変わったと言うべきだろうか。
否、それは全くの別物だった。
「ボクが魔法を使ったんだよ。だって危なかったし、それに君たちの思惑通りにさせる訳にはいかないからね」
「では、君さえいなければ私達の勝利は確定していた。というわけですか」
ヴェルテクスは軽く少年を睨みつけると、小さく口を開き言葉を放つ。
「ボクが居なくても多分君は死んでたけどね」
「全く、本当に邪魔な存在ですね。追憶の魔術師エメリア……」
エメリア、この少年が使う魔法こそが全ての元凶だった。
あの時の現象は紛れも無い事実であり、本来であれば今ここには胸に風穴を開けられたリゼットと怒りに身を任せたシキ、そしてそれに巻き込まれ闇に飲まれるヴェルテクスがいるはずだった。
しかし、彼の追憶魔法は記憶そのものに干渉する魔法。世界から記憶を抜き取り、あたかも時間が巻き戻ったかのように全てを元に戻したのだ。
「さぁ、どうするんだい?このまま身を引くことをオススメするけど」
エメリアは余裕の態度でヴェルテクスを見上げる。
ヴェルテクスは軽く息を吐くと、エメリアに視線を返して小さく口を開く。
「あなた相手では流石に勝ち目は無さそうですね……。ここは引くとしましょう」
そう言うと、ヴェルテクスは後ろを振り向き、メルゴと共にガヌロン王国を後にした。
「アーカーシャ教団。君達の思惑通りにはさせないよ……」
エメリアはそう言うと、次はリゼット達のいる宿へと入っていった。
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「こんにちは」
突如、宿の扉が開く。
リゼット達は突然の来訪に警戒し、構えた。
「まってまって、別に戦うために来たわけじゃない。話をしに来たのさ」
エメリアは自信に敵対心は一切無いことを証明し、そのまま近くの椅子に座る。
そしてリゼットの体を軽く見つめると、軽く笑みを浮かべた。
「突然邪魔してすまない、ボクはエメリア。君達がアーカーシャ教団について探っているって噂を聞いたものでね」
「え、あなたもなにか情報を!?」
エメリアの言葉にスピカが反応する。
貴重なアーカーシャ教団についての情報だ。彼女がそこに食いつくのも無理は無い。
しかし、とある違和感を持つものが一人いた。
「待て。何故俺達がアーカーシャ教団について調べてることを知っている?何故俺達がここにいることがわかった。まずそこから説明してもらおうか」
アルケーは彼が平然とした顔で現れたことに警戒心を解かなかった。
「君たちを尾行してたから、かな。まぁ今はそういう事にしといてくれないか?」
「尾行?益々怪しくなってきたな……」
アルケーは微笑するエメリアを睨みつける。
「アルケー」
そんな彼にスピカが割り込む。
「気持ちはわかるけど、貴重な情報が得られるかもしれないわ。一旦聞いてからにしましょ」
「チッ」
スピカに言われたアルケーは軽く舌打ちすると、エメリアから視線を逸らす。
エメリアは五人を見渡すと、ゆっくりとその口を開く。
そして、彼はアーカーシャ教団についての情報を話し出した。
アーカーシャ教団。
それは、人々を魔法から救うために作られた組織。元々は魔法の優劣によって虐げられた者たちを保護し、訓練するために作られた組織だと言う。
設立者は現司祭長、冥淵の魔術師、オルド国王であることは以前の情報通りだ。
だが、そこにもう一人【始祖】と呼ばれる者が存在していた。
始祖と呼ばれた者は、魔法の才能によって虐げられている子供達を気にかけ、そんな彼らを救いたいと心から願った。
そして、意見の一致した三人を集めて教団を設立した。
これが、アーカーシャ教団の始まりである。
しかし、事件は起きた。
現司祭長は誰よりもその思想は過激だった。
始祖が教団に掲げた目標は保護と救済だったが、司祭長がそこに捧げたのは殲滅と復讐だった。
意見の食い違いにより対立してしまった二人は後に戦闘となり、三日間に及ぶ激戦の末、司祭長の勝利に終わった。
その後は司祭長が復讐のために下部組織を作った。セフィラの魔術師もその一つとして設立され、更にオルド大国も下部組織として設立。設立者であり同じ思想を持った国王を配置させた。
始祖の亡き後、虐げられてきた子供達は教団のやり方に耐えきれず次々の教団を抜けていったが、結局は全員捕まり、裏切り者として殺されていった。
そして今、アーカーシャ教団は魔法世界そのものを終わらせるために動いていると言ってと過言では無い。
虐げられてる人達を救うために設立された優しい教団は、いつの日か、魔法への復讐のために動くものとなってしまった。
これがアーカーシャ教団という組織の歴史である。




