〈5-3〉セフィラの魔術師
セフィラの魔術師。
それは、この世界の頂点に君臨すると言われている魔術師。
今リゼット達の目の前にいる【濁水の魔術師】メルゴも、その一人である。
「初めまして、濁水の魔術師様」
スピカは一歩前に出ると、令嬢のような振る舞いで挨拶を済ませる。
そして
「単刀直入に聞くわ。獄炎の魔術師、もしくは氷晶の魔術師の二人がここに来た情報はあるかしら?」
「メルティとゲラーテのことね。えぇ、見たわよ」
「!?」
メルゴは小さく口角を上げると、ゆっくりとその口を開く。
そして、その一言に五人が一斉に反応した。
「み、見ただと!?」
「見たの!?どこにいるの!!!」
初めての有益な情報に、それぞれが前のめりになりメルゴへと接近する。
「落ち着いて話しましょ。まずは玉座の前まで来てちょうだい」
興奮を抑えきれないシキ達を落ち着かせるように告げると、メルゴは再び玉座へと歩き出した。
「さて……」
玉座に腰掛けたメルゴが五人を見下す。
「まずは、セフィラの魔術師について語りましょ。あなた達は少なくとも三人のセフィラには出会っているということになる。それなら、残りの五人について教えても問題ないわよね」
「五人だと?セフィラは全部で七人じゃねぇのか?」
メルゴの発言にアルケーが口を出す。
聞いた話だと、セフィラの魔術師は全部で七人のはずだ。しかし、彼女の言い分だと合計で八人いることになる。
「今の時点ではあなたたちの認識は正解よ。セフィラの魔術師は元々、八人いたの。けど五年前かしら、第八席であるルーペスが何者かによって殺されたわ」
そういうとメルゴは少しだけ悲しそうな表情をする。
白の窓から微かに吹く風が、彼女のツインテールを揺らした。
「元セフィラの魔術師第八席【蛮土の魔術師】ルーペス。危なっかしい人だったけれど、悪い人ではなかったわ……」
そっと瞳を閉じ、まるで過去を思い出すかのように小さく微笑むメルゴ。
数年前の出来事とはいえ、仲間の死は今でも忘れられるはずが無い。
「……………………ごめん」
そんな彼女を見て、リゼットが一言声を漏らす。
「うんん、大丈夫。話がそれてしまったわね」
そう言うと、メルゴはセフィラの魔術師について一人一人解説を始めた。
「セフィラの魔術師について解説するわ。
第一席【聖天の魔術師】ヴェルテクス。この世界の頂点に君臨する、光の魔術師よ。
第二席【氷晶の魔術師】ゲラーテ。氷魔法の頂点ね。とある魔法学園の教師もしているわ。
第三席【獄炎の魔術師】メルティ。齢十三歳でセフィラの魔術師となった炎魔法の頂点にして天才よ。
第四席【雷帝の魔術師】トルポル。雷魔法の頂点よ。速度だけならこの中の誰よりも上ね
第五席【濁水の魔術師】メルゴ。この私よ。水魔法の頂点にして、ガヌロン王国の女王を務めているわ。
第六席【戦風の魔術師】テンペス。風魔法の頂点で、誰よりも戦いを好む戦闘狂よ。
そして最後に
第七席【冥淵の魔術師】アビス。彼女については私もよく知らないの。闇魔法の頂点ってことだけはわかるんだけど、なんせ音沙汰も無ければ全く顔も出さないからね。…………とまぁ、セフィラの魔術師についてはザッとこんな感じよ」
説明を終えたメルゴが一息つくと、再び五人を見つめる。
「あなた達が探しているのはメルティとゲラーテね。たしかエウケー魔法学園を出たと言う二人を探してるということは、あなた達もエウケー出身かな」
「ええ。でも今その話は関係ないはずよ。私たちが聞きたいのは二人の情報」
睨みつけるような視線を向け、メルゴへと言葉を刺すスピカ。
「そうね。なら、とっておきの情報があるわよ」
そんなスピカを睨み返すように見つめると、メルゴはとある条件を出した。
「なにかしら」
「それは……」
瞬間、ニヤリとメルゴの口角が上がる。
そしてその手を前へと向けた瞬間、リゼット達の周囲に無数の水の刃が出現した。
「これを対処できたら教えてあげる」
「えぇえええええ!?!?なに!!どういうこと!!!」
「テメェ、どういうつもりだ」
メルゴの視線、それは殺意の瞳。
彼女には既にバレていたのだ。リゼット達がアーカーシャ教団では無いこと、そして二人を追う理由はメルティに協力するということを。
しかし、メルゴは大きな誤算をしていた。
「……………………甘く見ないで。傀儡魔法」
リゼットは人形を十体複製させて防御魔法を展開。
「きょ、拒絶魔法」
「天球魔法」
「クソ!無限魔法!!」
「行くよ!霊魂魔法!!!」
続く四人もまた、自身の固有魔法でなんなくメルゴの水魔法を防ぎきった。
(こいつら、固有魔法使いか…………)
メルゴは五人を一般的な魔術師だと思い込んでいた。
しかし、その実態は五人とも異常者とも呼ばれる魔術士たち。
セフィラの魔術師に匹敵する程の実力者だとは思いもしなかった。
「やはり、あなたも裏切りのセフィラの一人のようね」
スピカが氷魔法を用意。
「言うまでもなかったようね。そう、私も裏切りのセフィラの一人にして、アーカーシャ教団大幹部の一人。いい冥土の土産になったでしょ?」
その瞬間、突然足場がまるで底なし沼のように変化する。
リゼット達は沼のような地面にどんどん沈んで行った。
「させるかよ!無限魔法!!」
アルケーは魔法の有限化により沈むのを阻止しようとする。しかし、今有限化を測ったところで既に足は埋まって閉まっていた。
「……………………傀儡魔法」
リゼットもまた人形を使って外へ出ようとする。
しかし、メルゴはそれすらも許さない。
「落ちなさい」
彼女は複数の水の塊を頭上へと出現させる。
無限魔法で止めても、天球魔法で軌道を変えても、次から次へと対策されていく。
溺れるか、落ちるか、溺れるか、落ちるか…………
五人はたった二つの選択肢を迫られていた。
「さて、そろそろ終わりにしましょ」
そう言うとメルゴは空間そのものを深海へと変えた。
呼吸ができない。
天球魔法は範囲攻撃の機動は変えれないし、無限魔法を使っても既に深海の中にいるためそれを有限化しても意味は無い。
傀儡魔法も、霊魂魔法も、太刀打ちする魔法は無い。
誰もがそう思っていた。
「…………えっ」
「なにこれ!!息ができる!?!?」
深海にいるはずの五人の周囲だけ、まるで何も無かったかのように魔法の影響を受けていなかった。
太刀打ち出来ない。そう思っていたはずなのに
それを覆す男がたった一人。
「拒絶魔法」
ありとあらゆるものを拒絶するヴェーターの魔法。
それは、ただ攻撃を無効化するだけの魔法ではなかった。
「なんだって……」
思いもよらぬ光景にメルゴが目を見開く。
そして、そんな彼女をヴェーターは勇気と覚悟の瞳で見つめ返した。
「ぼ、僕だって守られるだけじゃないんだ。今度は……今度は僕がみんなを守る!!」
勇気や覚悟だけでは無い。
今までの彼からは想像出来ぬような闘志の心が、その声には宿っていた。




