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WitchDoll〜傀儡人形は夢を見る〜  作者: うつろ
Chapter-2【魔法大祭編】

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28/55

〈2-18〉過去を超えて

怖い。

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

負けるのが、一番じゃなくなるのが、ただ怖い。


あの少年のようになりたくない。

周りの眼差しを、その期待を、絶望させたくない。

名門の名を、汚したくない。


その日からアルケーは変わった。

誰よりも傲慢に、誰よりも一番であることに固執し、そして誰よりも努力した。

あの恐怖が、彼の人生を変えた。


「アルケー、またあの魔法おしえてよ!」

「黙れ弱者が、気安く話しかけてんじゃねぇよ」

アルケーに憧れる少年を、彼は見放すような瞳と声で突き放す。

そんな彼の姿に、少年はただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。


もう、昔のアルケーの姿はどこにもいない。

ここにいるのは、恐怖に支配され変わってしまった彼ただ一人。


(俺様が一番だ、俺様が絶対だ、俺様が……!!)

自分にそう言い聞かせた。

今も、そしてこれからも……。




──────────────────




「俺は最強の魔術士だ!名門に生まれた、誰もが憧れる天才なんだ!!だから俺が…!俺がこの先もずっと!一番にならなきゃいけねぇんだよ!!!」

あんな姿になりたくない。あんな思いはしたくない。

それは、今もずっと変わらぬ感情。

彼はただ、未だ恐怖に支配されていた。


そんな彼を見たメルティはそっと口を開く。

「そっか…。君はずっと、負けていたんだ」

「んだと…!!」

メルティの言葉に、アルケーは強く言葉を返す。


「過去の恐怖を乗り越えられない。自分を守ることしか考えてない。ただ支配されてるだけの君は弱いって言ったんだ」


メルティがそう言い放った瞬間、アルケーは拳を強く握りしめ、そしてその足で大地を蹴り飛ばす。

「うるせぇぇえええええええ!!!!!!」

拳に乗せた炎魔法。それはまるで、アルケー自身の心を表すかのように激しく燃えていた。


「だから言ってるんだよ、周りが見えていないって」

メルティは再び無数の炎魔法を放つ。


だが、血に飢えた猛獣が止まることは決してない。


メルティの攻撃を何発も何発もくらいながらも、その足は決して止まることはなかった。


(正気かよこの人……)

