〈5-7〉霊魂の友達
血が流れないリゼットの身体。
それを見たシキ達は、ただ呆然とそこに立ち尽くすしかなかった。
ヴェルテクスもまた、そんな彼女の身体を見て何も言おうとしなかった。
何一つ、言えなかった。
胸を貫かれ気絶するリゼット。そしてその胸には間違いなく大きな風穴が空いている。
それなのに、彼女の身体から血の一つも流れない。
もはや生きているのか死んでいるのかすらわからなかった。
「どういうことなの……ねぇスピカ!リゼットはどうなっちゃったの!!!」
シキが泣きながら叫ぶ。
スピカはそんなシキに視線を向けることなく、ただ黙って首を横に振った。
アルケーは拳を握りしめ、ヴェーターはリゼットの目の前でうずくまる。
目を覚まさなさい彼女を前に、ただ黙っていることしか出来なかった。
「何かよく分からんが、一人居なくなったと思えばいい。さて、次は……」
リゼットを前に沈黙する四人を前に、ヴェルテクスは次の標的を決める。
「君にしよう。君、頭良さそうだからね」
ヴェルテクスは次は高速でスピカに接近する。
そして再び、その手でスピカの胸を貫こうとした時だった。
「やめてぇええええええええ!!!!!!」
「!?」
シキの叫びと共に、無意識に霊魂魔法を発動。
ヴェルテクスによって殺された人達の大量の幽霊が一斉に彼の元へと向けられた。
幽霊の一人がスピカのダメージを肩代わり。そして、数十体にも及ぶ大量の幽霊がヴェルテクスを囲み魔法を放つ。
「絶対に!!!絶対に許さないから!!!!!!」
それは、初めて見せるシキの怒りだった。
いつも笑顔を向けていた彼女が涙を流し、ヴェルテクスを憎悪の瞳で睨みつける。
「ゴーストちゃん!!集中攻撃だよ!!!」
彼女は既に、我を忘れてしまうほどに憎悪の感情を剥き出しにしていた。
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シキ。
彼女は生まれつきから霊感が強く、物心が付く前から幽霊と会話ができる不思議な少女だった。
母親は彼女が四歳近くの時に放浪の旅へと家出し、父親は見えない存在と会話する彼女を気味悪がり、近づこうとすらしなかった。
彼女の友達は彼女にしか見えない幽霊だけだった。
幼い頃、友達を作ろうと色んな人に声をかけてはいたものの、その体質を気味悪がられ彼女に近づこうとする人は誰一人としていなかった。
「今日も友達できなかったね。でも!明日はきっとできるよ!!ね!!!」
シキの唯一の友達、それが幽霊だ。
他の人には見ることもできない幽霊は、彼女にとっての心の拠り所だった。
けれど、それと同時に彼女は気付いていた。
ぽっかりと空いてしまった心の正体を。
「こんにちは!!うちはね、シキって言います!!」
「初めまして!シキです!!!」
「うちの名前はシキ!よろしくね!!!」
彼女はどれだけ突き放されても絶対に諦めなかった。
何度も何度も声をかけ、友達を作ろうとしていくうちに、それは彼女にとっての夢の一つになっていた。
「大丈夫、エウケーに行けば絶対できる!!」
そして時は過ぎ、エウケー魔法学園に入学した時。
「ねえねえねえねえ!!やばかったよね!!!えっと…スピカちゃんだっけ!!うちの名前はシキ!!!!よろしくね!!」
「え、ええ。よろしくね……」
半ば強引ではあるものの、シキに初めての友達ができた。
同じクラスのスピカ、同じ異常者のリゼットとヴェーター、そしてメルティ、アルケー……。
シキが求めていた世界が、確かにそこにあった。
そして、この関係をこれからもずっとずっと続けたいと心から願っていた。
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「リゼットを!返してよ!!!!」
今まで誰も見たことの無いシキの怒り。
それが今、セフィラの魔術師第一席へと向けられていた。
「これは想定外……」
凄まじい彼女の圧に、ヴェルテクスも一歩後ろへと下がる。
しかし、そんな彼をシキは逃がさない。
脅威の身体能力を駆使してすぐさまヴェルテクスの背後へと回りこむ。
幽霊もまた、再びヴェルテクスを取り囲んだ。
「くらえ!!!闇魔法・万象ノ轟!!!!!!」
まるで全ての怨念を込めたかのような闇魔法がヴェルテクスを襲う。
「遅い…………っ!?」
ヴェルテクスはすぐさま離れようとするが、その周囲は既に幽霊によって囲まれていた。
「これはマズイですね」
逃げ場のない彼を、複数の魔法が容赦なく襲う。
ヴェルテクスもまた光魔法で応戦するが、大量の幽霊から放たれる魔法全ては処理しきれない。
シキの闇魔法と数体の幽霊の魔法がヴェルテクスに直撃した。
「チッ、厄介なのはこいつでしたか……」
シキの闇魔法がヴェルテクスの体を飲み込んでいく。
その時だった。
「はい、そこまで」
突如背後から少年の声が聞こえた。
「随分と派手にやったみたいだね、いくらなんでもこれはやり過ぎじゃないかな。でもまぁ大丈夫か、僕がいるから」
少年はラミアのように幼く、まるで少女のような容姿をしている。
そして、ヴェルテクスとは全く違う不思議なオーラを放っていた。
少年は手に持った本を開くと、その魔法を口にする。
「追憶魔法」
その途端、飲み込まれたヴェルテクスが元に戻り、幽霊は持ち主の元へと返り、破壊された街が戻っていく。
シキの怒りも、リゼットの身体も、殺された街の人々も、全て。
「──────はい、おしまい」
少年の声と共に、全てが暗転した。
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「セフィラの魔術師とアーカーシャ教団……まさかそんな関係があったなんて……」
スピカが額に手を当て、考える。
リゼット達は今、宿の中で情報交換をしていた。
まるでずっとそこにいたかのように、何食わぬ顔で五人は話をしていた。




