〈3-1〉日常裏の事件
魔法大祭が終わり、学園側から一週間の特別休暇が与えられた。
生徒達はそれぞれ実家で疲れきった身体を癒したり、次の学園内テストに向けて勉強に励んだり、街へ出かけたりと、思い思いの時間を過ごしていた。
そしてリゼット達は…
「突然呼ばれたから来たものの……」
呆れた顔でつぶやくスピカ。
その周りには、いつもの様にはしゃぐシキと、眠そうな顔で目を擦るヴェーター、そして静かに三人を見つめるリゼットがいた。
「シキ…あなた、なんで学園側から特別休暇を貰ったか理解してる?」
「うん!!魔法大祭頑張ったから、ご褒美でしょ!!!!」
「疲れを癒すため決まってるでしょ」
バシッ
「いたっ!」
純粋な笑顔で答えるシキに、いつものようにスピカのデコピンが彼女の額へ飛ぶ。
「で、でも、なんだかこうやってみんなで遊ぶのは久しぶりな気がするね」
そんな二人のやりとりを見たヴェーターが小さく笑みを零す。
「………………うん」
リゼットも小さく頷いた。
魔法大祭は昨日終わったばかりなのだが、それでも四人だけで街を歩く時間は、どこか久しぶりに感じられていた。
「でも、ここまで来ちゃったんだし……仕方ないわね」
スピカは深くため息を付くと、その視線をシキへと向ける
「どこに行きたいの?私達も付き合うわよ」
「じゃあ!!最初に美容院行っていい!?」
「美容院?」
ヴェーターが首を傾げる。
「うん!」
シキは自分の長い紫髪を両手で持ち上げる。
「戦ってる時すっごく邪魔だったの!!!だから、短くする!!!!」
「…………似合うと思う」
リゼットがぽつりと言う。
「ほんと!?じゃあ決まり!!!」
まず四人が向かった先は美容院だった。
数十分後。
「みんなぁああ!切ってきたよ!!どう!どう!!」
美容院からシキが万遍の笑みで飛び出す。
肩ほどまで切り揃えられた紫色のボブヘア。
長かった後ろ髪は無くなり、以前より活発な印象になっていた。
「に、似合ってるよ!」
ヴェーターが笑う。
「前よりもうるさくなりそうな気がするわ……。でも、かわいいわよ」
スピカは少し呆れ顔をしながらも、軽く笑みを浮かべてそう頷く。
リゼットは少しだけ目を丸くすると
「…………元気な感じが、似合う」
と、淡々と声を漏らす。
「ほんと!!やったーーー!!!」
シキははしゃぎながら両手を大きく上げていた。
その後も四人は街を歩き回った。
「そういえば、私もついでに本でも買おうかしら。魔導書とかあれば、みんなも役立つと思うし」
「じゃあ本屋に行こ!!!!」
と、スピカの提案で本を買ったり
「ね、ねえ」
「………………ん?」
「実は僕、しょ、小動物が好きで……えっと、ちょっと見に行きたいなって…」
「……………ペットショップ、行く?」
「い、いいの!ありがとうリゼット!」
と、ヴェーターの要望でペットショップで癒されたり
他にも屋台や雑貨屋……沢山の場所を四人で巡った。
楽しそうな三人の姿を見るリゼットは、自然と小さく、満ち足りた笑みを浮かべていた。
「…………楽しい」
誰にも聞こえないほど小さく。
それでも確かに、その言葉は彼女の口から零れた。
そして、気がつけばもう日が暮れる時間になってしまっていた。
「楽しかったーーー!!!!」
「うん、僕も楽しかった」
シキとヴェーターが満足気な笑みで話す中
「えぇ、でも…正直疲れたわ………」
と、疲弊した顔をするスピカ。
リゼットは表情こそあまり変わらぬものの、その瞳は小さく揺れ動き
(………………また、行きたいな)
と、心の中でそう呟いた。
────────────────
その頃。
同時刻、エウケー魔法学園にて。
「魔法大祭、凄く盛り上がっていたよ。やはり君をこの学園の主導者にしたのは正解だった、感謝するよ。氷晶の魔術師様」
窓から夕日が差し込む一室。その高級感溢れる部屋に一人座る老人。
彼こそがこのエウケー魔法学園の学園長、名はマグヌスだ。
「恐れ入るわ、マグヌス学園長。それにここは学園内よ?ゲラーテでいいわ」
その向かいに立つのは一人の女性教師、ゲラーテだ。
「五年前に君がここに就任してから、この学園も大きく変わった。まさかセフィラの魔術師である君がこの学園に就任したいと言い出した時は至極驚いたが、偶然か、それとも必然か。君のおかげでこの学園は良い方向へと進んでいる。私はそんな君を尊敬する。セフィラの魔術師としてでは無く、一人の教師として」
学園長はそう語ると、穏やかな顔でゲラーテを見つめた。
その瞳に宿るのは、尊敬の眼差しだった。
「いえいえ。魔術師を生む学園として、私なりに頑張ろうって思っただけよ」
言葉を返すゲラーテ。その顔は、魔法大祭で司会を務めていた彼女と何も変わらない。
「ハハ。まぁ座りなさい」
「失礼するわ」
ゲラーテは椅子へ腰掛ける。
しばらくは他愛もない話が続いた。
魔法大祭のこと、今年の新入生のこと。
二人は静かに、まるで昔からの友人と話すように話し続けた。
そして
「さて、もう夜も遅くなってしまうね。今日はありがとう、気をつけて帰りなさい」
学園長に言われたゲラーテは、ただ笑った。
そして、静かに学園長へと接近する。
「ねぇ学園長」
「どうした?まだ話し足りないことでもあるのかい?」
学園長は少し不思議そうな瞳でゲラーテを見つめる。
「今、一番恐れるべきものって…なんだと思う?」
それは、ゲラーテの口から発せられた突然の問い。
学園長は少し考え、静かに答えた。
「生徒達の夢が途絶えることだな」
「そう…」
ゲラーテはそう呟くと、穏やかな表情で、しかし冷酷な視線で返す。
「でも違うわ、それはまだ安い。本当に恐れるべきものは…」
ゲラーテの発言に学園長が眉をひそめる。
そして、まるで氷のような冷たい瞳で、言葉を続けた。
「─────それは、最も信頼する人よ。」
次の瞬間、突然部屋の床から氷柱が形成され、学園長の胸を貫いた。
「なっ……!」
その氷柱を中心に、学園長室は凍てつく冷気で染まっていく。
そして学園長の足元には、流れゆく血が広がっていた。
「き………さま…………………」
学園長は最後の力を振り絞り魔法を放とうとするが、その瞬間もゲラーテが氷の刃を形成し腕を切り落とす。
「ぐっ…!」
一瞬で全てが白く染まっていく。
「……………………」
程無くして、学園長は抜け殻のように動かなくなり、二度と動くことは無かった。
エウケー魔法学園の学園長はたった今、一人の女性教師によって殺害された。
静寂の中、ゲラーテが氷を解除する。
学園長は力なく膝をつき、そのまま前へ倒れた。
ゲラーテは倒れた学園長を見下ろす。
その表情にいつもの笑顔は無く、ただ冷酷な視線と不敵な笑みだけがあった。
氷のように冷たい口で、彼女は呟く。
「さぁ、始めましょうか………」
誰も知らない場所で、エウケー魔法学園を揺るがす大きな事件が幕を開けた。
そして、学園長の死は瞬く間に全体へと知れ渡ることとなる。




