〈4-6〉作戦決行
翌日。
マルフィーザの屋敷で寝泊まりしていた五人に差し込む光が、朝の訪れを告げる。
「みんな!!おはよぉおおおお!!!!!」
「うるせぇええええ!!!」
「いだっ!!」
朝一番に起きたシキの叫びに飛び起きたアルケーが叫び返し、枕をぶん投げる。
二人の声でリゼット達もまた静かにその身体を起こし始めた。
「…………………ん、おはよ」
「朝からうるさいわね」
「な、なにがあったの……」
いつもと変わらぬ目覚めのリゼット、呆れるスピカ、心配するヴェーター。それぞれがゆっくりと目を開く。
「みなさん、おはようございます。本日もお茶とお菓子を用意いたしました。昨日と同じもので申し訳ございませんが、宜しければどうぞ」
部屋の扉が開き、ラミアが訪れる。
彼女は昨日と同じものを高級感溢れるお皿に乗せ、テーブルの上に置いた。
それに導かれるようにベッドから起き上がり、卓を囲う。
「今日は作戦決行の日だね!!」
スーパーヒーローラミアちゃん大作戦。今日はそれを決行し、ラミアを魔女という名から解放する日だ。
「本当に、大丈夫でしょうか………」
「だ、大丈夫だよ。僕たちがいるから」
不安になるラミアに、ヴェーターが彼女の頭を撫でながら言う。
その声に自身など微塵も無く、不安さえ感じられるほどではあったが、それでも彼女を励ますには充分だった。
「…………………大丈夫」
「あぁ、この俺がいるんだから間違いねぇ」
リゼットもアルケーも、そんなラミアを見て言葉を放つ。
ラミアはみんなの視線とその声が心地よく感じた。
朝食を済ませた後、卓を囲んでいた五人は席を離れて変装や着替えをして準備をしに行く。
そわそわしながら待つラミア。
今、彼女の中にある感情は不安こそあったが、それよりも自分を思ってくれる事への嬉しさや、みんなで動くことへの期待が胸を膨らませていた。
「………ふふっ」
彼女は誰もいないところで一人、静かに微笑む。
「ラミアちゃんお待たせーー!!!」
「ちっ、動きにくいな。もっとマシなのねぇのかよ…」
まるで悪魔のような衣装を身に纏い、仮面で顔を隠した二人が現れる。
今回の悪役、シキとアルケーだ。
「な、なんですかその格好………」
あまりに奇抜なその格好に、ラミアが困惑する。
「へへぇん!!すごいでしょ!!!名付けて悪の魔王シキ大魔王だー!!!!」
「相変わらずダセェ。つか、魔王二回言ってることに気付け」
まるで誰だかわからない程に変装したシキとアルケーだ。
「………………おまたせ」
「私達も準備できたわよ」
「き、来たよ」
二人に続き、リゼット、スピカ、ヴェーターもその場に到着。
三人はマルフィーザの街にいる人々と同じように、衣装でその肌を隠していた。
「さぁ!!作戦開始だー!!!!!」
「………………うん」
「皆さん、今日はよろしくおねがいします」
リゼット達は屋敷の扉を開く。
その瞬間、差し込んでくる光と心地良い外の空気が、ラミアを感動させた。
「綺麗……………」
二年間屋敷から出てこなかったラミアにとって、何の変哲も無いその景色が輝いて見えた。
陽の光が彼女の瞳を一際輝かせる。
街の人々に魔女と恐れられ、誰にも近づかれず、忌み嫌われていた存在。
その常識が今日覆るのかもしれない。
六人はそれぞれ、自分達の役を演じるため街へと足を踏み入れた。
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マルフィーザの街。
今日も肌を包み隠した街の人々が平和に暮らしている。
リゼット達は人気の無い路地裏に集まっていた。
「さぁ、作戦決行よ。まずリゼットが普通に街を歩いて、そこにシキとアルケーがリゼットを襲う。リゼットは攻撃を受けたフリをして転んでちょうだい。そしてヴェーターがリゼットを守ろうとして、絶体絶命の時にラミアちゃんが登場。そして二人を守る。おさらいはこんな感じで大丈夫かしら?」
スピカが作戦の内容を再度確認し、それぞれが小さく頷く。
「じゃあ、始めるわよ!」
