〈4-1〉今ここにある幸せ
学園を離れた五人は、街の外に近いカフェで話し合っていた。
「これを見て」
スピカが持ってきた地図をテーブルに広げ、指さす。
テーブルいっぱいに広げられた地図には、様々な街や国の名前が書かれていた。
四人は身を乗り出すように地図を眺める。
「ここが今私たちのいる街、アストルフォよ。そして、最終的に向かう場所はセフィラの魔術師の総拠点があるここ、リナルド国。一直線にリナルド国を目指して進むなら、ここから一番近い場所はマルフィーザという所になるわね。まずはそこで情報を集めましょ」
この旅の目的はゲラーテを追ったメルティの手助けをすること。つまり、彼を探し出すことが最優先だ。
彼が向かった先で最も可能性が高い場所はリナルド国という場所だが、それは可能性の範囲でしかない。
スピカはリナルド国を目指しつつ、その道中にある街で情報を集めようと指示する。
「わかった!!!!」
「うん、僕もスピカの意見に賛成するよ」
「まっ、道中がどうあれ目的を達成できんならなんでもいい」
「…………………うん」
四人もスピカの意見に賛成し、まずはマルフィーザの街を目指すことにした。
「とはいえ、例えここが一番近い場所だとしても徒歩で行くのは流石に効率が悪いわ。そこでリゼットよ」
スピカはリゼットへと視線を向ける
「…………………ん?」
「あなたの魔法で空を飛んで移動しようと思うの。徒歩で行くのは時間も体力も大幅に使う。けれど、空を飛んで移動出来ればこの問題も解決するはずよ」
そう言うとスピカは少し申し訳なさそうな表情に変わり、言葉を続ける。
「あなたの魔力は使ってしまうことになるけれど、引き受けてくれるかしら」
「…………………わかった」
リゼットは考える間も無く返事をする。
誰かが自分を頼ってくれる。それが何よりも嬉しかった。
「ありがとう。リゼットがいてくれてよかった」
その言葉に、リゼットは嬉しそうに小さく微笑む。
「はい!!!じゃあ、悪い人がいないかはうちが見るね!!ゴーストちゃん達が教えてくれるから!!」
「邪魔するやつらは俺がぶっ潰す」
「ぼ、僕も。出来ることが協力するよ」
それぞれが役割を全うしようとする。
リゼットも、シキも、ヴェーターも、アルケーも、それぞれが自分の意思で誰かのために動こうとしている。
そんな四人を見つめるスピカの瞳が、宝石のように輝いた。
「私はみんなを支えるのが役目よ。困った時は私に任せて」
スピカもまた、自分の役割を伝える。
静かに話す五人の声には、声に表せない程の大きな気持ちと意志があった。
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「────傀儡魔法」
「複製」
リゼットは手に持った人形を複製させ、十体に増やす。
人形をそれぞれの周囲に二体ずつ配置し、風魔法を放つ。
「うおっ!なんだこれ!!!」
「だ、大丈夫なのこれ…」
「凄いわね。天球魔法も性質上空は飛べるけど、その分移動速度は遅くなるから助かるわ」
「でしょでしょ!!リゼットはすごいんだよ!!!!」
そう言われたリゼットは少し照れくさそうにしながら
「…………………行くよ」
と、五人を空中へ浮かせた。
踊るように空へと舞い上がる五人の姿が、その先の未来を示すかのように陽の光で照らされる。
「進行方向は私が指さすわ。リゼットはその向きに行けるように人形を調節してもらえる?」
「……………………うん」
スピカは再び地図を見て、マルフィーザのある方向を指さす。
リゼットがその合図に合わせて小さく指を動かすと、風魔法の向きが変わり、そのまま五人を風に乗せて押し出した。
「うおっ!!はやっ!!!こんなことも出来たのかよ!!!」
「すっごぉおおおおおい!!!!空を飛ぶ冒険!!なんか楽しいぃいい!!!!」
アルケーは初めての経験に驚き、シキはいつもの如くこの状況を楽しんでいる。
「む、無理はしないでね。疲れたらスピード落としても大丈夫だから」
「そうね。あなたには一番の仕事を背負わせてしまっているから、何かあったら言うのよ」
スピカとヴェーターは、一人で魔法を扱うリゼットを心配し言葉をかけた。
「………………ありがとう。でも、大丈夫」
リゼットは静かに目を閉じて返す。
この四人といると何も怖くない、胸の中でそう感じていた。
だからきっとこの旅が辛いものになったとしても、皆が居てくれるからきっと大丈夫。
また胸の奥が温かくなっていくのを感じる。
この時はただ、幸せな気持ちで溢れていた。
『……………私は、きっと……』
ふと、入学式の日の事を思い出す。
あの時はこんな幸せな日々が来るなんて思っていなかった。
だけど、今はそれが現実となってそこにある。それは、リゼットが夢へと近づいている証拠でもあった。
(………………………みんなに出会えて、本当によかった)
リゼットは心の中で小さく呟いた。
そして、五人は風に導かれるようにマルフィーザへと向かう。
それぞれの夢を追いかけるように、ただ真っ直ぐに進み続けた。




