〈3-5〉それぞれの決意
ゲラーテが去った後。
メルティは月を見つめ、月光が彼の決意に満ちた瞳がを映す。
そして振り返り、五人へと視線を向けた。
「僕は、学園を出ることにした」
五人は小さく目を見張る。
小さく風が吹き、全員の髪を揺らす。
メルティはそのままの表情で言葉を続ける。
「セフィラに裏切り者がいる以上、ここからはセフィラの魔術師の第三席【獄炎の魔術師】として動く。それに裏切り者は彼女だけじゃないと言っていた。もし僕以外の全員が裏切り者だったとしたら、今のセフィラを守れるのは僕しかいない」
そして学園を見つめ
「こうなった以上、もうここにはいられないんだ」
それは、メルティの覚悟だった。
小さな炎を灯すような視線と声色が、彼の心の内を現すように感じた。
「メルティ行っちゃうの!!!!!?」
思わずシキが叫ぶ。
「うん。僕は学園の生徒でもあるけれど、同時にセフィラの魔術師でもある。だからセフィラのとしての立場を捨てるわけにはいかないんだ」
「また帰ってくる!?!?」
メルティは少し考え、そして
「……事が片付いたら戻ってくるよ。それまで一旦お別れだ。短い間だったけれど、君達と出会えて嬉しかったよ」
メルティは笑顔を向けた。
今まで人を余裕を隠さない不敵な笑みや、軽く微笑むをだけだった彼が今、感謝の笑顔を表す。
「………………………わかった」
リゼットはメルティの覚悟を受け入れる。
「が、頑張ってね」
「メルティがそう言うなら!!!また絶対会おうね!!」
「あなたはセフィラの魔術師でもある。こうなるのも必然ね、また会いましょ」
「死ぬなよセフィラ野郎」
リゼットだけではない、シキやスピカ、ヴェーター。そしてアルケーもメルティに一言向ける。
「ありがとう、また会えるのを楽しみにしてるよ」
そう言うとメルティはその場を立ち去った。
夜の闇の中へと消えていく彼の姿。それは光などどこにも無いのに、どこか眩しく見えた。
「メルティ、大丈夫かな…」
ふと、ヴェーターが呟く。
「大丈夫だよ!!だってメルティはすっごく強いんだよ!!!」
「でも、ゲラーテ先生も凄く強かったよ…」
「大丈夫!メルティだったら勝てる!!!」
メルティを心配するヴェーターに対し、シキは彼の強さを信じ続けて言葉を返す。
そんな中、スピカは静かに瞳を閉じ、すこし考えた後
「さて…」
と、ぽつりと声を零す。
「私達も、動きましょ」
「…………………?」
「メルティを追うのよ。もしメルティの言うことが本当ならば、ゲラーテ教授でさえあの実力なのにそれを複数相手にすることになるわ。どう考えてもメルティに勝ち目が薄すぎると思わない?」
セフィラの魔術師は現在全部で七人。もしメルティ以外の全員が裏切り者だったと仮定した場合、彼は残りの六人を相手にすることになる。
つまりメルティは、不利な戦いに一人で挑んだという事。
なら自分達も加勢しに行こうとスピカは考えた。
「せ、セフィラと戦うの……」
「実質そうなるわ。けれど、彼は一人で戦いに行った。ここで私達が動かない訳にはいかないでしょ? それに、その作戦の同盟はまだ解散とは言われてないし」
怖がるヴェーターに、スピカが説得する。
月明かりがスピカの意志を尊重するように、淡い光で強く彼女を照らす。
「俺は行く」
スピカの提案に真っ先に乗り出したのはアルケーだ。
「俺の夢は一番になること。セフィラの魔術師だろうがなんだろうが、どうせ超えなきゃならねぇ壁なんだ。行く以外に理由はねぇだろ」
アルケーは拳を叩き合わせ、闘志に満ちた視線をスピカに向ける。
一人で強くなろうとしていた彼が、この時初めて仲間とともに強くなる決意をした。
「うちも行く!!なんか面白そうだもん!!!!」
「あなたは相変わらずね……」
シキの乗った理由にスピカは呆れ、額に手を当てる。
「うん!!!」
そんなスピカの表情など関係無しに、シキは純粋な笑顔で頷いた。
シキの笑顔はどこまでも変わらない。
けれど、今はその笑顔がただ真っ直ぐに輝いていた。
「ぼ、僕も行くよ」
そして、ヴェーターも手を上げる。
「危険な戦いになるわよ。それでもいいの?」
「うん。たしかに…怖い……けど、僕も変わりたい。アルケーのように、僕自信の夢のために!」
ヴェーターの上げた手は震えていた。
けれど、その勇気に満ちた表情は怯える表面とは裏腹に覚悟を決めた勇気の心がそこにあった。
そして
「リゼット、あなたはどうする?」
スピカは視線をリゼットへと向ける。
月の光が彼女の淡い金髪を照らし、瞳を輝かせる。
静かに風が吹く。
リゼットはその澄んだ瞳で四人を見つめた。
こんな状況でも笑顔を崩さない少女がいる。
優しく手を差し伸べてくれる少女がいる。
震えながらも強い勇気に満ちた少年がいる。
夢のために闘志を宿す少年がいる。
四人の姿が、ただ眩しい。
自分もそうありたかった。自分もそうなりたかった。
「……………………………私は…」
リゼットは小さく声を漏らす。
寂しかった。皆とは違う、呪われた私はもう孤独の中を生きるしかないと思っていた。
────私は、普通の人間になりたかった。
でも
今は違う。
皆が私に手を差し伸べてくれている。
皆がそれぞれの夢のために世界を見る覚悟をしたのなら、私だけ残る資格はどこにも無い。
「………………行く。私も、私の夢のために」
勇気の声。
リゼットはそう言うと、人形を抱きしめ、静かに四人の元へと歩き出す。
彼女の瞳は四人を見つめているようで、もっと先の、手の届かない光を見つめているようだった。
そして、五人は並び月の光に導かれるように歩み始める。
「なんか楽しみだね!!」
「旅行気分になってんじゃねぇよ。だがまぁ、セフィラぶっ潰して一番になるって意味なら楽しみだがな」
「みんなすごいな…僕はまだちょっと怖いよ」
「あなたの考えが普通よ。私だって怖くないわけじゃないもの」
「……………………でも、こういうの、好き」
初めて世界を見に行く。
初めて世界に挑みに行く。
興奮、恐怖、闘争心。様々な感情が胸の中で渦巻く。
リゼット達はそんな気持ちを抑えきれず、帰り道はこれからの話でいっぱいだった。
月光に照らされながら夜の闇を歩く。
まるでスポットライトを浴びているように、その姿は美しく、そして眩しく感じられた。