どんなに傷つこうと獲物に食らいつこうとするその姿に、メルティは目を大きく見開く。


「クソがぁぁあああああああああ!!!!」

アルケーは拳を大きく振りかぶり、メルティへと叩き込む。

しかし、メルティはすぐに余裕のある表情へと戻り、そっと口角を上げた。

「過去の自分にすら勝てない君が、この僕に届くわけないだろう」


その瞬間、メルティは拳を避け、そしてアルケーの背中に手を当てる。


「───────しっかり見なよ。これが、現実だ」


メルティはそのままアルケーを地面に叩きつけ、トドメの炎魔法がアルケーの体を包み込んだ。



炎が晴れた視線の先。そこには、まるであの時の少年のように地に顔を付け倒れるアルケーの姿。

彼はもう立つことすらままならない。どんなに力を振り絞っても、ただ拳を強く握りしめ、歯を食いしばることしか出来なかった。


「クソが!クソが!!クソが!!!クソがぁぁああ!!!!」

アルケーはその拳を地面に叩きつける。

何度も何度も、その拳から血が滲み出る程に、何度も。

悔しいんじゃない、ただ恐かった。


「はぁ……」

そんな彼を目にし、メルティは深くため息をつく。

そしてアルケーに手を伸ばし、彼を立ち上がらせる。


「周り、見てみな」

「…………………………」

ずっと俯いていたアルケーは、ようやく観客席を見渡した。


そこにあった光景は、蔑みでも、哀れでも無い。

弱者を見下す視線なんてどこにも無い。

ただ、二人の戦いに賞賛を送る眼差しと、喝采の音だった。


「ほらね?」

メルティは優しく笑みを浮かべる。

観客席の姿を見たアルケーの心が、恐怖という呪縛が少しずつ解けていく。

「誰も君を蔑まない。虐げない。あの日見た光景は、もう何処にもないんだ」

「……………………………」


言葉が出てこない。

ずっと自分が避けていたものの温かさに、初めて気付いた。

自分が恐れていたものなんてどこにも無かった。

自分を認めてくれる人は、ずっと近くにいたんだ。


初めて誰かの温かさに気付いたアルケーは、自然と涙を流していた。


「やっと、気付けたみたいだね」

「…………うるせぇ」

アルケーはそう言うメルティから視線を逸らし、小さく呟く。

そしてアルケーは静かに目を閉じた。

メルティはそんな彼をそっと背負い、拳をあげる。



「勝負ありぃいい!トーナメント戦準決勝、勝者は!メルティ!!!!」

ゲラーテが声を上げると、観客席からは大きな歓声と喝采が飛び交った。

そして、それを背にメルティはアルケーを抱えたまま静かに入場口へと戻って行く。

メルティも、気絶したアルケーも、その表情はどこか幸福を感じたような笑顔だった。




──────────────────




一方、準決勝Bブロックはと言うと……



「……………………終わった」

「え…………。しょ、勝負あり……。勝者、リゼット」

会場全体が沈黙に包まれる。

観客席の誰もがその結果に驚愕し、黙って見つめることしか出来なかった。



試合時間はたったの十秒。

開始と同時にリゼットが人形を展開し、全ての人形で光魔法を集約させて放った一撃。

たったその一撃で、この試合は終了していた。


「…………………」

リゼットは複製した人形を解除し、ただ静かに入場口へと戻って行く。

その瞳はどこか苦しそうで、そして哀感に満ちていた。




────────────────




トーナメント戦準決勝が終了し、決勝まで勝ち進んだリゼットとメルティ。

決勝の時が、そして魔法大祭の終わりがすぐそこまで来ていた。


「リゼットーーー!!!決勝進出おめでとぉおおおお!!!!」

医務室のベッドに座りながらシキが叫ぶ。

「うるさい。医務室では静かにしてなさい」

「いたっ!」

いつものデコピンがシキの額を襲う。

「シキの気持ちもわかるわ。けれど、まだ終わってないでしょ?だから賞賛を送るのは後よ」

そういうとスピカはリゼットを見つめ、再び口を開く。

「行ってらっしゃい、リゼット」

「ぼ、僕からも。頑張ってね……!」


三人からの声に、リゼットの瞳が大きく揺れる。

皆の気持ちが、声が、ただ温かかった。


「……………………うん」

リゼットはそっと胸に手を当て、瞼を閉じる。

三人の事を思うだけで、恐怖の感情が無くなっていく気がした。


「……………行ってくる」

決意に満ちた眼差しで、リゼットは三人を見つめる。

「リゼット!!頑張ってぇええ!!」

「行ってらっしゃい」

「お、応援してるよ!」


三人の言葉を背に、リゼットは医務室を後にする。




「さぁ!ついに来てしまいました!!魔法大祭トーナメント戦、決勝戦!!」

ゲラーテはいつもよりも激しく声を上げる。

「最後の試合を見せてくれるのは、この二人だ!!!!」


彼女の声が鳴り響くと、これまでの戦いを勝ち進んだ二人が会場へと足を踏み入れる。

三人の言葉を胸に、沈黙の表情でメルティを見つめるリゼット。

その瞳に、メルティは変わらぬ表情で微笑み返した。


沈黙に包まれた重いはずの会場の空気が、今はなぜだか軽く感じる。

リゼットはそっと人形を抱きしめると、メルティの瞳を見つめた。




「初め!!!」

ゲラーテの合図と共に、二人の魔法が同時に展開された。

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