〈3-2〉真相の序章
一週間の特別休暇、その二日目。
本来なら誰もが穏やかな朝を迎えているはずだった。
だが……
「………………なにこれ」
リゼットはポストに投函された一通の手紙を確認する
『確認次第、至急エウケー魔法学園 大講堂に集合してください』
との内容だった。
突然の通達にリゼットは少し困惑した表情をしながらも、すぐさま支度して学園へと向かった。
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「あ!リゼット来た!!!」
「……………………ごめんみんな。待ってた?」
大講堂では既に多くの生徒が集まっており、シキ、スピカ、ヴェーターの姿もあった。
「いいえ、私達も今来たところよ。それにしても、休暇中に突然の呼び出し……。何かあったのかしら」
スピカは顎に手を当て、思案する。
スピカだけでは無い。ここにいる全員が何が起きたのか分からず、ただ困惑するだけだった。
「大体揃ったか…」
そんな中、大講堂前の壇上で一人の女性教師が呟く。
ゲラーテだ。
その眼差しはまるで人が入れ替わったかのように鋭く、真剣だった。
しかし、それはどこか悲しみに満ちてたようでもあった。
「……みんな、突然集まってもらってすまない」
静かな声が会場全体へ響く。
「今日集まってもらったのは他でもない、ここにいる全員に伝えなければならない事件が起きたからだ」
彼女は一拍置き、再び口を開く。
「彼のことを知らない者も多いと思うが、昨夜、エウケー魔法学園 学園長のマグヌスが何者かによって殺害された」
その瞬間、会場全体がざわめきに包まれる。
「え……?」
「学園長が……?」
「嘘だろ……」
誰も信じられない。
リゼットはただ黙ってゲラーテの瞳を見つめる。
シキもヴェーターも、声が出せないほどに驚き、その表情を隠せなかった。
ただ一人、スピカだけが疑惑の念に満ちた瞳でゲラーテを見つめていた。
「現在、犯人は不明。学園側は総力を挙げて捜査を行います。」
そして、ゲラーテは静かに続ける。
「それと同時に、安全確保のため、犯人が見つかるまで全生徒の学園内への立ち入りを禁止する」
その言葉に再びどよめきが起こる。
「嘘だろ、授業はどうなるんだ?」
「学園の誰かじゃないよな?俺怖ぇよ…」
「私、もう転校しようかしら…」
様々な声が飛び交う。
そんな生徒達を見たゲラーテは
「以上です」
と、一言だけ口にしてそのまま壇上から降り、去っていった。
「が、学園長が殺されるだなんて……」
ヴェーターが俯く。
「学園長ってことはすっごく強くて偉い人だよね、殺されちゃったなんて信じられないよ!」
シキですら笑顔を失っていた。
「…………………」
リゼットはただ黙って下を向くだけだった。
リゼットだけでは無い。スピカもまた、静寂の瞳でゲラーテがいた壇上を見つめていた。
四人それぞれが悲しみや困惑、そして疑惑の感情を抱きつつその場を去ろうとした時
「ちょっといいかな」
背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。
振り向くと、そこにはメルティが佇んでいた。
表情こそ穏やかではあったが、その顔の奥には何か緊迫した感情があるように見えた。
「君たちに頼みがあるんだ」
四人は黙って彼を見る。
「今回の事件、僕は犯人の捜索に動こうと思っててね。それで君達にも協力してもらいたいんだ」
「「えっ……!!」」
突然の提案に、シキとヴェーターが目を丸し口を揃えた。
「もちろん学園も捜査するだろう。けれど相手は学園長を殺せる程の強さ。犯人を見つけたところでむしろ返り討ちにされる可能性が高い。だから、僕や君達のような魔術士が必要だと思ったんだ」
メルティは曇り一つ無い程の真剣な眼差しで四人に告げた。
「で、でも…危険じゃないかな」
そんなメルティの提案に声を発したのはヴェーターだった。
彼の言うことはごもっともだ。
犯人はわからず、メルティの発言が正しければ自分達も危険に合う可能性は充分ある。
それに、ゲラーテからは学園内侵入禁止令まで出されていた。
この提案に乗るには、あまりにも危険が多すぎるのだ。
そんな彼の言葉にメルティは瞳を閉じ、静かに口を開く。
「そうだね、だから強制はしない。僕の提案に乗ってくれる気のある人だけ協力してくれればいい」
少しの沈黙の後
「いいわ。その話、乗ってあげる」
最初にその誘いに乗ったのはスピカだった。
「思うところがあるの。あの教師の声色と表情を観察していたけれど、私はどこか隠し事をしているように感じたわ。彼女は犯人を知っているか、もしくは彼女自身が犯人か…そこまでは分からないけれど、犯人は学園内にいる可能性が高いと思う。もしそうなら、私達の顔や家が知られてる以上、あなたの提案に乗るのが最善策よ」
スピカの目は、まるで全てを見透かすような瞳をしていた。
誰よりも観察することに長けた彼女だからこそできる予測。
その予想が正しければ、メルティの提案に乗る利点は充分にあった。
「スピカがするならうちもする!!」
次にシキが手を挙げ
「…………………わかった」
リゼットもまた、淡々と声を発する。
ヴェーターは少し考えた末
「ぼ、僕も協力するよ」
と、少し怯えながらも、勇気を持った瞳で声を上げた。
「ありがとう」
メルティは少しだけ微笑む。
「だったら俺もやる。学園行けねぇで自宅で安全にとか俺にはごめんだ。犯人探してぶっ殺すんだろ?なら俺も混ぜろ」
リゼット達の背後からアルケーが割って入る。
言葉こそいつもの彼とは変わらないが、その声と表情はかつてとは違う、まるで憑き物が取れたかのようなものだった。
「君は興味無いとか言って協力してくれないと思ってたんだけどな。変わったね、君も」
「うるせぇ。それに、今そんなことはどうでもいいだろ」
メルティは軽く笑みを浮かべ、そして五人に向けてつづけた。
「それじゃあ明日の朝、学園前に集合で」
五人は了承の合図を送ると、そのまま解散し、それぞれ大講堂を後にした。
そしてメルティはただ一人、誰にも気付かれぬよう気配を消し、学園長室へと侵入していた。
「…………」
部屋の中は荒れており、床にはまだ血痕が残っている。
「……これは………」
メルティはしゃがみ込み、床へ手を添える。
彼の掌に、微かに冷気を感じさせる。
まるで氷のように冷たく、そしてどこか痛くも感じられた。
「なるほどね……。」
メルティは静かに立ち上がる。
そして、何かを覚悟したかのような瞳で自分の掌を見つめた。
「スピカの言う通りみたいだ。流石は彼女といったところかな、犯人が大体特定できたよ」
彼は小さく呟くと、複雑な感情に表情を困らせる。
そして、窓の外を見つめながら小さく呟いた。
「ここにいられるのも、そう長くないかもね……」
メルティは暫くした後、学園内に誰もいないことを確認し部屋を去る。
彼の小さな足音だけが、静かに廊下へと響いていた。




