〈4-8〉それぞれの道へ
『一人じゃない』
それは、あの日の彼女が一番欲しかった言葉。
父親を失い、街の人達から忌み嫌われ、魔女と恐れられた彼女が心の底から願った一言。
二年間ずっと一人で生きてきた幼い少女にとって、それは他の何よりも大きな輝きを放っていた。
「私はもう、一人じゃない………」
まるで街の中で起きた出来事を、あの呪いを吹き飛ばすかのように輝きを放つ笑顔が、彼女を覆う闇を消していく。
「………うん」
リゼットも同じだった。
あの日、リゼットも一人だった。
けれど
シキが友達と呼んでくれた。
スピカの言葉が勇気をくれた。
ヴェーターと心を分かち合った。
アルケーが本気で向き合ってくれた。
あの日の幸せが、温もりが、ずっと胸の中に刻み込まれている。
「……………ラミアも、同じ」
「……え??」
リゼットの言葉に、ラミアが不思議そうに見つめる。
「……………普通に生きたいから」
ラミアの瞳が大きく揺れる。
リゼットの言葉がラミアの心を大きく動かし、そして彼女の背中を押す。
リゼットという光に導かれるように、彼女は小さな手で差し伸べられたリゼットの手に触れる。
彼女の手は冷んやりとしているのに、何故だか伝わってくるのは温かさだった。
二つの小さな星が重なり合うように、二人の夢が大きく、そして眩しく輝く。
まるで目の前にいるのが自分自身であるかのような感覚だった。
「リゼットさん、皆さん、ありがとうございます」
ラミアは涙で溢れたその目を軽く擦り、五人へと視線を向ける。
彼女には五人の姿が、自分を照らす太陽のように見えていた。
「私、決めました。 私は───────」
決意の眼差しでラミアが告げた一言に、五人は軽く目を見開いた。
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翌日。
「本当にいいの!?屋敷は!?!?」
シキがラミアの姿を見て言う。
「大丈夫です。屋敷に入る人はいないでしょうし、いずれは戻ってくることになると思います」
ラミアの告げた一言
『私は、夢を追いかける旅に出ることにします』
それは、彼女にとっての第一歩だった。
リゼット達の優しさが、そしてその夢の輝きが何よりも眩しかった。
だからこそ、自分も自分の道を歩みたい。今を諦めて閉じこもって生活するのではなく、孤独を感じる誰かに手を差し伸べられるような人になりたい。
それが、ラミアの夢だった。
「でもお前まだちいせぇだろ。俺達と来た方がよくねぇか?」
「う、うん。僕達と一緒の方がいいと思うんだ…」
一人で旅立つ決意をするラミアに心配するヴェーターとアルケー。
しかし
「お気遣いありがとうございます。ですが、大丈夫です。私は私の力で夢を追いかけて行きたいので」
その言葉に、二人の心配する表情が軽くなる。
そんな二人を見て、ラミアは言葉を続けた。
「それに…また皆さんに会った時、その時は皆さんの隣に立てるくらいになりたいんです」
芯の籠った彼女の瞳が二人の表情を和らげる。
ラミアはもう、ただの魔女と恐れられる幼い少女なんかじゃない。
自分だけの夢を持つ一人の人間なんだと感じさせられた。
「ラミアちゃぁあああん!!またいつか!絶対に会おうね!!!絶対だよ!!!!」
屋敷の入口でラミアに飛びつくシキ。
「何やってんのよ。気持ちはわかるけど、少し落ち着きなさい」
そんなシキをスピカが服を掴んで引き離す。
そんな光景に少しばかり戸惑うも、ラミアは前を向く。
「それではみなさん、またいつか」
そう言うと、ラミアは血で羽を作り出して空へと飛び立って行く。
遠く遠く、その姿が見えなくなるまで五人はその背中を見送った。
「さて、私たちも次の街へ行くとしましょ。もうここには用はないし」
この街で出来ることを全て終え、スピカが旅立ちを告げる。
「とっとと出るぞ。二度と来たくねぇこんなとこ」
「うちも!!」
アルケーとシキは、ラミアの一件もありこの街にはもういたくないと告げる。
その気持ちはリゼット達も同じだった。
二人の言葉に何も言わず黙って頷くその瞳には、静かな怒りが籠っていた。
「まぁ、そうよね」
スピカは静かに目を閉じ、声を落とす。
「なら行きましょう。次の目的地はガヌロン国よ」
彼女の言葉に四人は小さく頷き、そして再びリゼットの傀儡魔法で空へと舞い上がる。
リゼット達はマルフィーザの街を決して振り返らなかった。
まるで全てを捨てて行くかのように、ただ真っ直ぐに行く先だけを見つめていた。
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その日の夜。
「おい、来てやったぜ魔女さんよぉ」
誰もいない屋敷の扉が蹴り飛ばされる。
蹴り飛ばされた扉の前に立っていたのはヴェルムだった。
「ぁあ?いねぇのか??」
人気の無い屋敷の内部を見渡し、屋敷の中を探し始める。
「おいおい!隠れてねぇで出てこいよ!!」
一部屋、また一部屋とその扉を開けて中を荒らす。
「チッ、ガチで出て行きやがったんか」
ラミアがこの場から去ったことを悟ったヴェルムは、地を踏み潰すかのようにある気、屋敷を出る。
「トルポルさんに叱られちまうじゃねぇか。クソ、めんどくせぇけど探しに行くか………」
そう言うとヴェルムはこの街を離れた。
屋敷を去り、遠くへと旅立ったラミアを探しに。




