〈3-6〉夢の先へ
「………………じゃあ、またね」
「ええ。三日後、学園の前で会いましょう」
それぞれが学園を去る約束をした後、リゼット達は三日後の朝に学園の前で集まることを約束した。
それぞれが帰路を歩み始める。
そして
「…………………」
リゼットは一人、胸に宿る温かさを感じていた。
深夜の外は肌寒く感じるはずなのに、何故だかどこか暖かい。
あの時もそうだった。シキが友達と言ってくれた時も、スピカが屋上で話してくれた時も、自分からヴェーターに声をかけた時も、四人で帰った時も。
この温かさの正体は彼女にはわからない。けれど、この気持ちはとても優しくて、不思議と安らかに思えた。
リゼットは家に着くと、いつものワンピースに着替えベッドに座る。
その隣には常に持ち歩いている人形。
いつだっただろう。ベッドの上で蹲って、全てが氷のように冷たく感じていたのは。
学園に来て、皆と出会って、そして今がある。
リゼットはもう入学式の日の夜のことなんて忘れてしまうくらいに幸せだった。
「…………………ずっと、続けばいいな」
彼女はぽつりと小さく声を零す。
「………………………この先も、ずっと」
小さく、柔らかい笑顔。その瞳はまるで宝石のように淡く輝き、そして夜空のように輝いている。
月の光が彼女の透き通るような美しい淡い髪を照らす。
「……………………だから…」
彼女はそっと胸に手を当てる。
そして、その先の言葉は口にしなかった。
静かな温もりと幸せの奥底に眠る恐怖。まるでそれを押し殺すかのように服の胸元を軽く掴むと、リゼットはそのまま横になり、瞳を閉じた。
それから翌日。
リゼットは学園を去り、世界へと歩き出すための準備をする。
まずは人形の髪をとかし、服を着せ替える。
リゼット自身も新しい服を買い、必要なものを整理し、部屋を片付ける。
リゼットだけではない。シキ、スピカ、ヴェーター、アルケー。それぞれが約束の日に向けて動き出す。
「…………………ちょっと、楽しみ」
支度を終えたリゼットは机の上に置かれた人形を見つめながら呟く。
椅子に座り、机に置かれた人形を五体に複製すると、それをこれから共に行く友達の姿と照らし合わせる。
「……………」
彼女はただ黙って人形を見つめる。
今はただ、約束の日が待ち遠しかった。
─────────────────
そして時は過ぎ、約束の日を迎えた。
「え!!!アルケーもう来てたの!!!!?」
「俺は一番を目指してるんだ。スタートラインがビリでしたーなんて挫折もいいとこだろ」
「それにしても早すぎるよ!!!」
シキが走りながら学園に到着すると、そこには既に壁に寄り掛かるアルケーの姿があった。
「その服似合ってるね!!なんか、王様って感じ!!!アルケーっぽい!!」
「これから世界に行くんだろ、このくらいの格好して当然だ」
アルケーは深い紺色の衣装に身を包んでいた。
細身の仕立てに、未完成の王様を思わせるような肩へ掛かった短いマント。胸元で揺れる王冠の紋章は、彼の夢そのものを表してるようだった。
「つかなんだその格好。遊びに行く気満々かよ」
「えーーー!!!これすっっごく悩んで買ったんだよ!!!」
まるで旅行気分だと指摘されるシキ。
そんなシキの衣装は、紫がかった黒を基調とした猫耳を模したフード付きの外套に袖を通していた。
彼女の天真爛漫さを表すかのようなミニスカートには、薄紫色のフリルがひらりと揺れる。
胸元には大きなリボンと十字架のネックレスが下がっていた。
「うちは絶対これで行くんだから!!!!」
「はいはい」
シキの大きな声に、アルケーは軽くあしらうように返す。
そうこうしていると、奥から澄んだ声が聞こえてくる。
「もう来ていたの?早いわね」
次にやってきたのはスピカだった。
