〈2-19〉静寂と不穏の幕引き
「…………いくよ。傀儡魔法」
リゼットは手に持った人形を複製し、自身の周囲に浮かせる。
複製した人形の数は二十体。
メルティには既に複製できる人形の最大数がバレてしまっているため、スピカの時のような戦い方は出来ないだろう。
それに相手はあのセフィラの魔術師。例え魔法を解析したところで、それを攻略することは至難の業でもある。
彼女は人形のうちの十五体をメルティの周囲に配置し、複数の魔法を準備する。
「じゃ、僕も本気でいかせてもらうよ!炎魔法・獄炎ノ理想郷」
対するメルティも、会場全体を灼熱の炎で覆い尽くす。
その瞬間、何か危険を察知したかのように目を見開き、魔法を放とうとしていた人形を自身の元へと引き戻す。
そしてどこか焦りのような表情で風魔法を使い、空高く舞い上がった。
その表情を見たメルティは軽く微笑み
「たしか、シキが使ってたこの方法は君が元なんだっけ。それなら今回も空中戦ってところかな」
と、彼もまた炎魔法で上空へと昇る。
「…………光魔法・聖皇ノ剣」
しかし、リゼットは既にメルティが上に来ることは把握済みだった。
自身の元へと上がるメルティに対し、十体の人形を使い同時に光魔法を放つ。
魔法により形成された数え切れない程の無数の光の刃がメルティへと向けられる。
「嘘だろ、もはやセフィラ級の魔法でしょこれ……」
その矛先でメルティは、自信に向けられた魔法を見て驚愕する。
見ただけでわかる、それは世界でも最上位に君臨する者たちに匹敵するレベルの魔法だと。
「いやそれよりも、この子は一体どうやって…」
メルティが驚きを隠せなかったのはもう一つの理由だ。
これまでの戦いで見せてきた、人形の全てに同じ魔法を指示して集約させ、より強大な魔法として放つ技。
それ事態が本来有り得ないのだ。
傀儡魔法。その底知れぬ魔法の原理に、メルティは深く考えこもうとするが、今の彼にそれを考えている暇は無い。
「炎魔法・獄炎ノ戦鎚」
光の刃が放たれる瞬間、巨大な炎の鎚を作り出した。
上空から放たれる無数の刃を、炎の鎚が弾き返す。
しかしその刃の数は計り知れない程に多く、全て弾き返すのは例えメルティだとしても至難の業だった。
「はぁ…はぁ……」
息を切らし、その頬に多量の汗が伝うメルティ。
十数秒間に渡る光の刃の猛攻を何とか防ぐも、全てを防ぎ切ることは出来ず、メルティの身体の数箇所に裂かれた跡が残っていた。
「ここまで凄い魔法を使えるなんて、まるで天才の領域だ……」
メルティからは既に、普段の柔らかい表情は消えていた。
リゼットの実力を目の当たりにした彼に、余裕の欠片も残っていなかった。
そして
「君は一体、何者なんだい………」
純粋な問い。
たったそれだけの一言が、この戦いの終わりを告げた。
「…………………………っ!!!」
リゼットはその言葉を聞いた途端、突然その瞳を大きく開け、そのまま空中で蹲る。
「…………………………」
彼女の体はただ震えていた。
まるで何かに恐怖するかのように、ただ震えることしか出来なかった。
「リ、リゼット………!?」
観客席にいるスピカが突然立ち上がり、心配と不安の眼差しを向ける。
スピカだけでは無い。
観客席にいる誰もが、不思議そうな目でリゼットへと視線を向けていた。
「ど、どうしたんだ……?」
メルティは突然起こったリゼットの異変が気になり、ゆっくりと彼女へと近付く。
そして、その手を伸ばそうとした瞬間だった。
「……………………やめて」
静かに放たれた一言。それは紛れも無い拒絶の声だった。
「えっ…」
この状況にさすがのメルティもどうしていいのか分からず困惑する。
この場にいる誰もが、この状況をただ見守るだけだった。
そして、ただ静寂の時間だけが過ぎていく中、突然リゼットの複製された人形が全て解除され、彼女は静かに空から落ちて行く。
「おっと…………」
落下していくリゼットを受け止めるメルティ。
恐怖のせいか、彼の手に伝わるリゼットの身体はまるで氷のように冷たく感じられた。
「……ゲラーテ」
「あぁ…」
メルティはゲラーテに合図を送る。
「勝負あり!魔法大祭トーナメント戦、優勝は、メルティ!!」
誰もが待った優勝者決定の瞬間。しかし、ゲラーテの声にいつもの迫力は微塵も感じられなかった。
観客席からの歓声も、喝采も、何一つ無い。
静寂。
魔法大祭の最後は、ただ静かに幕を閉じることとなった。
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「ット!リゼット!!」
微かに聞こえる声。その声は徐々に大きくなっていく。
「リゼット!!!!!」
その声がハッキリと聞こえた途端、リゼットの瞳が開かれた。
「ぅぅう…リゼットぉおおおおおおおお!!!!よがっだよぉおおおおおおおおおお!!!!」
医務室で横になるリゼットに、シキが泣きつく。
辺りを見渡すと、リゼットが目を覚ましたことに安堵したスピカとヴェーター、そしてメルティの姿があった。
どうやらあの試合の後、気絶したリゼットをメルティがここまで運んできてくれたようだった。
「それにしても、一体何があったの…?」
「…………………………」
スピカの問に対し、リゼットはただ沈黙を貫くことしか出来なかった。
「…………」
静かに俯くリゼットを見たスピカも、これ以上はやめようとその口を閉じる。
「…………………私は…」
静かに開かれたリゼットの口から放たれた一言。
その続きを、彼女はまだ言うことが出来なかった。
皆が心配する中
「別に言う必要ねぇだろ」
突然、医務室の入口から聞こえてきた声。
視線を向けると、そこに立っていたのはアルケーだった。
「明かしたくねぇ恐怖なんて誰にでもあんだよ。それに、それを乗り越えるってのも楽じゃねぇ。俺だって今もあの時が忘れらんねぇよ」
そう言いながら、アルケーはリゼットの前へと歩み進める。
「お前も俺と同じ人間なんだ。どんなに魔法が強くても、弱い部分なんてあって当然だろ」
その言葉を聞いたリゼットの瞳が揺れる。
彼の些細な一言。その言葉が、自分の心を少しだけ動かしたような気がした。
「………………うん」
リゼットは自分の手を軽く握り、そしてベッドから起き上がった。
「……………心配かけて、ごめん」
リゼットは起き上がると、五人に向けて淡々と告げる。
「うんん。無事でよかったわ」
「だ、大丈夫そうでなによりだよ」
「うん!うん!リゼット無事でよかったよぉぉおお!!!」
「ほんとビックリしたよ。でも大丈夫そうだし、安心したよ」
「ふんっ」
そして、その後は少しの会話を弾ませた後、六人は医務室を後にした。
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魔法大祭が終わり、四人はまた並んで帰路を進む。
四人の会話は魔法大祭の話で盛り上がっていた。
大変なこともあったが、いつも通りの平和な日常が、確かにそこにあった。
だが、その日常はすぐに消えることとなる。
近いうちに起こる、ある大きな事件によって…




