〈4-2〉初めての街
マルフィーザ。
そこは、山脈の中に囲まれた中世を思わせるような街。
その奥には大きな屋敷が構えている。
マルフィーザに到着したリゼット達は、ゆっくりと高度を下げて地に足を付く。
「着いたーーーー!!!!!」
シキが両手を天高く上げ、興奮の叫びを放つ。
初めての外の世界に、シキだけならず他の四人も目を輝かせて辺りを見渡す。
「す、すごいや。アストルフォとは全然違う」
「ええ。まるで別の世界に来たような気分だわ」
「………………綺麗」
モダンな風景を思わせていたアストルフォとは全く違うその景色に、五人は感動と興奮のあまり小さく口を開く。
「あそこのやつ気になるな。偉い奴でも住んでんのか?」
そんな中、アルケーが奥にある一際目立つ大きな屋敷を指さす。
平和な雰囲気を放つ街とは裏腹に、その屋敷は禍々しく不気味な雰囲気を漂わせている。
「なんか行ってみたいね!!!」
「なんでそうなるんだよ」
近寄り難いその屋敷を目にしても、シキの好奇心はそれを上回る。
そんな彼女の一言に思わずアルケーが突っ込んだ。
「さて」
スピカが手を打つと、そのまま四人を見つめる。
「まずは情報を集めましょ。メルティかゲラーテのどちらでもいいわ、なにか有力な情報があった場合は各自報告って形がいいわね」
スピカがそれぞれをまとめるように指揮すると、四人は頷いて了承の合図を送る。
「それと、リゼットとヴェーターには宿泊場所を確保して欲しいわ。その間の情報収集は私とシキね」
街はそれなりに広く、情報を集めるにはまず間違い無く一日はかかるだろう。そうなると宿泊は必然になってくる。
そのための宿の確保をリゼットとヴェーターに命名。
「わ、わかった」
「……………うん」
二人は一つ返事でスピカに返すと、スピカは小さく頷いた後、アルケーへと視線を向ける
「それと、アルケーは視察を頼みたいわ。情報は耳だけでなく目も必要なる。あなたにはその役割を頼みたいの」
「つまり怪しいヤツを見つけろってことだな。任せろ」
アルケーが返事を返すと、スピカは行動開始の合図としてまたひとつ手を叩く。
「日の暮れる頃に再びここで集合で。それじゃ、行きましょ」
合図とともに五人は解散し、その場を後にする。
シキとスピカは共に情報収集。
アルケーは視察。
リゼットとヴェーターは宿の確保。
それぞれの目的の為に歩み出した。
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「…………………宿、どこ」
「わ、わかんない。それっぽいところを調べて聞いてみる?」
リゼットとヴェーターは宿探しに苦戦していた。
二人にとっては始めてくる街であり、スピカが持っていた地図も詳しい街の構図については書かれていない。
宿を見つけられないのも無理は無かった。
「…………………………………」
もし、見つけられなかったらどうしよう。
そんな不安が彼女の心を締め付ける。
期待してくれた。頼ってくれた。それは確かに嬉しかった。
けれど、それに答えられない不安が突如押し寄せる。
「……………………どうしよう」
リゼットは強く人形を抱きしめる。
人形を抱える彼女の手は震えていた。
そして、その手に気がついたヴェーターがそっと彼女の手に触れる。
不安で震えているせいなのかその手はほんのりと冷たく感じた。
「だ、大丈夫だよ。きっとなんとかなる」
根拠は無い。けれど、その一言は小さな勇気をくれる。
リゼットがヴェーターを誘った時とは逆に、今度はヴェーターがリゼット手を握った。
「……………………」
リゼットの冷たい手の中に広がる彼の暖かい温もり。
その優しい温度が、リゼットの心へと伝わっていく。
「…………ありがとう」
「うん。僕がいるから、大丈夫だよ」
それから二人は手を繋ぎ、再び宿を探した。
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「すみませーーーん!!質問したいんですけど!!!!」
「コラ、いきなりそんな声で行ったらびっくりされるでしょ」
バシッ
「いたっ!」
誰彼構わずいつものテンションで声をかけるシキにスピカのデコピンが飛ぶ。
学園から離れても二人はいつも通りだった。
