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WitchDoll〜傀儡人形は夢を見る〜  作者: うつろ
Chapter-2【魔法大祭編】
26/40

〈2-16〉獄炎と霊魂

静寂に包まれる会場。

その中央には、シキを圧倒し会場を立ち去るメルティの姿と、炎に焼かれ倒れるシキの姿があった。


誰もがそう思っていた。


しかし…

「あっっっぶなかったぁああーーー!!!!!!」

シキを包み込む炎が消えた瞬間、そこに現れたのは、腕をぶんぶんと振り回す生き生きとした彼女の姿がそこにあった。

傷も、焼けた跡も、何一つ残っていたかった。


「…………は?」

背後から放たれた突然の声に、メルティは咄嗟に振り返る。


誰もが想像しなかったこの結果に、メルティが焦りの表情を見せる。

メルティだけでは無い。観客席にいた誰もが、呆気にとられた顔でシキの姿を見ていた。



「よ、よかった………」

元気なシキの姿を見て安堵したスピカは、胸に手を当て大きく息を吐く。

安心感からか、自分の心臓の鼓動が治まっていくのがその手に伝わる。

「………………うん」

リゼットもまた、小さく呟いた。


二人がシキの無事を確認し安心する中、会場ではただ一人、愕然とした顔をするメルティの姿があった。

セフィラの魔術師ともあろう彼が、格下の魔術士相手に恐怖さえも感じていた。


「嘘でしょ…どうやって……!いや、僕の炎は間違いなく君を燃やし尽くした。なぜ君は無傷なんだ、焼け跡のひとつも無いんだ」

メルティは問う。納得がいかない、説明しきれない。

あの攻撃は確実に当てたはずだった。

この状況を信じることができなかった。


「炎でぼわぁあー!ってなる時にね、思い付いたの!ゴーストちゃんに守ってもらえば大丈夫かなって!!!」


その言葉に、メルティはまるで困惑の眼差しで彼女を見つめる。

思い付き。シキはただそれだけであの攻撃を防ぎきったのだ。

あの一瞬で攻略した訳でも、攻撃を予測した訳でもない。

思い付いた、たったそれだけ。


「まさか、君のような子がこんなに危険だったなんて。意外だよ……」

メルティは小さく息を吐き呟くと同時に、シキへと向けられた眼差しを豹変させる。

「少し、本気を出させてもらうよ……」

その瞳に宿るのは闘志。

つい先程まで感じられた余裕の笑みは、もはや微塵も感じられなかった。


「わかったー!!じゃあ、うちも本気出すね!!!!」

そんなメルティとは正反対に、相変わらぬ顔でシキも答える。


そして、再び互いを見つめ合うと、シキは七体の幽霊と共に走り出す。

「いっけぇぇえええ!!!!」

会場を縦横無尽に走り回り、幽霊の風魔法を利用して宙を舞い、まるで予測のできない動きでメルティを翻弄する。

闇魔法ノクス!!いっぱい!!!!」

あらゆる方向から放たれるシキの闇魔法、そして幽霊達の放つ魔法がメルティを襲う。


炎魔法イグニス獄炎ノ理想郷(ヘルユートピア)

瞬間、会場全体か炎に包まれる。

「言ったはずだよ、本気で行くって………」

これまでとは違う規模の魔法。

セフィラの魔術師としての格の違いを証明するかのように、その魔法は会場全体を一気に灼熱地獄へと変えた。


「あちっ!!あちっ!!あちっ!!!」

燃え盛る業火に、シキは立っていることすらままならない。

しかし、シキもまたこれで終わるような魔術士では無かった。

「足があっつい!!!ゴーストちゃん、お願い!!!」

式が叫ぶと、七体の幽霊がシキの元に集まり、風魔法を放つ。

風に舞いあがるように空へと浮かぶシキ。

その姿を見たメルティは鋭い目つきで彼女を睨みつけ、そして不敵な笑みを浮かべた。


「それをやると思ってたよ…」


舞い上がるシキの周囲を、無数の炎魔法が囲う。

「空を飛ぶのはこれで二回目だろ?僕に同じ手が通用するなんて思わないことだね」

メルティがパチンッと指を鳴らすと、シキを囲む炎が一斉に襲いかかる。


「残念!!うちも同じ手は使ってあげないよーー!!!」

シキはそう言うと、幽霊の風魔法を駆使し、炎を避けて飛び回る。

「迷宮でリゼットがやってたやつ!!あれ、うちも真似してみたんだ!!!凄いでしょーーー!!!!」

リゼットから得た魔法。シキはそれを感覚一つでそっくりそのまま再現していた。


空すらをも縦横無尽に飛び回るその姿に、メルティは軽く口角を上げる。

「空を飛べるのは、君だけじゃないんだよね」

そう呟くと、メルティは軽く足を上げると同時に足元から炎魔法を噴射。

その勢いでシキを追うように宙を舞う。


「えぇええええ!!!炎魔法って飛べたのぉぉおおおお!!!!!」

ジェット機のようにシキを追うメルティの姿に、シキは目を丸くして叫ぶ。


「驚いてる暇なんて無いよ。炎魔法イグニス獄炎ノ銃弾(ヘルプルンブム)

