〈4-5〉魔女の真実
操血魔法。
彼女の魔法が、初めて発現した。
段々と意識が戻っていく感覚と共に、自身の切り裂かれた身体に不思議な感覚を味わう。
激痛の走る身体を無理矢理起こし傷口を確認すると、ラミアの身体は周囲に散らばった血を自身の体内へと取り込んでいた。
「なに…これ………」
自身の血液だけでは無く、この屋敷の全体に飛び散った血液までもが彼女の身体へと取り込まれていく。
そして、全ての血が彼女の体内へと入った後、その傷口を塞ぐように血が固まった。
「どうして、私だけ………」
ラミアは塞がれた自分の傷口を見ながら小さく声を漏らす。
自分だけが生き残ってしまった。ひとりぼっちになってしまった。
その感情が、ラミアの胸の奥を締め付けた。
足元に転がった父親の死体。
静寂に包まれた屋敷の中では、ただ一人の少女が静かに涙を流していた。
父親を殺された悲しみと突如発現した魔法で、ラミアはどう思えばいいのか分からず、ただ静かに足元を見つめるだけだった。
しかし、その光景は現在の彼女を【魔女】と呼ばせるのに充分だった。
「ひっ………!!」
ヴェルムが去った後、コメスとヴェルムの戦闘中に屋敷から放たれた大きな物音が気になった街の人たちが既にそこに来ていた。
そして、その場に着いた途端目にしたのは、大量の死体とその血を自身に取り込むラミアの姿だった。
「ま、魔女だ………」
「コメスさん…どうして………」
「逃げよう!もうここには近づかない、俺は食われたくない!!」
その光景を目にした街の人々はラミアを人の血を喰らう魔女だと思い込み、逃げるように屋敷から離れていった。
ラミアはその声に気付いていたが、そんなことは何も気にしなかった。
気にする心など、もうどこにも無かった。
それからラミアは街の人々に【魔女】と呼ばれるようになり、屋敷に近付く者は誰一人として現れなくなった。
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「……これが、二年前に起きた事件です」
ラミアは曇った表情で過去を話し追えると、その視線をリゼット達へと向ける。
五人はその壮絶な過去に、ただ小さく口を開いたまま何も言うことができなかった。
「それから私は私の魔法を沢山練習して、今では色んなことができるようになったんです。そう思えば、悪くなかったのかもしれません」
ラミアは今にも泣きそうな笑顔を五人へと向ける。
それでもラミアを見つめる五人の瞳は、ただ悲しみに満ち溢れたものだった。
「そうだったのね……」
小さく開いたその口から、スピカが言葉を発する。
「魔女だなんて…そんな……」
「酷ぇ過去だ。そのヴェルムってやつ許せねぇな」
「ごめんねラミアちゃん!魔女なんて言って、ほんっとうにごめんね!!!!!」
震える声で発せられるその声に、悲しさと怒りが籠る。
そして、自分達が魔女を敵だと思っていたことを酷く後悔した。
「…………………………」
リゼットはただ沈黙の瞳でラミアを見つめる。
彼女の手が小さく震える。
怒りとも、悲しみとも違う、また別の感情が彼女を襲った。
行き場のない感情に彼女はただ、沈黙を貫き、唇を噛み締める。
まるで、何かに耐えるように。
「辛い思いをさせてしまってすみません。私も久しぶりのご客人にハメを外しすぎてしまったのかもしれません」
それぞれの瞳に宿るものを感じ取ったラミアが、その場から立ち上がり頭を下げる。
「そんなことないよ!!!そんな事言わないでよぉぉ!!」
「悪いのはあのヴェルムってやつだろ。待ってろ、俺がそいつぶち殺す」
そんなラミアの姿をみたシキとアルケーが勢いよく立ち上がる。
そして、それに続くようにリゼット、スピカ、ヴェーターも立ち上がり彼女を見つめた。