「えええええ!!!スピカの服すっっごい綺麗!!!魔術師みたい!!!!」
「私達魔術士なんだけど……」
スピカの衣装。
それは、夜空を思わせるような色のローブを優雅に纏っていた。
肩を大胆に露出したその衣装の下には、金色の星の模様が映る。その姿はまるで、夜空そのものを身に纏ったような幻想的な美しさを漂わせていた。
「あとはリゼットとヴェーターね」
「遅えな、なにしてんだ?」
「あの二人は静かだからね!!ゆっくり来てるんだよ!!!」
三人はリゼット達が来るまで他愛ない話をする。
そして暫くして…
「……………………おまたせ」
「ご、ごめん。待ったかな」
リゼットとヴェーターが遅れて到着した。
「やっと来た!!!てか、二人ともいい感じだね!!!」
「ええ、とても似合ってるわ」
リゼットもヴェーターもまた、新たな衣装をその身に包んでいた。
「な、なんか嬉しいな」
ヴェーターは照れ臭そうに軽く頬をかじる。
ヴェーターは鈍色を基調としたローブに身を包んでいた。
ゆったりとした外套は全身を覆い隠し、胸元で揺れる銀のペンダントだけが静かに存在を主張している。
余計な装飾の無いその衣装は、彼の内気な性格を表すようだった。
「……………ありがとう」
リゼットもまた、小さく口を開いた。
リゼットは深い黒を基調としたゴシック調の衣装を着こなしていた。
袖やスカートの裾には繊細なレースがあしらわれ、胸元には小さな十字架の装飾品。
全体を黒で統一しながらも、その淡い金髪と透き通るような白い肌が際立ち、彼女の儚さと繊細さをより一層引き立てていた。
「これで全員揃ったわね」
スピカがそう言うと、それぞれが視線を合わせる。
「学園とはお別れか…。色んなことがあったね」
「…………………うん」
そして、五人は学園へと視線を向ける。
エウケー魔法学園。
短い間だったけれど、かけがえのないものが沢山詰まった大切な場所。
五人はそれぞれの思い出をその脳裏に甦らせる。
入学式も、魔法能力テストも、魔法大祭も。
そして、それぞれの歩んできた日常も。
みんなと出会って変わった日々が、今もここに詰まっている。
今も、そしてこれからも、この気持ちは一生忘れないだろう。
「ねえ!!」
思い出に浸っていると、突然シキの呼ぶ声がした。
「みんなの夢を教えて!!」
その言葉に、それぞれが口を開く。
「うちはね、ずっとずっとみんなと友達でいること!!!」
眩しいくらいの笑顔でまずシキが言う。
「俺はもちろん誰よりも強くなって一番になる」
闘志に満ちた瞳でアルケーが返す。
「ぼ、僕は…えっと、勇気を持てるようになること……かな」
弱々しくも強い意志を持った言葉で返すヴェーター。
「そうね、私はみんなを支えることね」
四人を見つめ、済んだ声で言うスピカ。
そして
「……………………」
リゼットは少し考えた後、静かに、小さく口を開き
「…………普通に生きること」
と、淡々と告げる。
一瞬、誰も言葉を返さなかった。
けれど四人はすぐに優しい瞳でリゼットを見つめ返す。
「ふふっ。リゼットらしいわね」
「なんかリゼットっぽい!!!でも、もっと素敵な夢が見つかると思う!!!」
「ま、いいんじゃねぇか。夢なんて人それぞれだろ」
「うん。普通か…それも良いよね」
誰も否定しない。誰も変だと思わない。
一人一人がその夢を受け入れてくれたことが、何よりも嬉しかった。
そして、もしかしたらきっと皆と同じような夢を持てる日が来るのかもしれないと、ほんの少しだけ期待に胸を膨らませた。
彼女の本当の夢は、まだ誰にも言えぬままに。
「………………………じゃあ、行こっか」
リゼットの一言とともに、五人は一歩を踏み出す。
それぞれの夢を胸に、その先の果てを目指して。
その先に待つ世界へと足を踏み入れた。




