〈5-4〉拒絶の起源
─────────────────────────
いつからだろう、誰かと接するのが怖くなったのは。
いつからだろう、必死に自分を守ろうとするようになったのは。
僕は魔法の才能が何一つ無かった。
いや、本当は才能はあったのかもしれない。けれど、その才能を発揮することなんて到底出来なかった。
「ねえねえ!またあの魔法教えてよ!!」
「やっぱすごいや!天才だね!!」
誰かが誰かに頼られている。
きっと僕には、果てしないくらいに遠く、手の届かない場所なんだろうな。
僕はずっと一人だった。
高みとか、そんなもの目指そうなんて全く思わなかった。
普通に生きていければそれでいい、ただそう思っていた。
そんなある日のことだった。
「おい陰キャ!お前俺と戦ってみろよ!」
「えっ…………」
突然やってきた子供。彼は僕を見つけては勝負を挑んできた。
「ぼ、僕はそんなこと……」
「うるせぇ!やるって言ったらやるんだよ!くらえ!!風魔法!!」
「えっ、ちょっと!!!」
突然放たれた風魔法により、上空へと吹き飛ばされる。
それを見ていた他の子供たちもそこに集まり、魔法を放つ。
「うっ……」
僕はそのまま地面に打ち付けられた。
やり返すことは出来なかった。僕には魔法の才能が無い、もしやり返したら倍にして返されるだけだ。
「貧弱ぅー!!」
「お前みたいなやつはいなくなればーか!!」
それから僕はずっと虐げられた。
地面に打ち付けられて、蹴られて、魔法を放たれて。
まるで弱い者に価値なんて無いとでも言うかのように、僕はただ地面にうずくまるしか無かった。
誰かが見ている。目が霞んでよく見えない。
けど、助けるを求めることは出来なかった。
きっと彼も、虐げられている僕を笑っていたんだろう。
「だれ……か………………」
僕はいつの間にか、気を失っていた。
─────────────
──────────
───────
「んっ…………」
目が覚めた時、僕を虐げていた子供は何処にもいなかった。
もう飽きてどこかへ行ってしまったのだろうと、そう考えていた。
しかし
「えっ…………」
橋下の壁、何かによって潰された子供の死体がそこに張り付いていた。
まるで抗うことも出来ぬ何かによって、押しつぶされたかのように。
「どう…して…………」
僕じゃない。僕じゃない僕じゃない僕じゃない。
だって僕にはなんの才能も無いのだから。
ふと振り返ると、一緒になって僕を虐げていた子供が僕を見つめていた。
腰を抜かし、全身を震え上がらせている。
恐怖に満ちた瞳だった。
「なんだよ、それ……」
一人が震える口を小さく開く。
「ど、どうしたの」
怯える子供に近づこうとした途端
「や、やめろぉおおおおあお!!!!!」
悪あがきのように放たれる炎魔法。
しかし、何度も何度も放たれるその魔法は、僕の前にしてなにかの壁にでもぶつかったかのように消え去った。
「どういうこと……」
僕にもわからなかった。
何が起きたのか。何があったのか。
この力は一体なんなのか。
けれど、一つだけわかることがある。
これは僕が心の底から本気で拒絶した途端に現れたということ。
この場から逃げたい。助かりたい。守りたい。
この感情が、突然不思議な魔法として発現した。
その日から僕はこの魔法を「拒絶魔法」と名乗ることにした。
原理も何も分からないまま、ただこの魔法だけが一人歩きして僕は成長してしまった。
────────────────────────
「今度は、僕が守りたい」
今まで守られてばかりだった。
自分を守ることで精一杯だった。
けど、今は違う。本当に大切な人達が目の前にいて、本当に守りたいと思う存在がここにいる。
僕に才能なんて無い。けど
リゼットが心を分かり合ってくれるなら
シキが笑顔で手を引っ張ってくれるなら
スピカがみんなの事を支えてくれるなら
アルケーが本気でぶつかってくれるなら
僕は……
「僕は、みんなを守れる存在になりたい!!」
瞬間、まるで深海だったはずの空間の中に一つ、大きなドームのようなものが形成された。
「こ、これってまさか……」
「ヴェーターがやったの!?!?凄い!!凄いよ!!!」
それは拒絶魔法。
メルゴの魔法そのものを拒絶し、自分達の周囲に水が入らないよう拒絶した。
「…………………………空間」
リゼットはヴェーターの魔法を解析する。
「……………………拒絶魔法は、空間の隔離」
「空間の隔離?」
「……………………うん。拒絶魔法は、バリアの魔法じゃ、ない。自分の周囲、空間そのものを隔離するもの」
自分でもわからなかった魔法。
それが今、友達の一言で少しだけ理解できた気がした。
拒絶魔法、それは俗に言う空間魔法の一種だった。
「空間……」
そしてヴェーターは両手を前に出し、試す。
ただ発動することしか出来なかった自分の魔法。それを今、自分の力で使うことを。
「拒絶魔法!」
彼の意思とともに、五人を包み込む空間はどんどん広がっていく。
大きく、大きく、深海の全てを埋め尽くすほどに。
「嘘でしょ!?なによこれ!!」
メルゴはヴェーターの魔法に驚愕し、咄嗟に玉座から離れる。
しかし、既に部屋はヴェーターたちのいる空間に支配されていた。
端へ端へと追い詰められるメルゴ。
しかし
「チッ、運が悪いわね。メルティさえ居なければ、セフィラはこっちのもんだったってのに……」
そう言うとメルゴは壁の一部を水状にし、泳ぐようにその場から逃げ出した。
「あーー!!待てぇええ!!!」
「いや、追わなくていいわ」
逃げるメルゴを追いかけようとするシキを、スピカが冷静に止める。
「追わなくていいのかよ!せっかくの情報が手に入るチャンスだったんだぞ!!」
「……………………情報なら、もう充分。」
一見すると何も情報を得られなかったかのように思える。
しかし、メルゴはたった一言だけ言い残していた。
『メルティさえ居なければ、セフィラはこっちのもんだ』と。
それはつまり、ゲラーテとメルゴはもちろん、メルティ以外の他のセフィラも裏切り者として考えるのが妥当だ。
「これで明確に決まったわね」
スピカが五人に視線を向ける。
メルティの手助け。その目的は今、裏切り者のセフィラを倒すことへと変わった。
「……………………うん」
「ぶっ潰す!!」
「ぼ、僕もがんばるよ!!」
「うちも!!裏切り者は制裁だよー!!!」
セフィラの魔術師を倒す。きっとそれは一筋縄ではいかないことはわかっている。
けれど、今ならどんな相手にでも勝てるような気がしていた。
─────────────────────────
一方その頃
「ゲラーテ、どこ行ったんだ?」
とある街の中を歩く少年が一人。メルティだ。
彼もまた行方をくらましたゲラーテを追い、一人で旅立っていた。
そんな時
「あ、あの、すみません……」
一人の幼い少女が顔を出す。
「こんな小さい女の子が、僕になんの用だい?」
幼い少女が突然話しかけてきたことに驚き、問う。
そして、少女は答えた。
「私の恩人が探している人と特徴が似ていたので。もしかして、獄炎の魔術師さんですか?」
少女はメルティの瞳をじっと、不思議そうに見つめていた。




