〈5-1〉アーカーシャ教団
リゼット達が飛ぶ空の下。
そこには、どこまでも広がる大地が広がっている。
「次の街まだぁああああああ!?!?!」
どこまでも変わり映えの無い景色に飽きてしまったのか、シキの叫び声が空に響く。
「もうずっと飛んでるよ!!! お腹空いた!!!」
「あなた、出発前にあれだけ食べてたでしょう……」
シキのわがままに呆れたようにスピカがため息をつく。
五人はマルフィーザを離れ、次なる目的地へと向かっていた。
リゼットの操る人形から出る風魔法に身体を乗せ、空中を進んでいく。
「もう少しで着くわよ。我慢しなさい」
「えぇええ!!!もう着くの!!やったぁぁぁぁ!!!」
スピカが、遠くへ目を向ける。
その視線の先の山々の隙間から、巨大な城壁が姿を現し始めていた。
高くそびえ立つ壁の向こうには、マルフィーザとは比較にならないほど巨大な街並みとお城が構えている。
「見えたわ。おそらくここがガヌロン国よ」
スピカが地図へ視線を落とし、その名を告げる。
「おぉおおおお!!やっと着いたー!!!!」
シキが目を輝かせ、叫ぶ。
「………………大きい」
「お、お城だなんて。僕初めてだよ…」
リゼット達もまた、初めて目にするその光景をじっと見つめて呟いた。
ガヌロン王国。
まるで中世西洋を思わせる雰囲気、どこまでも広がる街の数々、そして最奥に構える大きな城。
初めて訪れる感覚に、リゼット達の目を輝かせる。
「あのー!すみませーん!!」
そんな五人の前に、一人の女性が現れた。
「旅の人達ですか!ここは初めてですよね!よかったらこちら受け取ってください!!」
グイグイと押し付けるように女性はリゼット達に一枚の紙を配る。
「ぁあ?んだこれ」
「魔法の呪いから救済を!名付けて、アーカーシャ教団です!!」
「魔法から…救済?」
そこに書かれている文字に、スピカは目を凝らす。
アーカーシャ教団。それは魔法を呪いとし、その魔法から人々を救済するために設立された教団らしい。
しかし、そこに書いてある文字にスピカが注目する。
「あのセフィラの魔術師も……絶賛??」
セフィラの魔術師。その言葉を見た彼女はすかさず紙を渡してきた女性に尋ねる。
「あの、セフィラの魔術師を知っているのかしら?そしたら、メルティとゲラーテっていう二人の魔術師を見た事はある?」
「ありますよ!でも、見たのはゲラーテという方だけですね。ですが、別のセフィラ様ならこの国にご滞在です!」
その言葉に五人が反応する。
この国にセフィラがいる。それがメルティのような善者なのか、ゲラーテのような裏切り者なのか、それはまだ分からない。
けれど、もし本当にセフィラの魔術師がいるなら会ってみる価値は充分にあった。
「そ、そのセフィラって?」
ヴェーターが尋ねる。
「はい!この国の女王もしておられる偉大も偉大、超偉大なお方です!人呼んで、セフィラの魔術師第五席【濁水の魔術師】メルゴ様!!」
「濁水の魔術師…か。名前からして水魔法使いって感じがすんな」
その名を聞く限りでの印象をアルケーが口にする。
濁水の魔術師。その名からして水魔法の頂点に君臨してそうな彼女がこの国の女王を務める。
一国の女王とならば相当の強さを誇るのだろう。
しかしリゼット達は既にメルティとゲラーテの強さを知っている。
今の五人が気にするのはメルゴの強さでは無く、メルゴが敵か味方なのかだ。
「さて……」
スピカが軽く手を叩き、整理する。
「前回と同じように動きましょ。リゼットとヴェーターで宿の確保、アルケーが視察、私とシキで情報収集よ」
スピカの言葉にそれぞれは小さく頷くと、自信のやるべき事のためその足を踏み出した。
────────────────────────
その日の夜。