「皆さん………」
ラミアの瞳から自然と涙が溢れ出る。
あの時とは違う嬉しさの涙。あの日以来ずっと味わってこなかった感情に、ラミアの心は熱いほどに温もりを感じていた。
「ね、ねぇみんな」
突然、ヴェーターが口を開く。
「あのさ、僕、ラミアちゃんの誤解を解きたいと思うんだ。このまま魔女って思われて、みんなに嫌われて、ずっとずっと生きていくのは辛すぎるよ」
その言葉には、彼の心からの思いが詰まっていた。
「そうだよ!!このまま生きるのは辛すぎるよ!!!」
「………………うん、何か、してあげたい」
リゼットもシキも、その気持ちは同じだった。
しかし、その発言を冷静に受け取る者が一人。
「けれど…」
スピカはラミアを見つめると、顎に手を当て考える。
「二年間も植え付けられたものをすぐに変える、というのは難しいことよ」
たしかに、長い間その脳に染み込ませられた情報を覆すのは簡単な話ではない。
それが出来る可能性が無いとは言えないが、少なくとも今の自分達にできるようなことでは無い。
「できるできねぇじゃねぇ、やるんだろうが。可能性とか簡単だとかそんな話じゃねぇんだよ、そんなもん俺達が今ここにいる理由だって同じだろうが」
そんなスピカに釘をさしたのはアルケーだった。
その言葉にスピカは芯を貫かれたような顔をする。
「………そうね。可能性の話で言えば、私達だって同じ。ありがとうアルケー、今の発言は撤回するわ」
スピカはそう微笑むと、再びラミアを見つめる。
「私達が協力するわ。あなたの誤解を必ず解いてあげるから、任せて」
「スピカさん…皆さん……ありがとうございます」
ラミアの瞳から雫が零れ落ちる。
彼女の深紅の瞳が、まるで宝石のように輝いていた。
そして…
ラミアを街の人たちの誤解から解く作戦会議が始まる。
「うち、もう考えてあるよ!!題して、スーパーヒーローラミアちゃん大作戦!!!!」
大きく手を上げ、意気揚々とその名を叫ぶシキ。
「な、なにそれ…」
「スーパーヒーロー?」
突拍子も無いその作戦にスピカとアルケーが困惑する。
「そう!スーパーヒーローラミアちゃん!!!作戦はね……」
そう言うとシキは自分の考えた作戦を告げる。
シキの考えた作戦はこうだ。
まず、アルケーとシキが悪役として街の人を襲おうとする。
リゼットは街の人を演じ、二人に襲われる役をする。
そして転んでしまった絶体絶命のリゼットを見て、ヴェーターがリゼットを守ろうとするが二人には敵わない。
そこでヴェーターとリゼットが助けを求めると、そこにスーパーヒーローラミアちゃんが登場。
ラミアちゃんが操血魔法で二人を撃退し、街の人を守ってハッピーエンドという流れである。
「どう!これがうちの考えた作戦!!その名も、スーパーヒーローラミアちゃん作戦!!」
「ガキかよ」
シキの作戦に、アルケーはまるで子供を見るような瞳を向ける。
「で、私の出番は…?」
この作戦の内容に唯一名前の出なかったスピカが問う。
「スピカは最後に街の人を説得してもらう!!頭がいいスピカなら人を丸め込むことくらい簡単でしょ!!!」
「言い方はもう少し考えなさい」
バシッ
「いたっ!」
シキの発言に今日もスピカのデコピンが飛ぶ。
「けど、悪くない作戦ね。ラミアちゃんはどうかしら」
五人は笑顔でラミアに視線を向ける。
「皆さん、本当にありがとうございます。私も皆さんの期待に答えられるよう、がんばります」
自分のためにここまでしてくれる人がいる。ラミアはただそれだけで嬉しかった。
もうこの時既に、ラミアの心は救われていたのだ。
「よーし!じゃあ決定だね!!」
シキの言葉に全員が大きく頷く。
決行は明日。
スーパーヒーローラミアちゃん大作戦が始まろうとしていた。