「突然すみません。人探しをしているのですが………」
シキとは違い、スピカが街歩く人に静かに声をかける。
二人はメルティとゲラーテの特徴を教え、ここ最近その姿を見た人がいたか探し回るが、返事が帰ってないどころか、自分達の姿を見て驚くような表情を見せる。
特にシキは道行く人達に何度も見られていた。
「どうしたのー!!!」
あまりの視線にシキが叫ぶと、一斉にその視線を逸らし、逃げるように離れて行く。
「おい、お前さんたち」
一人の男性が声をかけてきた。
「旅の者かい?このご時世に珍しいこった。それよりお前さん、肌は出さん方がいい。今すぐ隠すこったな」
男性はミニスカートからスラッと伸びたシキの膝を指さす。
「なにか理由でも?」
「この街にはおっかねぇ魔女がいるんだ。なんてったって他人の生き血を全部食っちまうんだとよ。お前さんたちも魔女に食われたくなかったら、その肌隠すこったな」
男性はそう告げると、早々にその場を離れていく。
「足出しちゃだめだって!!でもうちロングスカートは動きにくいからこれがいい!!!」
シキは男性の忠告を受け入れつつも、それを変える気は無いようだ。
「…何かありそうね」
スピカは地面に目を落とす。
二人で調査を続けながら、この街の異変について深く考えていた。
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アルケーは一人街を歩きながら道行く人達を観察する。
通行人のふりをしつつ、道行く人の中に怪しい人がいないかと目を光らせる。
怪しい人などどこにも見つからなかったが、妙な違和感を感じていた。
この街の人々は皆、肌を隠している。
顔以外の指先一つ露出しないその姿が他の何よりも気になっていた。
「一体どうなってんだこの街は………」
アルケーは違和感を持ちつつ、鋭い視線で辺りを見渡しながら先へと進んだ。
そして、夜が訪れた。
「……………おまたせ」
「ご、ごめん。全然宿が見つからなくてさ」
リゼットとヴェーターが約束の場所に集まると、そこには既に到着していた三人の姿があった。
「最下位組来たー!!!!」
「そういうこと言わないの」
バシッ
「いたっ!」
今日も今日もてシキの額にスピカのデコピンが飛ぶ。
「全員集まったわね、それじゃあ一旦宿に行きましょ」
「………………………こっちにある」
そして五人はリゼットとヴェーターの後をついて行き、街のはずれの地下にある宿へと入っていった。
「ここ、探すの大変だったよ………」
この宿屋は街からそこそこ離れた距離にあり、更に路地裏の下にある。
見つからなくて当然どころか、リゼット達が見つけられたのは奇跡とも言える。
五人は宿へ入ると、それぞれ同じ部屋に一斉に入る。
「わぁあーい!!!宿泊だぁあーーー!!!」
シキが真っ先にベッドに飛び込む。
「お家じゃないんだから、やめなさい」
そんなシキを軽くつまんで放り投げるスピカ。
それをただ見つめるリゼット、不安そうに見るヴェーター、興味ないと椅子に座るアルケー。
そしてそれぞれの情報交換会が開催された。
「俺は視察してたけど、怪しい人はいねぇって言うか全員怪しいって言うか……。なんかここの奴らって変じゃねぇか?」
アルケーがそう言うと、続けてシキとスピカも
「うちも!!なんか足隠せって言われた!!!」
「確か魔女……とか言ってたわよね」
その途端、部屋の空気が静まり返る。
「……………魔女…」
その言葉にリゼットが反応する。
「………………この街には、魔女がいるって、言ってた」
どうやらこの街には魔女と呼ばれる者が存在し、その魔女は人の血を奪ったり食べたりする悪魔のような存在だと言う。
ここの人達の姿格好は、そんな魔女から身を守るためのものらしい。
「…………………あの大きな家、魔女の家だって」
「僕も聞いたよ、あの家はやばいって。行かない方がいいって」
その言葉がスピカの脳裏にひっかかる。
もしその魔女がゲラーテでなくても、その仲間だったら放っておく訳には行かない。
「決めたわ。明日、あの屋敷に行きましょ」
スピカが立ち上がると、魔女に会いに行こうと告げる。
そして
マルフィーザの奥の屋敷では、魔女と呼ばれる存在がリゼット立ちを待ち構えるように優雅に腰掛けていた。