「ただいまぁああーー!!!!!!」
「みんな、おまたせ」
シキが勢いよく宿の扉を開くと、その後ろからスピカも顔を出す。
宿の中には既にリゼット達三人が待機していた。
「お、おかえり。収穫はどうだった?」
ヴェーターが小さく手を振る。
「ええ、ものすご……」
「ものすっっごい収穫があったんだよ!!!聞いて!聞いて!!!」
スピカが口を開き話そうてしているところにシキが興奮気味で割り込む。
そんな彼女を呆れ果てた顔で見ると、スピカはそのまま深くため息をついた。
「あのね!!あの【ばくすいのまじゅつし】さんは、アーカーシャ教団の一員なんだって!!」
「【ばくすい】じゃなくて【濁水】。ずっと居眠りしてそうなセフィラなんているわけないでしょ」
バシッ
「いたっ!」
いつもの如く、シキの発言にスピカのデコピンが飛ぶ。
「アーカーシャ教団の目的はまだ分からないけれど、もしゲラーテもその一員であれば、あの濁水の魔術師も裏切り者である可能性は充分にありえるわ」
スピカの推測にリゼット達は息を飲む。
ゲラーテは言っていた。裏切り者は一人では無いと。
つまり、その裏切り者=アーカーシャ教団の一員である場合、セフィラの魔術師であり、この国の女王でもあるメルゴは敵になる可能性があるというわけだ。
「敵ならぶっ潰しゃいい話だろ」
アルケーが拳を強く叩き、瞳に闘志を宿す。
「言葉では簡単に言えるけど、相手はセフィラよ。そう簡単に倒せる相手ではないわ」
「チッ」
スピカの冷静な言葉に、アルケーは舌打ちする。
「けど……勝てる勝てないじゃなくて勝つ。そう言って戦いに行くのがあなたでしょ?アルケー」
スピカは優しく微笑み、アルケーのその瞳を見つめた。
闘志と覚悟の瞳。
可能性とか効率とか、そんなのはどうでもいい。今自分にできることを全力でする。
それが、アルケーという男だとスピカは理解していた。
「なら私もやるわ。あなた達を支える役目としてね」
スピカもまた、アルケーを見て覚悟を決めた。
そしてそれはスピカだけではない。
「………………私も」
「ぼ、僕も行くよ」
「うちもうちも!!なんか楽しそうだもん!!!」
リゼットも、シキも、ヴェーターも、それぞれがそれぞれの覚悟を心に宿していた。
相手はセフィラの魔術師だ。けれど、それは戦わない理由にはならない。
五人は学園を離れたあの日から、夢の果てを目指している。
メルティを見つけ、ゲラーテを倒し、そして自分が望む夢を掴む。
学園で得た絆も、マルフィーザの待ちで得た経験も、決して無駄なことなんて無かった。
「んじゃ、明日は城に乗り込みだな!」
「お城!!!やったぁぁあああ!!!!お城!!お城!!」
アルケーとシキは初めてのお城に、期待で胸を膨らませる。
しかし、リゼットの言葉でその期待は冷静なものへと変わった。
「………………………中に、入れるかな」
一国の城ときたものだ、そう簡単に入れるわけが無いとリゼットは考える。
「た、たしかに……」
「簡単に入れるはずないわよね……」
スピカとヴェーターも同じ考えだった。
しかし、少し考えた後にスピカがとある提案をする。
「アーカーシャ教団…………」
そう、アーカーシャ教団という名を使えば良いと判断したのだ。
国の女王であるメルゴはアーカーシャ教団の一員だ。つまり、そのアーカーシャ教団の誰かが来たという話なら城への入場は可能ではないかと判断する。
「それ、行けそうじゃねぇか!?」
「流石スピカ!!頭よすぎ!!!!」
スピカの考察にシキとアルケーは目を輝かせて感心する。
「そうと決まれば明日は……」
スピカが四人に視線を向けると、リゼット達は大きく頷く。
そして、五人は明日のために眠りについた。
明日、その期待が絶望を招く結果になるとも知らずに……




