〈4-3〉小さな魔女
マルフィーザの屋敷。
まるで誰かが待ち構えているような禍々しい雰囲気を放つその屋敷の前にリゼット達は到着していた。
「すっごい大きい家だね…!!中に魔王とかいたり!!?」
「いたらいたでぶっ潰しゃいい話だ」
相変わらずシキとアルケーの二人は好奇心と闘争心に満ちた表情を変えない。
「で、でも…中には魔女がいるって噂でしょ?なんか怖いな…食べらレたりしないかな」
「…………………食べても、美味しくない」
あまりの雰囲気に怖がり怯えるヴェーター。
リゼットもその無表情の瞳の先に小さな怖さを感じた。
魔女。この屋敷に住むと言われる、誰もが恐れる存在。
噂は本当なのか、そしてその魔女とは一体誰なのか。
「入るわよ…」
スピカが小さく息を飲む。
街の人たちが言う魔女の正体を突き止めるため、五人は恐る恐るその扉を開ける。
キィィと音を立てる扉が屋敷の中に響き渡り、雰囲気を醸し出す。
屋敷の中はよく見る豪邸のような感じで、中央には大きな額縁に入った男爵の写真が飾られている。
「お、大きいね。街の中とは全然違う……」
「エウケー程の広さじゃねぇけど、それにしてもすげぇ」
屋敷の中の広さに呆気にとられていると
コツ、コツ、コツと
小さく、そしてゆっくりと誰かの足音が屋敷中に響く。
その途端五人は一斉に構え、いつでも魔法を展開できるよう準備する。
屋敷壁に伸びる大きな影。その影は段々とリゼット達の元へと近づいていき、そしてその影の持ち主の姿が徐々に鮮明になっていく。
そしてリゼットたちの前に、彼女はその姿を現した。
「もしかしてお客人ですか?珍しいこともあるんですね。街からここに来るのは少し疲れたでしょう、よろしかったら上がってください。お茶とお菓子くらいならご用意できますから」
彼女はリゼット達を襲うどころか、逆に歓迎し屋敷の奥へと招待する。
「………………………ま、じょ?」
リゼットはその姿に驚嘆し、肩の力が抜ける。
「え、えっと………」
「魔女って、こいつか???」
そのあまりにも噂とは違いすぎる姿に、五人は呆気にとられた表情をする。
魔女と呼ばれる存在。それは、物静かで可愛らしい小さな女の子だった。
その仕草や表情には敵意や嘘は何一つ感じられない。
スピカも用心深く観察していたが、自分達を害するような感情は全く見えなかった。
「なんか歓迎されちゃった!!とりあえず行ってみよ!!!」
シキが先陣を切り、魔女と呼ばれる少女の後をついていく。
「まっ、一旦様子見だな」
「う、うん」
「敵意は無いけれど、油断しないようにね」
「………………わかった」
先を進むシキを追いかけるように、四人もまた屋敷の奥へと歩み始めた。
「どうぞ。お口に合わなかったら遠慮なく言ってください」
五人の前に出されたのは、高級感の溢れるティーカップ。
その中には、なんだか濁りのある薄緑色の暖かい飲み物が用意されていた。
「こちら、お菓子です」
そう言うと少女は大きなお皿に乗った不思議なお菓子をテーブルに置く。
そして少女は五人を見つめると、自己紹介を始める。
「改めまして皆さん初めまして、私はここの屋敷の管理をしているラミアと言います。元々はここの主人であるお父様が管理していましたが、二年前に亡くなり今は一人で生活しています」
あまりにも礼儀正しく、そして落ち着いた雰囲気。
噂の魔女とは到底似ても似つかないその姿を目にしたリゼット達の心には、安心感が生まれてくる。
「うちはシキ!!」
「スピカよ。ラミアちゃん、歓迎してくれてありがとう」
「アルケーだ」
「ヴェ、ヴェーターって言い…ます」
「…………………リゼット」
五人も自身の名前を簡単に言ったあと、用意されたお茶やお菓子をそれぞれが口にする。
初めて体験する味に、五人の瞳が大きく開いた。
