〈番外編〉リゼットの初恋?
これは、魔法大祭が始まる前のお話。
「最近、リゼットの様子が変なのよ」
何かを思う様子でスピカが呟く。
どうやら彼女は、最近リゼットの様子がいつもと違うと感じていたようだ。
「変!?それってどんな感じなの!?!?」
「そうね…なんか嬉しそうというか、微笑ましいというか………。まるで恋する乙女の瞳をしていたわ」
恋する乙女。そのことばにシキが身を乗り出す。
「恋!?恋!?!?あのリゼットが!!!?!?ちょっとまって!うちヴェーター呼んでくる!!!!」
あまりにも衝撃的な言葉にシキは興奮が抑えきれず、疾風の速度で教室を飛び出していった。
「リゼットが恋、ねぇ…。ちょっと見てみたいわね」
スピカも心の中の好奇心が溢れ出していた。
「ど、どうしたの…そんなに慌てて」
「えっとね!!えっとね!!!実は……!!!」
シキはヴェーターにリゼットが恋をしているかもしれないと話しを伝える。
「えっ!リ、リ、リ、リ、リ、リゼットが!?」
リゼットの恋。
普段は物静かで無表情、恋愛などとは無関係のように見える彼女が恋をしているかもしれないという話題に、それぞれが驚きや好奇心を露わにする。
「でも私の憶測でしかないわ。こうなったら…」
スピカが席から立ち上がると、シキとヴェーターに視線を向ける。
「尾行作戦よ。私たち3人でリゼットの様子を観察するの。そして、好きな人を特定してあげるわ」
スピカの提案に、シキは手を挙げ賛成する。
ヴェーターもそれに同意し、三人はリゼット備考作戦を開始した。
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「………………かわいかったなぁ…」
リゼットがぽつりと呟く。
その瞳はまるで大好きな誰かを思い浮かべるように潤んでいる。
無表情なのにどこか微笑んでいるような表情。
陽の光に照らされ輝くリゼットの今の姿は、それはまるで恋する乙女そのものだった。
「こ、これ!本当に恋してるんじゃない!?!?」
「シキうるさい。静かに喋って、バレちゃうでしょ」
「で、でも…これは恋だよ。好きな人が出来たんだよ」
教室のドアの近くでリゼットを覗いていた三人は、その姿を見て確信する。
─────リゼットには、好きな人がいる。
それから三人はリゼットを尾行し、監視し続けた。
好きな人は誰なのか、いつ出会うのか、そしてその人はどこにいるのか。
そして一日中尾行し続けた結果、特にそれらしき人は見つからなかった。
「おかしいわね…」
スピカが頭を抱える。
たしかに朝のリゼットは恋の瞳をしていた。しかし、今日一日リゼットを見続けてきたが、誰かを見つめたり表情を変えたりする仕草は特に見当たらないどころか、そもそも他の生徒と話してすらいなかった。
同じクラスのヴェーターもずっと見ていたが、特に変わった様子は見られない。
「誰かわかんない!!もうリゼットに聞いちゃう!!!」
ここでシキが大胆な行動に出る。
これ以上待っても埒が明かないと思ったのか、スピカとヴェーターもシキの意見に賛成した。
そして、放課後
学園の前で四人が集まる。
しかし、三人が目を輝かせて見つめてくる表情にリゼットが少し困惑する。
「……………ど、どうしたの」
少し怖さを感じながらも、不思議な気持ちで三人に聞いた。
「リゼットーー!!!誰が好きなのーーーー!!!」
突然の言葉に、リゼットが更に困惑。
興奮の抑えきれないシキは腕をブンブンと振り回している。
「好きな人が出来たんでしょ?今日のあなた、そんな顔をしていたわ」
「だ、誰なの?好きな人って………」
突拍子もない質問に、リゼットが不思議そうに三人を見つめる。
「……………………?」
何が何だか分からない彼女は、小さく首を傾げる。
「…………………えっと…みんな、好き」
リゼットはいつもと変わらぬ顔で淡々と答えた。
「違う!!恋してるんでしょ!恋!!!」
「…………………???」
それでもシキはリゼットに聞くが、結局リゼットからは好きな人の話を何一つ聞き出せず、そのまま帰ることとなった。
そして帰り道。
「また明日ー!!!」
「またね」
「うん」
「……………ばいばい」
4人はそれぞれ別れると、リゼットの姿が小さくなった途端に再び三人が集まる。
「じゃあ、始めるよ!!」
彼女にしては珍しく静かな声で二人に声をかける。
おそらく好きな人は学園の外にいると感じたシキは、このまま尾行作戦を続けることにした。
「なんだか嫌な予感がする………」
スピカは学園前でのリゼットの会話で、リゼットの表情に嘘が見られなかったために少しだけ不安を感じていた。
そして、その時は訪れた。
リゼットは家へと帰らず真っ先にドールショップに向かう。そして、その瞳を輝かせながら、展示ケースに飾られている人形を見つめる。
その瞳は、朝のリゼットの表情と同じものであった。
「………………かわいい…」
ぽつりと小さく声を落とす。
「人形じゃん!!!!!!!!!!!」
その光景に、思わずシキが大きな声で叫んでしまう。
「…………!?」
その声にびっくりしたリゼットは一瞬身体を震わせ、三人の方へと視線を向けた。
「途中から嫌な予感はしてたけれど…」
「で、でも…なんか安心したな………」
スピカは軽く頭を抱え、ヴェーターは緊張感の取れた顔でそっと胸に手を当てる。
「………………みんなも、見に来たの?」
不思議そうに三人を見つめるリゼット。
「え、ええ。気になって……」
スピカがそう返すと、リゼットは更に眼を輝かせて三人の手を取る。
そして展示ケースに飾られたゴシック人形を紹介した。
リゼットは恋をしていたわけではなかったけれど、人形を見つめるその瞳は、誰よりも恋をする乙女のようにキラキラと輝いていた。