シキの背後から放たれる炎の銃弾。

だが、彼女はそれを全て直感を頼りに避けていく。

「まだまだいくよ」

しかし、いくら避けても銃弾が止むことはない。いくら勘が鋭いとはいえ、何発も打ち続ければ避け切ることは至難の業となる。


「撃ちすぎ撃ちすぎーーー!!ゴーストちゃん、止めちゃって!!!」

あまりの数に避け切ることは不可能だと感じたシキは幽霊三体を後ろへ配置し、銃弾を受け止める役へと徹させる。


「じゃあまず幽霊から消させてもらうよ」

メルティは炎の銃弾を幽霊へと向けて連射。受け止め切ることのできなかった二体の幽霊は彼の前で消滅する。


「隙ありー!!!」

メルティが幽霊を相手している間、シキは更に上空へと舞い上がっていた。

「次は当てるからね!!!闇魔法ノクス無ノ深淵(ヴァクウム)!!!」

再び上空から放たれるシキの闇魔法。しかし、結果的にその攻撃はメルティにとって二回目の攻撃だ。


炎魔法イグニス獄炎ノ滅却(ヘルトルオ)

再び放たれる二人の魔法。しかし、今回はその二つの魔法が衝突することは無かった。

シキが放った闇魔法、それはメルティではなく地面に向けて放たれたものだった。

会場に直撃した巨大な闇の光線の影響で、会場に大きな土煙が舞う。


「ちっ……」

メルティは軽く舌打ちすると、すぐさま炎魔法を形成。

「ならば範囲攻撃で潰す。炎魔法イグニス獄炎ノ業爆(ヘルエクスプロシオ)!」

自分を中心に大爆発を引き起こすメルティの範囲魔法。

その大規模な爆発により、シキの幽霊が次々の消滅していく。

そして、その爆風により土煙が吹き飛ばされた。



土煙が晴れ、メルティがすぐさま周囲を見渡そうとした瞬間

「くらっちゃえ!!!!」

「───っ!!!」

背後から聞こえた声に咄嗟に振り返り、炎魔法を放つ。

しかし、それはあの爆発の中で唯一消滅しなかった幽霊だった。


そして、本物のシキが更にその背後から現れる。

闇魔法ノクスーーーー……!!」

再び振り返るメルティ。そして彼もまたすかさず炎魔法を繰り出す。

炎魔法イグニス……」

手を伸ばせば届いてしまうほどの至近距離。この距離で今、二人の魔法が衝突する。


暗闇ノ黒線(アーテル)!!!」

獄炎ノ紅線(へルルベル)!!」


同時に放たれた二人の魔法が、互いに押し合い、そしてその衝撃で二人は壁へと打ち付けられた。



そして、静寂が漂う中、先に声を上げたのは……

「負けたーーーーー!!!!!」

シキの方だった。

しかし彼女が放った一言は敗北宣言。

そう、シキはもう既に立つことすらままならないダメージを負っていたのだ。


そして、彼女の向かいでゆっくりと立ち上がるメルティもまた、満身創痍であった。

「本当に…危なかった………」

メルティはふらふらな身体でシキの元へと歩み寄る。

「本気の僕相手にここまで戦えるだなんて…ほんと、世界って広いんだね。ほら」

そういうとメルティは倒れ込むシキに手を差し伸べた。


「やっぱセフィラって強いんだね!!凄かった!!!ありがとう!ひゃくえんのまじゅつしさん!!!!!」


シキもまた万遍の笑みで返すが、それを聞いたメルティは呆気にとられた表情で指揮を見つめる。


「ひゃ、ひゃく……え?」


会場には、ただ静寂だけが残された。

メルティの勝利を発言するはずだったゲラーテもまた、シキの発言に呆気にとられる。

「メルティで、いいよ……。」

「わかった!メルティ!!!!」


どんなに空気が変わっても、どんなに状況が変わっても、シキの笑顔だけはずっと変わらない。

シキは試合の最初から最後まで、その笑顔を忘れることはなかった。


「しょ、勝負あり!!」

ゲラーテもその姿を見て我に返り、声を上げる。

「第二回戦Bブロック、勝者はぁぁああ!!メルティぃいいいい!!!!!」


ゲラーテの声と会場を包み込む歓声に囲まれ、二人の試合は幕を閉じた。

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