「美味しい!!!これなんて言うの!!」
「いつも飲んでるものとは違うわね。異国の文化ってやつかしら」
「世界は広いからな。これもお菓子も、俺たちの知らないもんがあったっておかしくはねぇだろ」
「………………でも、悪くない」
それぞれが異国の味を嗜み
そして本題に入る。
「皆さんはどうしてここにいらっしゃったのですか?」
ラミアは不思議そうな瞳を向ける。
「なんかね!魔女がいるって聞いたから来た!!」
「でもそれらしい奴は見当たんねぇぞ、嘘なんじゃねぇか?」
その言葉にラミアが反応し、小さく手を上げた。
「魔女ですか。おそらくそれは私のことですね」
彼女の口から告げられたその言葉に、一瞬五人の手が止まる。
魔女。それは誰しもが邪悪な存在や怪しい老婆、もしくは禍々しい雰囲気を持つ若い女性を想像するであろう。
しかし、今ここにいる魔女は何の害意も敵意も無さそうな小さな少女。
誰もがラミアの言葉を信じきれなかった。
「えーーー!!!ラミアが魔女なの!?!?」
「イメージとは違うわね。食べられる…だかなんだか聞いていたけど、そんなことできるような子とは到底思えないわ」
魔女の正体がラミアだったことに驚きつつも、冷静にこれまでの情報を整理するスピカ。
しかし、そこでラミアが再び口を開く。
「食べる…ですか。私はそのようなことをするつもりはありませんが、私の魔法を見た人は解釈次第でそう捉えるのも無理はないでしょう」
「……………………魔法?」
リゼットが首をかしげ、聞き返す。
「はい。実は私、操血魔法という魔法を使えるんです。簡単に説明すれば血を操る魔法ですね」
そう言うとラミアは静かに椅子から立ち上がり、少し離れた場所へと向かう。
「実際に見せた方が早いでしょう」
ラミアはそう言うと、ドレススカートのポケットからハサミを取り出す。
それで軽く指を切ると、指先からゆっくりと血が滲み出る。
「いきます。操血魔法」
その言葉と共に、彼女の指先から出た血が突然浮かび上がった。
指先から溢れ出る血はどんどん放出されていき、そして空中に血でできたティーセットを作り出して見せた。
「これが私の魔法です。そして、これは私だけでなく他人の血も操れます」
ラミアは血で作られたティーカップを五人に見せると、その血を再び指先の中へと戻す。
指先にある傷口は自らの血で固まらせて流血を防いだ。
「す、すごい………」
「初めて見る魔法だわ、血を操る魔法なんて」
「まるで吸血鬼だな」
ラミアの魔法に感心し、スピカとヴェーター、そしてアルケーまでもが感嘆の声を漏らす
「ラミアも固有魔法使い!!てことは、うちらと同じ異常者組だね!!!!!」
シキは自分と同じ固有魔法使いの存在が嬉しく感じたのか、テーブルに身を乗り出して目を輝かせる。
「……………………私と、同じ」
リゼットもまた、ラミアの魔法を見て小さく瞳を輝かせていた。
しかし、問題はまだ解決していない。
彼女の魔法を見たところで、それが魔女と呼ばれる所以にはならないからだ。
そもそも固有魔法使いは希少な存在ではあるが、それだけで魔女と呼ばれる程のものでも無い。
「で、でも、魔女って呼ばれるのとは少し違くない?」
その疑問を持ったヴェーターが問う。
「たしかに、操血魔法は見方によれば吸血鬼のそれに似たようなものだわ。街の人たちが身体を隠すのも納得はできるけど、相手はこんなに小さな少女よ?なにか原因でもあるのかしら……」
スピカもまた、魔女の所以についてラミアに問う。
ラミアは少しだけ視線をテーブルに落とすと
「それはですね…」
と、寂しそうな声で小さく呟く。
そして再び五人を見つめる。
「それは、二年前に遡ります」
静かに開かれたラミアの口からは、マルフィーザで起こった二年前の事件が語られようとしていた。