そう言うと、それぞれが自分の役のために動き始めた。
街の中、リゼットが一人で静かに歩く。
何も無い平和な街並み。そして、平和な人々。
「……………………」
この日々がいつまでも続くような、そんな空気が街を包み込む。
しかし、その空気は一瞬にして恐怖へと移り変る。
悪役感丸出しの二人がそこに突然現れた。
「ふはははははは!!!我は悪の魔王シキ大魔王なり!!!!愚かなる人間どもよ、我が糧となるがいいぃいいいいい!!!!」
「楽しそうにしてんじゃねぇ!あと名前出すな!!なんでこいつが悪役なんだよ………」
まるで悪の欠けらも無い上に本名を平然と言うシキにアルケーが突っ込みを入れる。
それを聞いた街の人々は視線を二人へと向け、恐怖の表情を向けた。
「そうだな…まずはリゼ……そこの女からいただこう!!!!!」
危うく名前を言いそうになるが、なんとか耐えたシキがリゼットに向けて闇魔法を放つ。
「……………きゃー」
闇魔法はリゼットには当たらず、足元の地面を抉っただけだが、リゼットは転ぶ演技をする。
しかし、リゼットの叫びは棒読みだった。
(ダメだこいつら…………)
アルケーは頭を抱えつつ、演技を続ける。
「ふんっ、口程にもねぇ。これでトドメだ」
アルケーが炎魔法を放とうとした時、リゼットの前に震えるヴェーターが現れる。
彼は常に震えているようなものな為に、この役は打って付けだった。
「おいおい、震えてるぜテメェの身体。死にてぇならテメェから先に殺してやるよ!!!」
アルケーの巨大な炎がヴェーターを襲う。
ヴェーターはすかさずぎゅっと目を閉じた。絶体絶命のピンチだ。
その時…
「操血魔法!!」
「っ!?」
突然、血でできた大きな壁がヴェーターとリゼットの前に現れる。
それはアルケーから放たれた炎魔法を防ぎ、二人を守った。
(……大丈夫。きっと上手くいく)
ラミアは心の中で自分に言い聞かせると、再び血を操る。
彼女に操られた血はまるで紐のような形状へと変化し、二人を縛り付けて空中へと上げた。
「ぐっ!!」
「えぇえええええ!!なにこれ凄い!!!こんなことも出来るんだ!!!!」
「感心してんじゃねぇよ真面目にやれ!!」
ラミアの操血魔法に興奮し、目を輝かせて叫ぶシキにアルケーが再びツッコミを入れる。
ラミアは縛り上げた二人を地面に降ろす。
「ふぅ…皆さんお怪我はありません……か……………」
彼女が振り返り、人々へと視線を向ける。
しかし、ラミアに向けられたその視線は恐怖そのものだった。
二年間も植え付けられた恐怖はそう簡単には覆らない。
スピカの言っていた通り、こんな安っぽい演技をしただけではラミアを見る目は何も変わらなかった。
「ごめんなさい…せっかく皆さんが………」
せっかく皆が自分のために動いてくれたのに。
こんな事しても、無駄だったんだ。
そう言いかけた時だった。
「まだ、私の番が終わってないわ」
そう言い放ち、優雅に歩くスピカがラミアの側に経つ。
彼女は軽く息吸うと、真剣な眼差しで街の人々へと視線を向けた。
「あなた達に植えられた恐怖は、きっと嘘では無い。実際に見た人達は、まだ恐ろしいかもしれない。でも、今を見てほしい。彼女は二年間、屋敷から出ず、たった一人で過ごしてきた。あなた達に何も危害を加えてこなかった。それが、彼女は魔女なんかじゃない、ただの一人の少女だってことの証明にはならないかしら」
まるで心を響かせるように放たれるスピカの言葉。
まだ恐怖の瞳は消えることは無いけれど、その中には恐怖の瞳を変えていく者もいた。
「恐いかもしれない。近寄れないかもしれない。でも、少しづつでいい。彼女を見てあげて欲しい。魔女でも悪魔でも無い、たった一人の幼い少女として見てあげて欲しい」
小さな灯火が心の中で灯る。
一つ、また一つと、小さな灯火が増えていく。
街の人々の恐怖はまだ消えたわけじゃない。けれど、その心に灯された小さな灯火が、恐怖という呪縛を解いていく。
二年間魔女と忌み嫌われていたラミア。
そんな彼女への恐怖の視線が、少しづつ変わり始めていた。




